御石神(みしゃくじ)の由来
今は昔のことでございます。
その名の由来は、北側に位置する山の
いったいいつ、どこからやってきたのかはわかっていませんでしたが、村人たちはその石柱を『
*
ところでこの石神村では、昔から若く美しい女性ばかりが
しかしあるときから、一年に一度、秋の
人身御供に出される娘たちや、その親族にとっては悲痛きわまりないことでしたが、村のためだとみながあきらめて、毎年この
*
さて、今年もその儀式の季節がやってまいりました。
今年選ばれたのはお
彼女は育ててくれた法師から
しかし「自分のこんな命でよければ」と、村のため、喜んで人身御供になる覚悟だったのです。
*
ある日の夕暮のことです。
いつものように按摩の仕事をした帰り道、お花が
「これこれ、お花さん」
「はて、どちらさまでしょう……?」
その声はうら若い女性のものでした。
目が不自由とはいえ、それでむしろ気配に敏感なお花は、どこからともなく響いてくるその声を、とても気味悪がりました。
「わたしはこの蛇骨ヶ池に住む、カガシの
「はあ……」
杖を持っていないほうの手に何かが当たったので、お花がそれをつかんで指をすべらすと、確かにそれは、紙でできた
「あの、もし……」
お花は問いただそうとしましたが、その女の声が返ってくることは、もうありませんでした。
「はて、なんとも奇妙な……」
彼女は
ところでその
―― このおなごは今年の人身御供に選ばれたお花という者じゃが、お前さん、えらく腹が減っておると言っておったの。いますぐお前さんのところへやるから、祭りなんぞ待たずに、食い殺してしまえ ――
*
お花が寺の
石神さまのまつられている本堂のほうへ、杖をつきながら歩いていくと、どこからかまた、今度は
「お花よ、よく来たな。さあ、こちらへおいで」
その声はどうやら、本堂のかたわらに備えつけられている、
「くくく、カガシの女房め、さっそく送ってくれおったか」
お花はこわくなって、逃げを打とうと考えましたが、なんと体が勝手に動きだして、声のするほうへと、引き寄せられていくではありませんか。
「お花よ、俺は腹が減っておる。ふふっ、お前を食い殺させてもらうぞ?」
その言葉にお花はゾッとしました。
「あ、では、もしやあなたが……」
「おうよ。俺がこの山の
「で、では、まさか……」
「おうよ。毎年祭りのときに
「な、なんということを……」
「ああ、それと、そもそも『神隠し』をやっておったのもこの俺よ。そうとも知らず、くく、バカな村人どもよなあ。はは、おかしやおかし。すべてはその石神の『せい』になっておるのだからな。そこのうすのろは動けもせんし、しゃべることもできん。俺といっしょに天から降ってきたというのになあ」
「天から、いっしょに……?」
「おうよ。俺とそいつは、もともとはひとつの石だったのよ。この地に落ちて二つに分かれ、半分は俺、もう半分はそいつになったというわけさ。それがこの村の連中ときたら、俺の体を
「あ、あ、誰か、お助け……」
「無理だなあ、お花。おまえはこのまま、俺がたらふくいただいてやると決まっておるのだ。さあさあ、こっちへ来い、お花」
「あ、あ……」
お花の足は引っ張られるように、石燈籠のほうへと近づいていきます。
もうダメだ。
お花がそう思ったとき。
「ぬぐっ!?」
どうっと風が吹いて、お堂の
「あ、いったい、何が……」
本堂に閉じ込められたお花は、ハッと思ったのです。
石神さまだ。
きっと石神さまが助けてくださったに違いない。
「ああ、石神さま……!」
お花は
「石神さま、どうか、どうか、お助けください……」
正座をして手を合わせ、彼女は必死にそう念じました。
「おのれえ、
本堂の外から、厨子王丸のおそろしい声が響いてきます。
「はあっ、石神さま! どうかお助けください!」
お花はいっそう強く、石神さまに
「くそう、ここを
外からお堂を壊そうとする音が聞こえてきます。
気の触れてしまいそうなその響きに、お花はひどくおびえました。
「ああ、石神さま、石神さま!」
お堂の扉に
「お花あ、こっちへ来い! 俺はお前を、食い殺すのだあ!」
なんと、ごつごつとした石燈籠から「
正体を現した厨子王丸は、大きな手でお堂の扉を
お花は恐怖のあまり、体がすくんでしまいました。
「あ、ああ……」
自分はもう終わりなのか?
石神さま、どうか、助けてください。
お花は最後の力をふりしぼって、
「い、石神さまあああああっ……!」
彼女がそう
「あ、ぎゃあああああっ!」
厨子王丸の全身に、空から
巨大な石燈籠のバケモノは、おぞましい声でもだえ苦しみました。
「おのれ、まだこんな力が、残っておったか……」
あっという
「おのれ、おのれ……死ないでか、まだ、死ないでか……」
ボロボロになった石燈籠から、炎の目玉だけが飛び出しました。
「知らせねば、知らせねば……! わが命、
炎の
*
お寺への
息を吹き返した彼女の口から、ことのあらましが伝えられると、村人たちはおそれおののくと同時に、もう『人身御供』はしなくて済むという事実を、とてもうれしく思いました。
その後、粉々になった厨子王丸の
そしていつしか、この石神村のあった土地は、『
朽木九区の由来 朽木桜斎 @kuchiki-ohsai
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