置き忘れた夏の写真

わたくし

時は『昭和還暦』の頃……

 オレの友人グループの四人と、幼馴染のナツミの友達グループの四人は、中学校入学時から気が合って仲良く交流していた。


 中学三年生になると、その中で自然にカップルが成立していた。

 野球部のアキラと陸上部のヨーコ。

 化学部のサトシと演劇部のユミコ。

 生徒会役員のコウジと図書委員のチエコ。

 そして、写真部のオレと幼馴染でバレー部のナツミだ。

 四組のカップルは、中学生活最後の夏休みに海水浴場へ行った。


 駅でみんなと合流して、電車で海へ向かう。

 海に着くと女子は海の家で水着に着替る、男子は砂浜にパラソルを立てレジャーシートを敷いて準備する。


「おまたせ!」

 水着姿のナツミ達がやって来た。


 ユミコはオレの持っている一眼レフカメラを見つけて、

「ねぇオキ君、その凄いカメラで私達を撮ってよ!」

 そう言ったので、水着撮影会が始まった。


 まずは言い出しっぺのユミコからだ。

 ユミコの水着はパステルカラーのワンピースで、社交的で明るいユミコにお似合いの柄だ。

 オレは構図や露出を決めて撮影を開始する。

「さすが、写真部! カッコイイよ!」

 ポーズを決めながらユミコがオレをからかう。


 次はヨーコだ。ヨーコの水着は肌の露出が多いチューブトップのビキニだ。

「陸上の練習の日焼け跡を消して、綺麗に日焼けしたくて……」

 長身でスレンダーなヨーコの小麦色の体には、短パン・ランニングの形に日焼け跡が白く残っていた。

「だったら、少し焼いて綺麗になってから撮ってあげるよ」

 オレは言う。

「ありがとう」

 ヨーコは礼を言うと、早速レジャーシートに横たわり日焼けを始める。


 男子達一番の注目を浴びたのは、チエコだ。

 チエコの水着は可愛らしいフリルスカートの付いたワンピースだが、その中身が問題だった。

 普段の姿からは想像できない程の魅力的な体をしていた。

 出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいた。

 三つ編みだった髪の毛はポニーテールにまとめて、黒縁眼鏡はコンタクトレンズに変わって、とんでもない美少女に変身していた。

 オレが撮影している時、コウジが、

「俺は普段の方が好きだな……」

「でも、コッチの姿も良いな」

 と呟いていたのを聞き逃さなかった。


「オキ君、綺麗に撮ってね」

 ナツミがオレに上目遣いでお願いをする。

 ナツミは二人の時は「カズ君」と呼ぶが、他人が居ると「オキ君」と名字でオレを呼ぶ。


 ナツミの水着はユミコと色違いのパステルカラーのワンピースだ。

「この前、みんなで水着を選んだんだ」

「この色はユミコが選んだの」

 確かにこの色合いは、ナツミに良く合っていた。


 カメラのファインダー通してナツミを見つめる。

 そう言えば、ナツミの体をハッキリと見たのは初めてでは?

 いつもは隣にいて横目で見ているか、話をする時は顔だけしか見ていなかったな。長い間一緒に居たのに……


 オレとナツミは家が隣り同士で、小さい頃から一緒に遊んでいた。オレにとってナツミは『いつも隣にいる人』で『兄妹・姉弟みたいな存在』だった。

 いつも一緒にいるので、周りの人から公認カップルみたいに扱わていたが、オレ自身は身内みたいな感覚で恋愛感情は湧てはいなかった。


 ファインダーの中のナツミの姿は、バレーで鍛えた締まった体つきに女性らしい丸みを帯びた体のラインをしていた。ほんのりと脹らみ始めた胸とお尻がオレの目を刺激した。オレの胸の鼓動が早くなっていた。

 オレはこの時、初めてナツミを異性だと認識した。

 オレは「オレはナツミが好きなんだ」と確信した……


「なに、見とれているの? エッチ!」

 ナツミがからかう。

「でもオキ君に見てもらいたくて、コノ水着にしたんだよ……」

 頬を紅く染めてナツミはオレを見つめる。

 オレは自分の本心を心の奥に秘めて、冷静にカメラマンとしてシャッターを押す……


 撮影会が終わるとみんなで海を楽しんだ。オレは楽しむ様子や二人並んでいるカップル達をフィルムが無くなるまで撮影した。



 数日後、ハンバーガーショップにみんな集まって、現像した写真を披露した。

「欲しい写真があったら言ってくれよ」

「引き伸ばしたり、焼き増しをするから」

 オレは出来上がった写真を広げる。


「ユミちゃん可愛い」

「ナツだって可愛いよ」

「ヨーコちゃん綺麗に焼けたね」

「ありがとう、嬉しい」

「チーちゃん素敵だったよ、普段もコンタクトにすれば良いのに」

「でも、手入れが大変なの……」

 みんな写真を見ながら思い思いに感想を言い合う。


 オレは写真を見ていて、ある違和感を感じていた。

 写真の出来はとても良く出来ていて、被写体も元気に美しく捉えていたのに。

「でも、何かが足りない……」

 オレは黙って写真を見つめていた。

 周りのみんなも、写真の違和感を感じたのか、次第に口数が少なくなった。

 暫らくの沈黙のあと、ユミコは「アッ!」と小声で叫んだあとに言った。

「この写真、一枚もオキ君が写って無い!」

「ナツミの写真にオキ君を写すの忘れてる!」


 オ・キ・忘・れ・た・ナ・ツ・の・写・真



 バンザーイ!バンザーイ!

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置き忘れた夏の写真 わたくし @watakushi-bun

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