第百三夜 マンションで降霊術を教える大人
今のマンションは前の廃墟と違って割と新しいのだが、引っ越してきたとき中庭と玄関ホールあたり(古い言い方ではピロティとでも言うだろうか)に、なんとなく違和感があった。ただ昼間は子供が遊んでいることが多いので、気のせいか何かだろうと思っていた。
中庭と玄関ホールまではマンションの住人でなくても入ることができる。
しかしこの違和感の理由を、私はこの間知ることになる。夜21時頃帰宅したあたりだろうか。中庭で、わー、きゃー、と子供の黄色い声が聞こえた。なんだろうと思って見てみると、中庭の中央の四角い遊び場スペースのところで、女の子たちが一辺から一辺へ走ってリレーをしている。それを見守る真っ白なワンピースの女性が3人と、真っ黒なワンピースの女性が1人。大学生くらいだろうか。大人が子供の遊びを見守っているように見えるけど、これはよくない、と思った。この遊びは『スクウェア』と呼ばれる降霊術の一種だからである。
『スクウェア』は、一般的には4人で行われる。その方法は、まず四角い真っ暗な部屋の中に4人が集まる。そして4人が部屋の四隅に1人ずつ座り、最初の1人が壁に手を当てつつ2人目の場所まで歩き2人目の肩を叩く。1人目は2人目が居た場所に座り、2人目は1人目同様、壁に手を当てつつ3人目の場所まで歩き肩を叩く。2人目は3人目がいた場所に座り、3人目は4人目を、4人目が1人目の肩を叩くことで一周し、それを繰り返すというものだ。しかし、この方法では実際には4人目は1人目肩を叩くことはできず、一周するには5人目が必要だ。4人目は5人目が現れるまでL字を走り、5人目の霊が出現したとき、スクウェアが完成する、という一種の降霊術である。
この方法にはいくつかの亜種もある。
例えば、このスクウェアを模した遊びの中で、子供が夜になるに従って、1人また1人と減っていく。けれど4人以下になっても遊びは続く。降霊が成功し、5人目の人ならざる何かが現れるからだ。そしてもしかしたら子供が全員いなくなって、5人全員が降霊された霊に置き換わっているかもしれない。
白のワンピースの女性が3人、黒のワンピースの女性が1人、というのも解せない。司祭が1人、お付きが3人というのはよく見られる魔術的構図であるし、4人の魔女という考え方もある。
子供に降霊術なんかを教えるのには悪意がある。その子たちを道具に何かをしようとしているか、またはその子たちの不幸を願っているかである。
その後、昼間会った子供に、もうあの遊びはしないほうがいいよと伝えたが、たぶんあの魔女たちは、その遊びの他にも別の降霊術を子供たちを使って行うのだろう。
一人百物語 + うみのまぐろ @uminomagu
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