夜の女王と月下の騎士

草加八幡次郎ボロ家@リア充爆発しろ

プロローグ

 満月の夜にふたりは古城の庭園で数千年ぶりの再会に花を咲かす。辺りはふたりが放つ芳香に包まれている。


「おひさしぶりです。女王陛下。」


「カクタスさま。女王陛下はやめてください。以前のようにエピとお呼びください。あの日以来、雨の日も風の日も洪水の日も地震の日も山崩れの日も噴火の日も隕石が落ちた日もずっと、きっとあなたがここに来てくださるものとお待ちしておりました。」


「人族による無神経で卑劣な焼き討ち、枯葉剤、毒ガス、放射能汚染、飛び交う弾丸に肉をえぐられ手足が腐り落ちてもエピの側に戻ることだけを希望の光として逃げ伸びてまいりました。」


「王国はカクタス名誉騎士団長の生還を心より歓迎します。それと……カクタス……?」


 エピィフィラム1世はそっと顔をそらして続ける。


「約束、覚えていらっしゃいますでしょうか?」


「あぁ。もちろんだとも。」


 ふたりはこの戦争が終わったら結婚しようと約束をしていた。そのときはふたりとも世に流されるだけの民草だったが、今となっては自らの意思で制度を動かすやり手の女帝と、不屈の精神でどんな困難にもめげることのない最強の戦士として世をリードする側となっている。


 そもそもカクタスを戦場に送り出したのはエピではない。別れた後残ったエピが頭角を顕し、旧政府を打倒し乱立混乱する軍閥勢力でヘゲモニーを獲得してエピフィラム王国を建国した。どこに居て生きているかさえわからないカクタスに本人不在のままエピが勝手に贈った称号が「名誉騎士団長」であり、カクタスはエピィフィラム王国騎士団のメンバーの顔など見たことないし、そのような組織に属していたこともない。あるのはエピとともに過ごした幼少期の記憶だけである。

 あのとき君は若かった。遠い過去の約束だから、そんなものにとらわれずに今を追求してほしいから自分からは言い出せなかった。それでも君が望むなら、ぼくは従う。


「エピとともにこの地に根を張り、平安と繁栄を築いていきましょう。」


 これは、妖精族の女王エピフィラム1世と彼女の騎士であるカクタスとの千年の時を超えたラブ・ストーリー。

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夜の女王と月下の騎士 草加八幡次郎ボロ家@リア充爆発しろ @xka_jiro

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