第二章 旅の始まり。四人目の仲間。【港町サザンカ編】

第13話 ばかげた通行止め


 ゆっくりと馬車に揺らされながら、僕達はアスターさんの言う、港町サザンカへと向かっていた。


 馬車の中は凄く静かだった。

 原因は──。


「はぁ〜……ふぅ……最悪だ……」


 いつも話の起点を作ってくれるアスターさんが、早速酔い始めた事だろう。

 僕も色々酔いやすいタイプではあったが、アスターさんは三半規管が弱すぎるんだろう。


「アスターくんの思わぬ弱点、と言う奴でしょうか? そういう時は前の景色を見た方が、酔いを軽減出来るという話がありますよ? 道の先に目線を集中させて……」


「無理だ……目も体も何処か動かしたら吐く……。ここで旅が終わるくらいには吐く……」


 彼が吐かない様に強い揺れが来ないのを祈る中……。

 突然馬車の前方から声がした。


「君達〜! そこに居ると引いちゃうよ〜!」


 馬車の運転をしている人の注意喚起の声が聞こえる。


「ちょ〜っと待ってもらおか〜?! ここを通りたかったら、俺達に金払って貰わなあかんねん!」


 なんか聞き覚えのある方言だなぁ……。

 いやいや、そんな事考えてる暇ない……。

 敵襲?


「坊主、アイビー。降りるぞ……邪魔者が入ったみたいだからな……うっ……」


 アスターさんは酔いそうな体を無理矢理起こして、場所の外へと出て行った。

 僕とアイビーさんも彼に続いた。


 前方には、僕と同じ位の背丈の水色髪の男の子。

 アスターさんよりも大きい、ガタイの良い黄色髪の男の人。

 そして、自信ありげにこちらを見つめている赤髪の女の人の三人が馬車を止めていた。


 馬車を止めたであろう、水色髪の男の子が口を開く。


「俺達の自己紹介をせなあかんか〜? 俺達世紀の大盗賊集団! その名はストレリチアや! 出世と金の為なら、女子供でも容赦ないで〜! リーダー、どんな戦闘のエリートでも越えられんスピードを持つこの俺!ネモ!」


「パワーのオダマァ……! ガキと女とオッサンが1人! 余裕が過ぎて欠伸が出ちまいそうだなぁ! 

姉貴、リーダー! やっちまいましょうぜ!」


「そしてこのアタシ……美貌のナグサ! まずは、ボウヤからコッテンパンにしてあげるわ!」


 馬車を止めて、金銭を要求するのは盗賊と言うより蛮族の方じゃ……。


 そんな事を考えていると、自称世紀の盗賊の一派のナグサは、腰からナイフを抜いたかと思うと……。

 ──勢い良くこちらに投げつけて来た! 間一髪で避けれたけど、普通に致命傷になりそうだった。


「ちょっと! こっちは急いでるんですよ! どいてくださいって! 無益な喧嘩はしたくないんですよ……」


 そう言っても退いてはくれない。

 仕方がない、実力行使しか。

 剣を鞘から抜くと、目の前の彼女に対して構える。


「あ〜! あ〜! ちょっとボウヤ! 人様に刃物を向けちゃダメって親御さんから学ばなかったの〜?!」


「どの口が言ってるんですか! 先に向けたのはあなたでしょうが!」


「アタシは良いのよ! 親から学ばなかったから〜!」


 すんごい暴論……。

 そう言えば、この女の人以外の2人は……? 

 少し視線を外すと、アスターさんとアイビーさんが力とスピードか何かの2人と戦っているのが目に見えた。


「こ、この女! 素早くて攻撃が当たらん……リ、リーダー! 逃げましょうぜぇ!」


「私が素早いというより、攻撃が単調なだけですね。もう少し戦い方を工夫しては?」


 アイビーさんに、オダマという男は翻弄されている様だ。

 というか、攻撃は腕を振り下ろしてるばっかで避けやすそうだな……。


「なんでお前は図体と威勢だけは良くて、ちょっと劣勢になったらビクビクし出すんやドアホ! あだっ! おいオッサン! 人様が話してる時に殴るのはアウトやろうが! 反則や反則!」


「人様が旅行気分で旅を楽しもうとしてる時に……馬車止めて金せびって来た馬鹿共が言うセリフか? それか、もう一回殴って欲しいからそう言ってたりする?」


 アスターさんがそう言うと、ネモという男は顔と手を横に振って媚びへつらい始めた。

 

「いや〜! そんな事ありませんわ! ほんま旦那はお強いお方やわ〜! 尊敬しておりますほんま! なのでちょっとここはお慈悲という事で〜……?」


 遠目で見てもわかるくらいには媚びていた。

 アスターさんは、握った拳を崩し許した……。

 かと思ったらもう一回拳を作り、顔面を思いっ切り殴っていた。

 流石に可哀想だと思った。


「あ〜……ちょ、ちょっとボウヤ? 私達の仲間にならない? 今なら美人なお姉さんが着いて──」


 ナグサがそう言おうとした時、横から雷が飛んで来て彼女は声にならない悲鳴を上げた。

 アイビーさんが攻撃を避けながら笑顔で魔法を放っていた。

 怖い。


「あ〜! アカンお前ら! コイツら相手じゃあ分が悪い! 撤収や撤収、逃げるで!」


「リーダー! だから言ったじゃないですかぁ! 逃げましょうって!」


「くぅ〜……! 悔しいわ〜……! 覚えてなさいよアンタ達! 絶対次こそコテンパンの寺院行きよ!」


「姉貴、それを言うなら病院だと思いやすが! 

寺院と病院間違える事なんてありやすかい?!」


「うっさいうっさ〜い! 黙ってなさ〜い!!!」


「何ふざけた茶番しとんねん! 置いてったろか?!」


 彼らはそう言って、道の向こうへと逃げていった。

 とんだ嵐に巻き込まれた様で、どっと疲れてしまった。


「あいつらに感謝する事は、馬車から降りて酔いを覚ます理由付けが出来たってだけだな……さっさと馬車に戻るぞ〜!」


「来斗さん、あの女に何かされましたか……? お怪我なんてあったら、私……」


 アイビーさんの顔がだんだん暗く、不穏になって行く。

 な、何とか取り繕わないとヤバそうだ……。

 この人、なんか過保護な時あるんだよな……。


「怪我なんて無いですって! ほんと、ほんと! 

アイビーさんに魔法で助けてもらったじゃないですか! そのお陰ですよ!」


 こう言わないと、結構大事になる気がした。

 僕がそう言うと、アイビーさんはいつも通りの明るい笑みに戻った。


 今度何かと戦う事になったら、怪我しない様に注意しないとな……。


「早く戻って来いって〜! 処刑を待ってる罪人の気分なんだよ、今の俺……! せめてさっさと着いてくれないと、酔いで気が狂いそうだ……」


 アイビーさんと向かい合って笑うと、僕達は馬車へと戻って行った。

 あと少し、もうちょっとで港町サザンカだ。

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転移青年の手向け花(スイートピー) 〜異世界で出会った仲間と共に行く旅の果て、卑屈の殻を破って僕はあの場所へ〜 たいよね @taiyonekun

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