第12話 ようやく整った準備

 

 その後アイビーさんを連れて、カーランさんの家に行った。


 何故帰るのが遅くなったのか、とかそういう説教を食らったけど、大体僕が悪かったし……耳が痛かった。

 でも最後には心配していた、と抱き締めてもらった。罪悪感と同時にちょっとだけ嬉しかった。


 アイビーさんのことに関しては、特に魔族だ何だとかは言われなかった。

 その子は誰? という程度。


 彼女が言うにはアスターさんと会った時より、魔族のオーラを隠しているそうだ。

 オーラを隠すなんて出来る物なんだ……。


 というか、カーランさんみたいな魔法術師にバレない偽装って凄いな……。

 僕、負のオーラ駄々漏れって言われてたし……オーラの隠し方、教えて貰いたいな。

 彼女が言うには全種族共通の感情のオーラ、種族毎のオーラの違いがあるらしい。


 その後、宿屋に戻って明日の準備をしようとしていたけど、アスターさんが血涙さえ流しそうな表情でアイビーさんを相部屋に予約していた。


 そんなにベッドあったか? と思ったけど……当然みたいな顔で僕のベッドに入って来た。

 アスターさんはめちゃくちゃ引いた顔をしていた。多分、僕も結構引いていた。


 多分、異性とこうやって添い寝しても何の感覚も無いんだろう……男女のアレソレとか……。

 正直寝れなかった。

 思春期男子には刺激が強すぎたんだと思う。

 

 その後、目を覚ました時にはアイビーさんとアスターさんは居らず、帰って来た時には結構なお金を握って帰って来た。

 魔物の退治の報酬金を受け取って来たらしいけど、棲家から追っ払っただけだから、大丈夫かなとは思った。

 まぁでも、追い払ったと話して町長さんもOK判定を出してくれたらしく、不安は忘れて楽しく祝賀会に赴く事に。


 市民料理屋で今は贅沢をしようって事になったんだけど……基本、アイビーさんの食いっぷりを眺める会になってた。

 孫にご飯をあげるおばあちゃんって、こんな気分なんだろうな。

 凄いよ、あの人。一口は小さいんだけど無限に料理が吸い込まれて行く。

 彼女は魔族としては魔力量の調整が下手らしく、ご飯のエネルギーを変換して何とか保っているらしい。


 あ、お婆ちゃんと言えば……小鬼にお菓子を奪われたお婆ちゃんにもう一度会った。

 どうやら自分の事のように心配してくれた様で……お孫さんも連れて僕に感謝しに来てくれた。


 正直、僕はただ無謀な特攻しただけだった気もするけど……ここで謙遜するのも違うな、と思い素直にその感謝を受け取った。


 その後、カーランさんやアスターさん……アイビーさんも協力してくれる事になった修行に戻る事に。


 アイビーさんは魔法剣士らしく、どちらの修行にも付きっきりで手伝ってくれた。ちょっと嫌になる位には専門用語を聞いたけど……それでも、習得ペースは倍以上だった。


 それから、一ヶ月後。


「もう、自己防衛くらいは大丈夫そうね? 焦って習得が遅れたら困るし、ふざけて一年って言っちゃったけど……。一年でも焦ってたから、意味なかったかしら?」


「すいません、せっかちで……」


「まぁま、良いじゃんかよ! ようやく冒険の始まりだってんだから、ワクワク気分で行こうぜ! な?」


「来斗さんは大丈夫ですよ。私とアスターくんが危なかったら守りますから……それに、来斗さんは周りの影響を受けやすい方ですから。コツコツとした地道な修行より、旅路の最中に何か力を得る事の方が合っているでしょうね?」


 アスターさんはアイビーさんに出会った当初はツンケンしていたけど……今では、時たまご飯に行くくらいの仲だそうだ。

 本当に良かった。

 僕が間を取り立てたら良かったんだけどな……。


「でも、この修行で得た物は沢山……数えきれない程ありますから。カーランさん、ありがとうございました……そして、行って来ます!」


「ええ、ライちゃんなら大丈夫よ! 自信持って、魔王でも何でもぶっ飛ばして来てらっしゃい。あと、アスターはこの旅路が終わったらライちゃんを巻き込んだ事、謝りなさい」


「その結論はもう出ただろ! あともう謝ってるっての!」


「冗談よ、冗談……アイビーさんも、2人の面倒見てあげて。片方は子供、もう片方は子供おじさんだもの」


「誰が子供おじさんだお前……温厚な俺でも流石にキレるぞ……!」


「はい、承知しております……アスターくんも、来斗さんも。私達、三人が一緒に居れば大丈夫です」


「俺のくん付けもちょっと小馬鹿にされてる気がして来た……お前のせいだぞ! カーラン! だが……。アイビーの言う通り、この三人組ならなんでも案外行ける気がするな?」


 彼はいつも通りの調子で、ニヤッとした笑顔でこちらを向く。

 どうやら、アイビーさんも……そして、僕も同意見だった。


「もう馬車は予約しといたわ、あと5分程度で来るから……村の出入口辺りで待っておきなさい」


「げっ……馬車かぁ〜……」


 アスターさんはあからさまに嫌そうな顔をした。

 凄く前だけど、馬車が酔うから苦手って話を聞いた気がする。

 まだ数ヶ月程度しか経って居ないのに……あの頃から、とても長い時間が過ぎた気がした。


「背に腹は変えられない、かぁ……よし、お前ら!

目指す最初の目的地は……漁業が盛んな港町、サザンカだ!ちなみにめちゃくちゃ海が綺麗だ!」


「魚介類ですか……久しぶりに、海産物を食べられそうですね?」


「早速食べ物の話してる……アイビーさん、本当好きですよね……。まぁ、僕も久しぶりに魚介系食べられそうなので楽しみなんですけど……」


 がやがやと話している僕達の後ろで、カーランさんは優しく微笑んでいた。

 アスターさんもカーランさんの方を向くと、手を振った。


「じゃあな!カーラン」



「またね、貴方達」


 もうとっくのとうに5分は立ってしまった気がする……僕達は、早足で馬車の待つ出入り口へと向かった。

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