クランクアップ

 兄貴の死後、財産の全ては娘に残された。元妻はもう既にこの世に居ないからだ。元妻は娘の闘病生活を見続けて、絶望して自殺したらしい。

 社長(新体制派)から話を聞き、兄貴の娘の見舞いに行く。

 病室には大小様々な管を無数に刺している少女の姿があった。布団の下に隠れている腰から下がどんな形になっているか見えないが、聞く病状によれば肉が金属の塊に変わっているらしい。内蔵も少しずつ金属に置き換わっていて管を数本抜けば直ぐにでも死ぬらしい。


「父は死んだのですね」

「ああ。殺人鬼に殺されてね」


 ドナルド・トランプの死後、奴が逃がしたガキも殺して全てを闇に葬った。これで奴はヒーローじゃなくてただの殺人鬼アマチュアだ。

 兄貴も地獄の底で安心していられるだろう。


「また手術を受けてもらうけど、そしたら歩けるようになるよ」

「嬉しいですね。まだ生きていた甲斐があります」


 兄貴の遺産を全てつぎ込んで、日本にはまだ前例のない手術を合衆国で行ってもらう。失敗するか成功するか知らないけれど、成功すれば良し。失敗しても俺の人生という冒険は続く。

 兄貴はもう決断ができないから、兄貴の代わりに俺が決めた。娘には医者の方から説明してもらった。了承は得た。

 脳を摘出し、機械の身体に移し替える手術。だいたいロボコップ(草薙素子か?)になる手術。

 俺みたいに身体の一部を置き換えるとはレベルが違う。


「……怖くないか?」

「今更手術に失敗して死ぬくらい怖くなんかありませんよ」


 実のところ、俺は怖い。これが失敗すれば兄貴が今までしてきたことは無意味で無価値だったことになる。今更俺が生きようが死のうがどうとも思わないが、これは怖い。居るとは思わない神様に手術の成功を祈りたくなった。

 



 

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