もうこんな朝ごはんは嫌だ
藤泉都理
もうこんな朝ごはんは嫌だ
マーガリンとマーマレードジャムを塗った食パン。
オリーブオイル入りトマトジュース。
ブルーベリージャムと蜂蜜とチアシード入りのヨーグルト。
毎朝食べる定番に加えるのは、私は、季節の果物で、今日も、枇杷を三つ。
あいつは、季節の花で、紅の薔薇を一輪。
二台のミキサーでそれぞれ細かくして混ぜて、どろっとした液状のスムージーにして、と。
これで朝ごはんの完成です。と。
自作の歌を奏でながら朝食を作り終えた人間の女性、
もうこんな朝ごはんは嫌です。
斗斗都は人外である。
見た目は長髪で痩せ細っていて青白い二十代の人間の男性であるが、人間と何かの動物を複数組み合わせて創られたキメラである。
何の動物かは、不明である。
一定期間、研究所で教育されてのち、一年間、ランダムで選ばれた家で過ごし、人間として生きて行けるかどうか見極めるとの事。
莫大な報酬に釣られて受け入れる者も居れば、危険かもしれない、不気味だとの理由から拒む者も居るらしい。
澄子は前者である。
莫大な報酬に釣られて、斗斗都を受け入れた。
斗斗都の監視役であるAIロボット、
そして現在。
斗斗都を澄子が受け入れて、一か月が経った今朝の事である。
「もうこんな朝ごはんは嫌だ。って。あなた。最初に言ったじゃない。私と一緒のご飯を食べたい。でも、スムージーしか食べられないから、あなたの朝食をスムージーにしてくれって。そして、季節の花も入れてほしいって」
「はい。言いました」
「もしかして、毎朝同じだったのが嫌だった?でも私、マーガリンとマーマレードジャムを塗った食パン、オリーブオイル入りトマトジュース、ブルーベリージャムと蜂蜜とチアシード入りのヨーグルト、季節の果物じゃないと、働く気が起きない身体になっちゃったからこれは譲れないのよね。う~ん。だったら。別々にする?」
「いいえ。あなたと同じ朝食がいいです」
「え?でも、うん?どういう。あ!ごめん!もう会社に行かないと!」
澄子はコップに入れたスムージーを一気に飲み干すと、話はまた夕飯にと言って、急いで家から出て行ったのだ。
「あなたも学校に行く時間ですよ」
「はい」
茶芭に言われた斗斗都は、澄子と同じコップに入れられたスムージーをゆっくり飲み干すと、鞄を持って、玄関に向かい、誰も居ない家に向かって、行ってきますと言ったのであった。
すれば、茶芭が行ってらっしゃいと行ってきますを言ってくれるのである。
「喜んでいたじゃないですか。澄子さんと同じ朝食を口にできて、嬉しいと言っていましたよね?どうして、あんな発言をしたのですか?」
家から出て、鍵を閉めて、徒歩で学校へと共に向かう中で、茶芭は斗斗都に尋ねた。
「はい。言いました。嬉しかった。本当です。期間限定とはいえ、家族ですから、同じものを一緒に食べるのが、普通でしょう?普通を経験したかった。だからとても嬉しかったです。でも」
「でも?」
「例えば、家族でも、まったく、同じものを食べる必要はないと、学校での経験で学びましたし。もしかしたら、自分は、澄子さんに無理強いさせているのではないかと。本当はスムージーではなく、固体のまま食べたいのではないかと思いまして。なので。今日。あのような発言をしました」
「なるほど。澄子さんへの思い遣りから発生した言葉でしたか」
「怖かった。という事もあります。一年間、お世話になるのですから。嫌われたくないです。追い出されたくもないです」
「あなたが澄子さんに危害を加えない限りは、追い出される事はないでしょう。嫌われる可能性はあるでしょうが、人間社会においては、その感情はさして生活に支障を来さないので大丈夫ですよ」
「嫌いだったら、一緒に居たくないでしょう?」
「嫌いでも一緒に居られますよ。だって、膨大な報酬を前もって貰っていますから」
「………お金」
「はい。澄子さんはお金の為に、あなたを受け入れたのですから。あなたもわかっていた事でしょう?」
「はい。わかっていました。一年間の経験は、家族ごっこをする為ではなく、自分が人間になれるかどうかの試験であるとわかっていました。けど。一年間でも、自分は、澄子さんと家族になりたい」
「澄子さんに危害を加える意思がないのであれば、危害を加える行動を取らないのであれば、あなたの思うままに生きてください。家族は意見の不一致から、喧嘩もしょっちゅうするらしいですよ」
「喧嘩。も。実は、憧れています」
「言い争いは許容範囲内ですが、暴力は即、処分ですよ」
「はい。わかっています」
「おーう!斗斗都!茶芭!はよー」
学校の友人に話しかけられた斗斗都と茶芭は、話を中断して、友人の話に耳を傾けるのであった。
その日の夕飯。
朝食とは違い、メニューが決まっていない夕飯は、総菜だけで済ませる事も多々あり、今日は総菜の野菜コロッケと牛肉コロッケとレトルトカレーと白米である。
斗斗都はミキサーにかけてスムージーにして、澄子はそのまま食べた。
澄子は夕飯時はミキサーにかけないで食べていたのだ。
「え?まあ。ミキサーにかけないでそのままで食べたいって、思う時もあるけど。スムージーにしても結構美味しかったし。そうね。まあ、じゃあ。気分によって、スムージーにしたりしなかったりするわ。ありがとね。私の事を考えてくれて」
「澄子さんのバカ!」
「え?何で?今。怒られるところ?」
ぱちくり。
目を瞬かせた澄子に、もう一度バカと言った斗斗都の顔は真っ赤っかになっていた。
「ははは。斗斗都は照れているんですよ、澄子さん」
「え~。か~わ~うぃ~い~」
「澄子さんも茶芭さんもバカ!」
(2024.6.3)
もうこんな朝ごはんは嫌だ 藤泉都理 @fujitori
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