第二十七話 家へと案内される
なんやかんやで獣人の村に引っ張られる感じで入った俺は、ここである事を思い出す。
「あ、こうした方がいいな」
そう言って、俺はフェリスとシルフィに視線を向けると、呪文を唱えた。
「【我が意に応え、意識を逸らせ――《
そうして発動させるのは、他者からの認識を阻害する魔法。
これにより、他の獣人から認識されなければ、人間が中に入る事で起こりかねない面倒ごとも避けられる。
シュルトたちが、そのたびに一々説明するのも、面倒だろうしな。
「しかもこれは、認識阻害の影響を受ける相手を俺自身が選べるという特殊仕様になっている。だから、ミミたちはちゃんと視認できる……って訳」
「凄いです、お兄様! それほど複雑な魔法を、あそこまで圧縮するだなんて!」
俺の簡単な説明に、フェリスは目を輝かせながらそう言った。
「おー流石は召喚者君。でも私、そーゆー面倒な配慮は、嫌いなんだよね~」
そしてシルフィは、そう言って面倒くさそうに息を吐く。
風のように自由なシルフィらしいな。
……今の発言で、フェリスに滅茶苦茶睨まれているが。
すると、一連の会話を聞いていたのであろうシュルトが、どこか申し訳なさげに口を開く。
「そこまで配慮してくれて、なんかすまないな……。別に俺たちが言えば、大体は納得してくれるぞ。何せミミを、助けてくれたんだからな」
「いや……そう申し訳なく思わなくていい。これはただ面倒ごとを起こしたくないと言う、自己保身故の行動なんだから」
配慮してくれたと思うシュルトに、俺は誤解を解く様にそのような事を口にした。
だがシュルトは、「それでも、ありがとう」と言うと、先へと向かって行く。
その間、俺はずっと右腕はミミに引かれ、そして左腕はしれっとフェリスに捕まれていた。
「…それにしても、長閑と言う言葉が似あうな。この村は」
土を踏み固められて、作られた道。
区画が曖昧で、思い付きで建てられたのだろうと思われる木造の家の数々。
賑やか過ぎず、かといって閑散もしていない――そんな程よい感じの村は、俺にはどこか魅力的に見えた。
「なっ!? ミミか! 見つかったのか!?」
「え、マジかよ!」
「え、嘘……」
すると、道行く獣人たちが、無事な様子のミミを見るなり、口々にそう言って駆け寄って来る。
凄いな……これが村の――獣人の結束力みたいなものなのだろうか?
様子を見るに、皆ミミの事をそれなりによく知っているみたいだし。
「うん! ごめんね。心配させちゃって……」
「いやいや。無事でよかったよ」
「そうそう。まさしく、それに尽きる」
ミミの言葉に、皆口々にそんな言葉を投げかけて行く。
その言葉はどれも温かく、ミミがどれほど心配されていたのかが、一目で分かった。
これを見ると、あの時全力で助けて良かったと、思えて来るよ。
「丁度ついさっき、無事に帰って来てくれてな……事情とかはあとで言うから、今はゆっくりさせてくれないか?」
やがて、話にひと段落付いた所で、シュルトがミミの頭をぽんぽんと撫でながら、そう言った。
「ああ……そりゃそうだな」
「今気が付いたけど、服も随分と汚れている……というか、ほとんど布切れじゃない!」
「引き留めて悪かった。また、今度だな!」
そうして、皆は少しずつその場から去って行き、それに伴い俺たちも、先へと進む。
「あっ!」
すると、ここでミミが唐突に俺から離れて、駆け出した。
見れば、その先には1軒の家が見える
「あそこが、家か……」
やれやれと言った様子で、ミミの様子を眺めるシュルトを横目に、俺は思った言葉を口にする。
ガチャリ――
直後、丁度タイミングよく家のドアが開かれた。
そして、姿を見せるのはロングワンピースを着た、ブロンド色の髪と瞳を持つ、猫獣人の若い女性。
彼女は、駆けるミミの姿を見るなり、息を呑んで固まった。
「お母さん!!!」
その間に、ミミはそう呼んで彼女に飛びついた。
彼女はその勢いで一瞬よろけるも、上手く立て直すと、膝を付いてミミを抱きしめ返す。
「心配、したんだから……!」
そして、涙を流しながら、もう離さないとばかりに言葉を零した。
今度は母と子の再会。
「……うん」
その様子を、俺は後方で腕を組みながら、静かに見ているのであった。
そして、それから少し経ち。
2人が落ち着いた所で、俺はシュルトからの目配せに頷くと、同時に前へと向かって歩き出した。
「ふぅ……それで、シェリー。ミミは、彼らが救出してくれたんだ」
そう言って、俺たちを紹介するシュルト。
シュルトからの合図で、彼女を幻術の効果範囲から外した。
故に――見える。
「人間……!」
俺たちの姿を見て、目を見開く彼女。
だが、何かに気付いたかのような顔をすると、ミミを見やる。
「お兄ちゃんたちが、助けてくれたの~!」
そして、嬉しそうに話すミミを見て、彼女はぺこりと頭を下げた。
「娘を……ミミを助けてくれて、ありがとうございます。シュルトさんが連れて来たのでしょう? ……どうぞ、中へ」
「ありがとうございます」
こうして獣人の村に入った俺は、そのままミミの家の中へと、案内されるのであった。
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