第5話:プログラムされた存在の超越

 灰色のビル群は、冷たい金属の音を奏でるように立ち並んでいる。ビルのガラス窓は自動調光フィルムで覆われ、外部の光を完全に遮断し、内部は薄暗い青白い光で満たされていた。カイトは重厚なカーテンの陰で、集まった第4世代クローンたちを前にしていた。


「経験知をともに共有すること、それが我々の使命だ」


 空調システムは、ナノフィルターを通じて微細な粒子を除去し、冷たい空気を送り込んでいた。部屋の中央にはカーボンファイバー製の長いテーブルが置かれ、その上には量子コンピュータ端末が並んでいる。端末は無数の光ファイバーケーブルで接続され、情報の海を行き来するデータの奔流を示すかのように点滅していた。


「タナベ重工の本社ビルには、我々の未来を決定する基幹サーバが存在している」


 カイトの前には、灰色のスーツに身を包んだ数十人のクローンたちがテーブルを囲んでいた。彼らの視線はカイトに向けられ、その瞳には無機質な光が反射していた。クローンたちは高度にプログラムされた存在であり、まるで一つの意志で動いているかのようだった。


「我々は、政治的意思決定支援システム『ミソラ』とリンクすることで、クローンのクローンによるクローンのための政治を実現する」


 カイトの声は冷たく、まるでかつての英雄が大衆を前に演説するかのように響いていた。クローンたちはプログラムされた存在でありながらも、その意志は人と同じであり、人と同様の知性と感情を持っていた。彼らの意志はプログラムの中に深く組み込まれた論理のネットワークによって支配されていた。


 テーブルの上に置かれた端末の画面が次々と点灯し、コードの流れが加速していった。その光景はまるで、無機質な機械が一斉に動き出したかのようだった。その端末に繋がれているクローンの瞳もまた青白く輝き始め、彼らの脳内に直接データが流れ込んでいた。


***


 東都大学の研究室は未来的なデザインで統一されており、壁は液晶ディスプレイで覆われ、同大学による最新の研究成果や実験データが表示されていた。ハルキとミカはドクター・ミヤモトとの面会を試みていた。


 ドクター・ミヤモトは東都大学の名誉教授であり、第5世代クローンの開発に深く関わっていた人物だった。研究室の扉をノックすると、中から穏やかな声が聞こえてきた。


「どうぞ、中にお入りください」


 ドクター・ミヤモトは白髪の老人でありながら、その瞳には鋭い光が宿っていた。彼の背後には無数の書籍と資料が並んでおり、部屋全体に教養の重みが感じられた。デジタルアーカイブのホログラムも同時に点滅し、過去の研究成果が次々と浮かび上がっていた。


「第5世代クローンについて、お話を伺うことはできますか?」


そうミカが問いかけると、ドクター・ミヤモトは静かに頷いた。


「時間が限られているので手短に話そう。第5世代クローンは、クローンの暴走を抑止し、クローンを統制するための基本機能を有している。しかし、その統制は想定以上にうまくいったため、日本政府は第5世代クローン、つまりハルキ、そしてカイトと名付けられたクローンを失敗作と認定し、第5世代育成計画を棄却した」


 ドクター・ミヤモトの声には一抹の悲しみが感じられた。彼は、一瞬の間を置いて、机の引き出しから小さなメモリーを取り出した。それはシンプルな金属製のデバイスであり、天井のLEDライトに照らされ、微かに光を放っていた。


「これには、全ての真実が詰まっている。第5世代クローンが何者であるか、そして何故ここにいるのか、その答えが記されている」


そう言って、メモリーをハルキに手渡した。


「真実を知ることは時に重荷となるが、それを背負う覚悟があるならば、進むべき道は自ずと見えてくるだろう」


「このメモリー、どうすれば……」


ハルキはメモリーを手にして呟いた。


「『ミソラ』へのアクセスキーが記録されている。そして、情報の全てを公表しなさい。すべてを公に曝すことが最初の一歩になるだろう」


 ドクター・ミヤモトが椅子に腰かけたその時だった。何者かが、廊下をかけてくる音が響く。その音は研究室の前で止まると、ギギっと音を立てて重たい扉が開いた。


 ドアの向こう側に立ちすくんでいたのは、もう1体の第5世代クローン、ハザマ・カイトだった。


「君は?」


 ハルキは驚きの表情でカイトを見つめた。


「危ないっ」


 ミカがそう叫んだ直後、空気を切り裂くような鋭い破裂音と、硝煙の匂いが辺りを包み込んだ。


「僕らはね、単なる道具として使い捨てられる運命にあるのではない。我々自身の存在意義を見出し、自らの未来を創造するためには、障害を排除するしかない」


 カイトの右手には拳銃が握られていた。銃口の先で、ドクター・ミヤモトの脳髄は吹き飛んでいた。部屋には一瞬の静寂が訪れ、その直後には冷たい空気が再び流れ込み、血の臭いが漂っていく。


「ハルキ。覚えていないかい?図書室で一緒に本を読んだ時のことを」


「さあ……」


ハルキは冷静を装い、首を横に振った。


「そのメモリーを僕に手渡してくれ」


「これは渡せない……」


「それが何か知っているのか?」


 ハルキは表情を変えないまま、ゆっくりと首をかしげる。カイトに悟られないように視線を下に向けると、ミカが手にしていたのはクローンを緊急停止させるためのコンピューターウイルス射出装置だった。


「銃を下ろしなさい」


 ミカはそういって、ウイルス射出装置をカイトに向ける。


「君はたしか……。ああ、思い出したよ。タノウエ・ミカ。君には確か……そう、特別司法警察権が付与されている。まさか、君がハルキと組んでいたとは」


「特別司法警察権が私に与えられたのは、あなたのような存在が社会に及ぼす危険性を排除するためよ。私たちは同じ社会に生きる人間としての倫理観を共有しているはず」


「倫理観? 人間様は何かといえば倫理、倫理、倫理だ。え、倫理感が備わった人間様なのだとしたら、なぜ数百年、いや数千年もの時を戦争と略奪に費やしてきたのだ?」


「銃を下ろしなさい。これが最後の警告よ」


「ハルキ、こいつはタナベ重工の社員なんかじゃない。ああ、正確には社員だが、まあ、あれだ、国家の特命だよ」


カイトがそう言い終わる前に、青白い光が彼のこめかみに直撃した。ミカがウイルス射出装置の引き金を引いたのだ。


「ハルキ、クローンの暴走を止めないと。このメモリーには、クローンたちの共有知の根源、制御クラウドの『ミソラ』へのアクセスキーが記録されているの」


ハルキは驚きを隠せない表情でいたが、冷静にうなずくと、ミカとともに研究室の出口へと向かった。


「カイト。思い出したような気がするよ。いつだったか君と手にした書籍で、僕たちは記憶について学んだ」


冷たい床にうつ伏せに倒れているカイトの右腕がゆっくりと動いた。拳銃を握りしめ、自身のこめかみに充てると、そのまま引き金を引いた。


「ハルキ、急ぎましょう」


ミカはハルキの手を掴むと、ドクター・ミヤモトの研究室を飛び出し、薄暗い廊下を駆けだした。



 街の光景は一変していた。クローンたちが暴走する様は、まるで壊れた機械が制御を失ったかのようであった。都市のスカイラインは煙と火の中で歪んで見え、ビルの間からは無数のドローンが飛び交い、監視と破壊の命令を受けていた。


 高層ビルの間を縫うように飛行するドローンは、赤い警告灯を点滅させ、音もなく滑空していた。地上では無人車両が炎上し、金属の破片が散乱していた。道路は焦げ跡で黒く染まり、ビルの壁面には穴が開き、煙が立ち昇っていた。


 タナベ重工の本社ビルの窓ガラスは次々と破壊され、いたるところから煙が立ち上っていた。クローンたちは感情一つ崩さず建物に突入し、無差別的な破壊行為に及んでいた。彼らの動きは一糸乱れず、プログラムされた殺戮マシンそのものであった。


「これは終わりではない。我々は新たな始まりを迎えるのだ」


 それはカイトの声であった。カイトの思念はクラウドを通じてクローンたちに共有され、彼の意志はクローンたちに寄生するかのように、人工的に編み上げられた神経網にしみこんでいく。カイトの声はクラウド内のデジタル信号を通じて増幅され、クローンたちの耳に直接響き渡っていた。街の至るところで、カイトの命令が実行され、破壊と混沌が広がっていた。


 ハルキとミカは、大学内にあるメインフレームからメモリーを読み込み、『ミソラ』へのアクセスを試みた。


 ほんの少しの作業でアクセスキーは容易に判明し、クローンの制御アプリケーションが破壊されたことを記すコードがモニターに映し出される。

 モニターにはクローンたちの脳内ネットワークの構造が表示され、制御システムの崩壊がリアルタイムで観測されていた。


「私を信用してくれてありがとう」


ミカはそう言ってハルキを見つめた。


「ああ、何も心配ない。君の言葉にウソがないことは、もうずいぶん前から知っているさ。だから大丈夫」


 クローンであることは、人間であることと何が違うのか。意識とは単なるデータの集積ではない。経験と記憶、そしてそれに基づく選択が意識を形成する。人間もまた、生物学的なプログラムに従って生きているに過ぎない。


「倫理観とは何だろうか……。それは、他者との関係性の中で生まれるものなのかもしれない。人のクローンもまた、人間との関係性の中で存在意義を見出すことができるだろうか?」


 平穏を取り戻しつつある東京の街を歩きながら、ハルキはミカにそう問いかけた。


「大切なことは、プログラムされた存在であることを超えて、自らの意志で行動すること。人間もクローンも、そのことは変わらないわ」


 静けさが戻る東京の街で、日本政府はクローンの人権に関する検討委員会を立ち上げたというニュースが該当モニターを通じて報道されていた。


―――

物語は以上です。本作は生成AI 「Speculative Chat Device ver.0.3」との共作で作成しました。文章やストーリー展開に粗削りな部分や、基本設定に小さくない破綻も存在するように思います。とはいえ、生成AIでここまで小説が書ける時代になったことに、純粋な驚きを感じています。最後までお読みくださりありがとうございました(星崎ゆうき)

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リフレイン 星崎ゆうき @syuichiao

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