【二十首連作】短歌に內在せる倭謌…或は奇譚 ― 牟禮 ―

すらかき飄乎

牟禮



靑垣あをがきたたなはるなへ八十隈やそくまたたねらゆらし直向ただむかふ山


さくみ磐根いはね八十隈やそくまくまちず花咲く見れどが名知らずも


八十隈やそくまたたねもころたたねつる皺襞ひだ奧處おくか下情したごころ


この道は踏分ふみわけし道なりやけものか人か方便たどきも知らに


藪拔けて猪群ゐむらを見つも子も親もしまを見てげて失せつも


山賤やまがつになるだにかたし人ならぬししさへさかる吾にしあれば


淸水しみづ汲むさは埀水たるみ石灑いはそそ水沫みつぼの先の靑淵あをふちの底


水底みなそこ鹿つのを見つ根のあればけだし死にけむ牡鹿さをしかあはれ


うちに白き鹿つの海中わたなかあはびはら眞珠たまなすかぎる


しはぶかひあゆみを止めつ煩行なづみゆく山路を更にこごしくもあるか


血のまじ唾吐つはくとへどあらずて血無きもむなしはぶかひつつ


磐根いはがねにいかかる人に寄り見れば今日か昨日かみまかりてけむ


草枕くさまくらたびにしあればいもが手をかず孤寐ひとりぬみましあれ


岩枕いはまきてやせる君は未必うたがた味寢うまいねじ片袖を


おほかみか熊かみけむ家のみかうで亡失うしな自臥ころふす君は


夕されば夜床よどこむに人音ひとおとも絕えぬる山に火影ほかげか見ゆる


岩窟いはやにはわらはあり火をきて十ばかりなる童女たわらは一人


かばねよりぎてや來けむよりき齒を立ててたゞむき


血のまじ唾吐つはきてなれは食はじとてあざけらすこゑ動響とどろ


しはぶかひかつまじを吐きてくもぬるもかみ隨意まにま







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