第47話 グラモネ老人、真実を語る【第一部完~第二部へ続く】

 ウォルターはラーバスとの戦いに勝利した。


 グラモネ老人の強制睡眠すいみん魔法で眠らされたラーバスは、自分の――ラーバスの診療しんりょう所に運び込まれた。


 一方、グールたちも担架たんかで公民館に運び込まれた。


 白魔法医師たちが様子を見るらしい。


 私、ウォルター、パメラ、ジャッカルは外周がいしゅう地域の公園で、元白魔法医師長のグラモネ老人に色々質問した。


「なぜラーバスは人をグールさせ、一時的とはいえ自らもグールさせたのでしょう?」


 私がそう質問すると、グラモネ老人は意外なことを言いだした。


「ラーバスのことはよく知っているよ。彼は危険な戦闘国家のジャームデル王国の第二王子だ」

「ええ? 王子?」

「ところが第一王子ではないから王にはなれない。彼は兄の第一王子に嫉妬しっとし絶望していた。そのとき、私の弟子になり白魔法医師の道を選んだのだ」

「ラーバスにそんな過去が……」


 そういえばグラモネ老人がこの街に来たとき、ラーバスは深く頭を下げていた……。


「だが彼は私の弟子になっているときも、ずっとジャームデル王国の監視下かんしかに置かれていた。父親のジャームデル国王の言いなりだ」

「そうだったのですか。ラーバスこそが、ジャームデル王国ともっとつながっている人物だとは思いませんでした」

「ふむ――その後、私が白魔法医師を引退しルバイヤ村に行ったときも、ラーバスは私についてきた。しかし私は彼を追い出した。彼はやみの道に進む研究をひそかに進めていたからだ。その後、ゾートマルクの街で改心し真面目に白魔法医師の仕事をしているのだろうと考えていたが、甘かったな……」


 彼はグラモネ老人がこの街に来たときに喜んだそぶりをしていたが、本当はかなり動揺どうようしていたはずだ……。


「これは憶測おくそくだが、ゾートマルクの街のグール計画を率先そっせんし実行していたのも彼だと思う。ゾートマルクの監視員かんしいんをも統率とうそつしていたはずだ。父であるジャームデル国王に自分の仕事を見せたかったのだろう」

「ジャームデル王国はなぜ人々をグールさせたがったのでしょう?」

「人をあやつ最適さいてきな方法を探していたんだろう。ジャームデル王国は世界一の戦闘国家だ。国民全員を戦闘に参加させれば、恐ろしい戦力になりえるからな」

「でも、ラーバスはそんなことを本当に望んでいたのでしょうか?」

「きっと父王のジャームデル国王にめてもらいたかっただけだ。目が覚めたら問いただそう。その前に牢屋ろうやにぶち込まねばならんが……」


 私はため息をついた。


 彼はパメラのことを診察しんさつしてくれた。


 ウォルターに聖騎士せいきしになれとすすめてくれた。


 そこまでは優秀な白魔法医師であり、助言者だった。


「私たちにとっては親切な人に見えました。しかし、すべてはラーバスがジャームデル王国の野望を完遂かんすいするための仮の姿だった……というわけですね」

「その通りだ。一応、白魔法医師としてのほこりは失ってはいないのだろうが」


 グラモネ老人はうなずいた。


 ポレッタはラーバスの様子を見に行っているらしい。


 彼女はラーバスを愛しているはずだ。


 私はそのように思えた。


 ――私は話題を変えた。


「ローバッツ工業地帯に、ターニャという子どもの死霊しりょう患者かんじゃがいます。ターニャはなぜ、離れた場所で死霊しりょう病になってしまったのでしょう?」

「ふむ……君の質問の答えは簡単だ。ジャームデル王国が、様々な国にあの『グール赤ワイン』を流通させているからだ。ローバッツ工業地帯にも、商人によって住人の手にわたっている可能性は少なからずある」


 グラモネ老人はしばらく考えながら言った。


酢酸鉛さくさんえんによって甘く飲みやすくなった赤ワインは子どもでも飲めてしまうからな。親が栄養補助ほじょ飲料としてだまされて、商人に売りつけられてしまったということは考えられる」


 これはローバッツ工業地帯の村に戻り、確かめてみる必要があるだろう。


「問題はグール沈静ちんせいし、死霊しりょう病の状態に戻った人々だ。私はグールについて研究を重ねた。しかし死霊しりょう病については何も分からん。――アンナ、君ならどうやって死霊しりょう病を治癒ちゆするかね?」

「するべきことは分かっています。死霊しりょう病はなまり中毒患者かんじゃです」


 今度は私が答える番だった。


「リモネというっぱい柑橘類かんきつるいがあります。レモンとも言いますが……」

「ほほう?」

「体内のなまりとリモネのさん結合けつごうさせてしまうのです」

「な、何と? 死霊しりょう患者かんじゃに、リモネの果汁かじゅうを飲ませるということだな?」

「はい。しかし、それだけは単に民間療法りょうほういきを出ません。やはり積極的に魔法によって、なまりとリモネのさん結合けつごうさせて尿にょうとして外に出してしまうのが一番でしょう」

「う、うーむ! 何という奇想天外きそうてんがい発想はっそうなのだ!」

なまり中毒の治癒ちゆ方法は聖女医学の医学書に掲載けいさいされているはずです」

「し、しかし、リモネのさん摂取せっしゅするのは胃に負担ふたんをかけそうだな……。一度牛乳などを飲んでから、果汁かじゅう摂取せっしゅさせるか……ふむ」

「……アンナ、いったん、グラモネ様たちを連れてローバッツ工業地帯に戻ろう」


 今までだまって聞いていたウォルターが提案ていあんした。


 するとグラモネ老人はうなずきながら言った。


「ふむ……君たちはなかなか素晴らしい。行動力もある。……我々と協力して大病院を建造しないかね?」

「ええっ?」

「昔、そういう計画があったが頓挫とんざした。しかし、今の君たちならばできそうだな」


 そしてグラモネ老人が気づいたように言った。


「そういえば、ラーバスがウォルター、君のことを『白色はくしょくの王子』と言っていたな」

「は、はい」


 ウォルターがうなずき、グラモネ老人は続けた。


「実は君の『ウォルター・モートン』という名前で気づいた。私のかんが正しければ、君は大国グランディスタという王国の王子だと思う」

「ええっ?」


 ウォルターも私も目を丸くした。


 ウォルターはあわてて言った。


「わ、私はグレンデル城近くに捨てられていた捨て子ですよ」

「グランディスタのモートン一族といえば有名な王族だ。赤ん坊を旅立たせるのがつねでな……。グランディスタでは赤ん坊に白いころもに身を包むのがならわし。それを『白色はくしょくの王子と呼ぶ。そして旅立った王子はウォルター・モートンと言うはずだ」


 なぜラーバスはウォルターが「白色はくしょくの王子」であることを知っていたのだろう?

 

 おそらくジャームデル王国の情報網じょうほうもうで、様々なことを知っていたのではないかと思う。


 ◇ ◇ ◇


 翌日よくじつ、私たちはグラモネ老人と白魔法医師たち五名を連れて、ローバッツ工業地帯の村に戻った。


 ルバイヤ村からはゾートマルクの街に明日、十名の白魔法医師が来るらしい。


 私の次の目標は……!

 

 死霊しりょう病とグール患者かんじゃ、体にパンの毒素を持った患者かんじゃの完全治癒ちゆ


 私たちの大病院を建造すること。


 そしてウォルターと一緒いっしょに、幸せにらすことだ。


【第一部完~第二部へ続く】

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聖女と騎士団長様の濡れ衣逃避行~婚約破棄と指名手配から始まる愛の癒やし旅 武志 @take10902

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