第46話 ウォルターの戦い

 グールしたラーバスは蒸発じょうはつしかかっている腕をさえながら声を上げた。


「ゆ、許さん!」


 しかしウォルターは少しずつあゆみを進め、今度は剣でラーバスの胸をこうとした。


 だが――。


爆発魔法イクスプロシオン!」


 ラーバスが呪文をとなえると周囲が爆発した。


 ウォルターが爆風ばくふうで吹っ飛ぶ。


「ウォルター!」


 私はあわててろうとしたが、パメラに止められた。


「あんたは聖女だよ! 戦いでは足出あしでまといになるだけ。愛する男の戦いを見てな!」


 するとウォルターはちゅうで体をひねり――着地した。


 爆風ばくふうには巻き込まれたが、体はきずついていない!


 私はホッとした。


「うぬっ……。爆発魔法イクスプロシオンけただと?」


 ラーバスが声を上げたとき、ウォルターは再度、右ななめ上から剣を振り下ろし――。


 また蒸発じょうはつする音が聞こえた。


 ラーバスはウォルターの剣で左肩から鎖骨さこつまで、かれていた。


 そして切断面せつだんめん蒸発じょうはつしている……!


「うっ、うぐぐ……」


 ラーバスはうろたえたように見えたが、彼はそのとき笑ったようにも見えた。


「――目覚めよレ・ヴァンタルシェ!」


 ラーバスは聞いたことのない魔法の呪文を唱えた。

 

 魔族の古代語か?


 その瞬間、ウォルターの周囲に眠っていた五名のグールたちが起き上がったのだ。


 睡眠すいみんから目覚めさせる魔法だ!


「むっ! や、やめろ!」


 ウォルターがグールたちに取り囲まれつかまれた。


「よせ! どいてくれ!」


 しかしウォルターは反撃はんげきできない。


 グールは人間なので手を出せないのだ。


 ラーバスはウォルターの優しさを計算していたのだろう。


「ハハハ! 雷撃魔法トゥルエノ!」


 ラーバスは形勢けいせい逆転を確信したのか、笑いつつ攻撃魔法をとなえてきた。


 ちゅうからかみなりが発生し――ウォルターは背中に雷撃らいげきを受けたおんだ。


「ウォルター!」


 私はさけんだがもうおそい――。


 ウォルターの体からけむりが出ている……。


 一方、ウォルターを取り囲んでいたグールたちは皆、雷撃らいげきで気絶している。


 ラーバスはもう一度、雷撃らいげき魔法をとなえようとしていた。


「もう一撃いちげき――雷撃魔法トゥルエノ!」

「おーっと! そうはいくかって」


 ……そんな声がして、何かが切りきざまれる音がした。


 え?


 何者かがラーバスの左にいて、ナイフでラーバスの左腕をいていたのだ。


 見覚えのある銀髪ぎんぱつの少年……。


 ネストールだ!


「あいつ! いつの間にゾートマルクの街に来たんだ?」


 パメラが声を上げた。


「お、お前……何者だ?」


 ラーバスは苦痛に顔をゆがめてネストールを見やった。


「ローバッツ工業地帯から女王たちが帰ったから、こっちに来たよ。この街に美味うまいパン屋ある? ラーバスさん」

「き、貴様きさま……! わ、私の雷撃らいげき魔法の詠唱えいしょう途中とちゅうで……邪魔じゃましおって!」

「ウォルター! 今だ!」


 ネストールがさけぶと、ウォルターはヨロヨロと立ち上がった。


「よ、よせ! くそ、もう一度、雷撃らいげき魔法を……!」


 ラーバスは左手を前にき出そうとしたが、左腕をネストールにられているので腕が上がらない。


「ここだ!」


 ウォルターは今度こそ――剣でラーバスの胸をき刺した。


「う、うう……な、なぜだ」


 ラーバスの胸――おそらく心臓は蒸発じょうはつけだしている。


 するとラーバスの姿はちぢこまり、普段の青年の姿に戻ってしまった。


「ラーバスは死霊しりょう病をわずらっていない。だからグールの効果時間が短いのだ」


 グラモネ老人が言った。


 ラーバスはウォルターの前でひざをついたが、「こ、これで終わりじゃない」と言い――。


 ウォルターの首を両手でめだした。


 切りきざまれたもう力の入らない両腕で……。


 その両腕はふるえている。


「ま、魔族のやみを、お前に流し込んでやる!」


 ボロボロの両腕がやみの気に包まれる。


 あ、あのやみの気にとりかれたら……ウォルターがやみに取り込まれてしまう!


 しかしウォルターの顔は冷静だった。


 ウォルターはラーバスの腕をつかみ、そのまま彼の体を背負って投げた。


「ぐは」


 そんな声とともに、ラーバスは背中から地面に投げ落とされた。


 地面に寝転んだラーバスのひたいに、ネストールがナイフを当てがった。


「勝負あったね? ラーバスさん」

「う、うう……」


 ラーバスはそのまま気絶してしまった。


「ウォルター!」


 私はすぐにウォルターのもとり、彼を抱きめた。


 ゾートマルクの街は昼の太陽の光に照らされてかがやいていた。

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