第45話 裏切者の正体が判明!

「み、皆、来てくれ! グールだ! 朝からグールが出たぞおお!」


 外で自警じけい団の若者たちが声を上げている。


 たくさんの住人がグールしている!


 その数――約四十数名!


「ひ、ひいい! こ、この公民館の中にいれば安全なのか? た、助けてくれぇ!」


 ゴランボス氏はいかつい顔をゆがめて、私たちにうったえた。


「いや、ここにいるのは危険だ」


 ウォルターが首を横に振って言った。


「グールした人間が入り口をこわして入ってくる。建物内に逃げ場は少なく、僕らは追い詰められるだろう」


 ウォルターが言うと、ジャッカルもうなずいた。


「街の入り口付近なら逃げ場があっていいぜ。公民館内の人々を集めて、村の入り口付近に走ろう!」

「そうね――。皆さん、思い切って外に出てください! ここにいると危険です。街の入り口付近に移動してください!」


 私はパメラと一緒いっしょに、公民館内にいる人々に声をかけてまわった。


 公民館内の人々――四十三名が集まったところで、外に出ることにした。


 朝の青空の光が私たちを包む。


「う、うわあああ」


 パメラが声を上げた。


 街中にグールがたくさんいる!


 とんでもないさわぎになっていた。


 外周がいしゅう地域も内周ないしゅう地域も関係なかった。


 グールたちは民家の壁、商店街の看板をこわして回っている。


「あいつら!」


 ジャッカルは自分の武器の八角棒はっかくぼうを手に取った。


「ダメ!」


 私は叫んだ。


「彼らは人間です! 一時的にグール化しただけです」

「……そうだ。彼らを傷つけることはできない。元は人間だからな」


 ウォルターは真剣をしまい、そのまま白魔法医師たちとともにグールに立ち向かおうとしていた。


「ウォルター!」

「アンナ、大丈夫だ。見ていてくれ」


 ウォルターは私にそう言ってグールに向かっていった。


 グラモネ老人は叫んだ。


「よし、強制睡眠すいみん魔法を使おう!」


 グラモネ老人とルバイヤ村の若い白魔法医師たちは強制睡眠すいみん魔法をとなえ、次々とグールを眠らせていった。


 そしてウォルターも強制睡眠すいみん魔法を使っている!


 ウォルターは白魔法が使えるようになっていた。


 驚いた――彼は本当に聖騎士パラディンになっていたのだ。


 睡眠すいみん魔法によってグールは眠り、倒れていく。


「な、何とかなったみたい。これでグールは全員眠らせたか?」


 パメラが言った。


「しかし……誰が住人に注射を打ったんだろう」

「おや? 橋のところに誰かがいるぞ!」


 ジャッカルが橋の方を指差して声を上げた。


 外周がいしゅう地域と内周ないしゅう地域をつなぐ開閉式の橋の中央に、女性が一人、立っているのが見えた。


 まだグールがいるかもしれない!


 彼女を助けなくては。


 おや? 女性は後ろを向いているが見覚えがある……。


 だけど遠くにいるので誰だか確信かくしんがもてない。


「さあ、一緒いっしょに街の入り口まで避難ひなんしましょう!」


 私は後ろを向いている女性に向かって叫んだ。


 あれ?


 この女性――。


「近づかないで!」


 聞き覚えのあるかわいらしい女性の声が聞こえた。


「アンナさんたちはこっちに来てはいけません!」


 女性は私たちのほうを向いた。


 ポレッタだった。


 まさか、ポレッタが魔族の薬剤デモン・メディカを人々に打っていた張本人ちょうほんにん


 いや――。


 今度は外周がいしゅう地域の建物のかげから、ポレットが立っている橋に誰かが歩いていくのが見えた。


 男性だ――。

 

 その男はすぐに誰だか分かった。


「ラーバス……!」


 私は思わず声を上げた。


 あの白魔法医師のラーバス・アンテルムが……ポレッタと橋の上で対峙たいじしている。


 ラーバスは注射器を持っていた。


 私は声を上げた。


「ラーバス! 早くこっちに来て。グールした患者かんじゃ診察しんさつを始めてください!」

「そうですよ、ラーバス先生! アンナさんの言う通りです。そんなところにっ立ってないで……」

 

 ポレッタの言葉を聞いたラーバスはニヤリと笑い、自分の左手の平に注射した。


「手の平に注射すると、まんべんなくいきわたるんです。悪魔のささやきが。魔族の薬剤デモン・メディカが!」


 ラーバスは注射しえ、注射器を捨ててそう叫んだ。


 すると……!


 彼の体がふくれあがった。


 顔色は幽鬼ゆうきのように真っ白になり、身長――約二メートル三十センチほどの着物を着た巨人に変身した。


 巨大グールだ!


「ラーバス……! てめぇ、裏切者だったんだな!」

 

 ジャッカルが叫んだ。


「やるしかねえ。こいつは本物の魔族だ!」


 ジャッカルが橋に近づき八角棒はっかくぼうを構えて声を上げた。


 橋の周囲には白魔法医師たちも集まり、強制睡眠すいみん魔法をとなえだした。


「そんなものは効かぬ!」


 ラーバスが右手を横に振った。


 するとポレッタやジャッカル、白魔法医師が風圧で吹っ飛んだ!


「何という力だ」


 ウォルターが真剣を引ききつつ、橋に近づいて声を上げた。


「しかし、今度は僕が相手だ。ラーバス、残念だよ。君を信頼していたのに」

「ほほう、白色はくしょくの王子か。よかろう、相手になろう」


 白色はくしょくの王子? どういう意味だろう?


 するとラーバスは思い切り右腕を振り上げて、ウォルターを手で横にたたはらおうとした。


 あ、あんな力技を体に受けたら、ウォルターだって骨折じゃまない!

 

 しかしウォルターはそれを後ろにんでけた。


 よ、よかった。


「ここだっ!」


 ウォルターは真剣を振り下ろした。


 何かが蒸発じょうはつする音がした。


 ウォルターの剣がラーバスの右腕の一部をいていたのだ。


「う、ぐぐっ……。こ、この男……」


 ラーバスがうめいた。


 彼の大きな腕の一部が蒸発じょうはつしてけだしている。


「あれは聖騎士パラディン白の剣術ヴァイス・グラディウス!」


 グラモネ老人が声を上げた。


「ウォルターよ、見事! 才能だけで聖騎士せいきしの技を習得してしまったか!」

「う、うぐぐぐ……」


 グールしたラーバスは蒸発じょうはつしかかっている腕をさえながら声を上げた。


「ゆ、許さん!」


 ゾートマルクでの最後の戦いが、今、始まろうとしていた。

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