宙に限りがないように、夢にだって限りはない。

 自慢の嗅覚で以て、辺りを見渡すタヌキ。正直、そろそろアタリをつけてほしいところではある。ロボットには、嗅覚がないのでできないことだけれど。ロボットにはロボットにしかできないことがある。そうやって、お互いを補いあって、みんな結局上手くやっているんだ。……なんか妙に黄昏れたようなことを言ってしまったけれど、現状はそんな悠長なことを言っていられない。
 不審者が目の前に降ってきたからだ。不審者、というよりは災難というべきか。とにかくのっけから怪しさ満点なのはやめてほしい。満点というなら、満天の星空を眺めていたい。……っと現実逃避もこれぐらいにして、ほらタヌキも嫌がってるでしょ!
 と思っていたけど、どうやら訳ありのようだね。なるほど……だから食い気味にハアハア言いながら近づいてきたのか……。でも、旧世界が滅ぶ原因を作った機械を使って飛ぶのは……どうだろうか? 別に止めはしないけれど、諸刃の剣のように思えてならない。最も、剣では空は飛べないのだけれど。
 空への憧れが強いペンギン。相棒の言うことはわからずとも、その意図はくみ取れていたのは、信頼か、はたまた絆の成せる業か。相棒に話す夢のような話は、無限に広がっていって、その夢に乗っかるように相棒が飛んでくれる。その果てを目指して、力が果てるまで。誰だって、「未知」に対する期待は大きいもの。その未知に触れたいと思うし、その先へ手を伸ばしたいと思うもの。たとえ、それに遥かに見合わないリスクが伴おうとも。
 それを体現するかのように、戦況が悪化し戦場の空を飛ぶように。
 他の竜騎士とは一線を画すその武器は弓。槍でも投擲できる武器でもない。正確に的を狙って、引き絞り放つその一撃は非常に強力。……であるが故に、目を付けられるのも早かった……。世間一般の常識という理から幸か不幸か断りを入れられ、偶然にも生き残るペンギン。混乱の最中、相棒の行方も安否も知れずただただ彷徨うばかりの日々。空っぽの脳に、知識を詰め込むように書物を読み漁る中、一筋の光明のように差し込んだ噂。
 それは紛れもない、自分の相棒だった。片翼で何度も飛ぼうとするその姿を思い浮かべては、目頭が熱くなった。片翼で飛ぶのは、さぞ大変だろう。片棒だけでは、さぞ不安定だろう。その失った片翼は、支えるべき片棒は、ここにいるぞ。二人で一人なのだから。
 魔法使いの言によれば、ドラゴンは魔法的生物であるという。強く飛びたいというその思いそのものが魔法となっていると……。
 ペンギンの相棒に対する思いの重さに比べれば、用意する材料の重さも苦労も軽い軽い! なんて軽口は必死に頑張ってくれた魔法使いさんが不憫に思えるので心の中にそっとしまっておきます……。
 タヌキはロボットの設計図を持って、バーバリアンの元へ。皆がペンギンをどうにか飛ばしてやりたいという、魂のバトンが着々と渡されていきます。そしてそれを最後に受け取るのは……。
 装置が完成し、万全の体制を整えたペンギンが登場。その眼には、強い意志が宿るのみ。ここまで皆でつないできたバトンを受け取ったペンギンがついに、片翼の竜の元へ。夢に見るほどに、久しぶりな相棒との再会を喜ぶのも束の間。それは、最果てを見てからでも決して遅くはないのだから。
 いや、もしかすると遅いのかもしれない。今のうちに再会できた喜びに浸って、戦場から狙われない、高度を保ったまま飛行し続けるのが良いのかもしれない。それ以上を望んでしまったら。それより上を目指してしまったら。
 それでも彼らはその身が果てることも厭わず、突き進むのでしょう。まだ見ぬ未踏の地へと。未踏の空へと。夢という大きな翼を広げて、その空の果てまで。