最終話 どうぞお大事に It's Over
「お前の部屋はここだ」
高利貸しの追い込みに会い、金を女詐欺師に騙し取られたことを訴えたが、当然向こうには何ら関係ない話。俺は、莫大な金額の借金を抱えることになった。そして、そのままワンボックスに乗せられて、着の身着のまま連れてこられたのは漁港だ。
大きな船に無理やり乗せられて、ひとつの部屋に案内された。部屋の扉には張り紙がしてあり、英語で何かが書いてあったが、俺には意味が分からなかった。
部屋は四畳半……よりも全然狭い。でもひとり部屋で、ベッドはあるし、エアコンもついている。シャワーとトイレもあるのがありがたい。ついたてしかないけど……。これで食事さえ出てくれば、空腹はしのげるし、何とか生きていくことはできるだろう。
船の上だけにゆらゆらと揺れているが、直に慣れるかな。慣れないと……船酔いが本気でヤバい。普通に呼吸しているだけなのに、何だかこみ上げてくるものが……うっぷ。
俺は気分転換に船の中を探検しようと扉のノブに……ノブに……
ノブが無い! 開かない!
ドドドドドドド……
船のエンジン音が船内に響き渡る。
揺れも少し大きくなったので、おそらく船が出港したのだ。
俺は生きて日本の土を踏むことができるのだろうか……。
ガチャリ
突然扉が開き、大柄な黒人さんがふたり入ってきた。船員さん……漁師さんかな? 手に持っているのは、この扉のノブだと思う。このふたりは部屋から出られるのだろう。俺は借金を返し終えるまで、きっと遠洋で漁を行い、それが終わればここで監禁。そんな生活が待っているのだ。
絶望する俺を見てニコニコしているふたり。トートバックに何か色々と入っているようなので、歓迎会でも開いてくれるのだろうか。俺も落ち込んでばかりはいられないと、ふたりを見て愛想良くニコニコしてみた。
キィ…………バタンッ
扉が閉まり、通路側からはそんな三人の姿が見えなくなる。
扉の張り紙には、英語でこう大きく印刷されていた。
『Notice: No Glove, No Love!』
(通告: コンドームをしないなんて愛がないぜ!)
その下に手書きで、こう走り書きされている。
『There are exceptions to every rule.』
(どんなことでも例外ってのがあるけどな)
結婚詐欺 下東 良雄 @Helianthus
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