第5話

「愚か者め!!貴様、自分が何をしでかしたのか理解しておるのか!?」


 現在、パーティーが終わり別室で国王から直々に一対一のお叱りを受けていた。


「当然、理解していますとも」


 俺は毅然とした態度で返す。


「いいや、理解していない!おおやけの場であの様な敵を作る発言をするなど愚の骨頂だ!!」


「陛下は何か勘違いをしていらっしゃる。敵を作る?違いますよ。私がしたのは味方を作る発言です。実際、最も数の多い中位貴族にはウケが良かったでしょう?」


「問題はそこでは無い!貴様、派閥のバランスを崩すつもりか!?」


 この国では現在三つの派閥がある。一つは王の意向を絶対とする国王派。これは公爵や侯爵が多い。もう一つは過去のファルク王国の様に貴族中心の政治や経済を造る貴族派。大部分の貴族はこちらに所属している。そして、力も数も少ない中立派。だが、この派閥は民からの信頼は厚く侮れない。まぁ、正直これはあまり気にしなくて良い。善人の集まりだし、下手に刺激しない方が良い。


 そして、王が危惧しているのは俺が新たな派閥を作ってバランスを崩す事。こんな事をすれば彼らが今までして来た苦労が水の泡になる事だろう。


 まっ、俺の狙いはそこじゃ無いけどな。


「いいえ。私が崩すのは派閥の均衡です」


「…どういうことだ?」


 よっし!掴みは完璧!!お説教モードからお仕事モードに切り替わったな!


「私が貴族派の旗頭に成ります」


「馬鹿者!そんな事をすれば奴らが増長するだけでは無いか!?」


「ええ!増長させましょう!!誰も考えないでしょう。派閥の顔が裏切り者だなんて!!」


「なっ!ま、まさかお前は!?」


 王は目を見開き驚く。


 この様子から俺の狙いを大体察したことが分かる。


「ファルク王国に巣食う問題の中心にいるのは貴族派です。陛下の代であいつらの手綱を王族が握りましょう」


 そういうと、王は考え込んでしまった。


「……幾つか疑問がある。嘘、偽り無く答えよ」


 俺は無言で頷く。


「まず、お前が王になった後では駄目なのか?」


「それでは手遅れになる可能性があります。技術は日々進化しまています。私が王位を継承するのは最低でも十年後。人格破綻者どもに時間を与えたく無いのです」


 実際、最近の貴族派は少しきな臭い。前まではバレない様に奴隷の取引を細々とおこなっていた。だが、何故か今ではどこも頻繁に取引をしている。明らかな異常だ。


 まず間違いなく、良からぬことを考えているからさっさと動きを抑えたい。


「なるほど、では次だ。どう貴族派に認めさせ旗頭となる?」


「私の才能を見せ付けます。剣も魔法も他を圧倒して才能に溺れた天才と認識させます。そうしている限り必ず乗ってくる。無知で愚かな天才ほど御し易いモノはないのだから」


 まぁ、これに付け加えるなら、俺の身分も大いに関係がある。特に王族という部分。例えば廊下を走るなと注意する教師が廊下を走っていたら。果たして生徒は納得するか?


 する訳がない。説得力がないからな。つまりはそういう事だ。ルールを守るべきものが守っていなかったら、じゃあ、俺も。と考える。何故なら言い訳があるからだ。自分よりも上の立場の奴も同じ事をしている、というな。


 もっと簡単に言うと貴族派は言い訳が欲しいのだ。それと後ろ盾だな。もしもの時は王子に強要された。とでも言えば罰から逃れられるかも知れないしな。もっともそんな甘い奴はこの国には居ないと思うが。


「やはり、お前の考えていることは我ら王族の顔に泥を塗る行為だ。そして、民の信頼を裏切る事になる。どう対処する?」


「簡単です。王族の失態は王族が取り返せば良い。丁度よく優しく聡明な子が居るでしょう?」


「……エルクフィールの事か」


「はい、弟は陛下の善性を色濃く継いでいます。私を断罪するには充分な役柄でしょう。また、エルクの実績にもなる。更生の余地の無いクズな王太子を正しく裁いた英雄として民から支持されるでしょう。欲を言えば私を断罪する時には他種族の仲間が居て欲しいですが」


 何事にも実績は大事だ。しかも、エルク一人では無く今まで差別して来た他種族が俺の暴挙を止めれば貴族派どもは黙るだろうな。これは王族と一緒にってのが肝だな。


「あぁ、当然エルクが心を痛めない様に私はどうしようも無い程のクズを演じましょう」

 

「クリアノートよ、それはお前にしか出来ないのか?」


 この質問は予想外だな。王として子を切り捨てる覚悟はないか。人間味があって何よりだが、此処で潔く子を利用するのが王の選択だろうに。


「……私以外でも可能です。最適で言えば弟のエルクでしょう。ですが、この重荷をエルクに背負わせるほど不甲斐ない兄になった覚えはありません」


 王は俺の言葉を聞くたびに表情を暗くしていく。


「……では、最後の質問だ。事を成した後、どう責任を取り、どんな褒美を望む?」


「王位継承権の剥奪はもちろんの事、廃嫡から国外追放が妥当だと考えています。褒美についてはアイテムバックと国外でも生きて行けるだけの資金を頂きたく」


 アイテムバックはよくゲームとかである異空間保管庫の事で普通のバックサイズでも物によっては体育館ぐらいの容量がある。流石に時間停止などの便利機能はないがな。


 さて、概ね俺の考えは伝えることが出来たかな。中々良い提案だと思うが、やっぱ一人の親としては迷うか。王としては此処でパッと決断して欲しいがそこまで望むのは酷だな。


「……わかった。仔細、お前に任せる」


 今度は俺が目を見開き驚いた。


 ……意外だな。この場で決断するとは。


「ハハッ、意外そうな顔だな。流石のお前でも驚くか」


 顔に出てたか。というか、あんた笑えるのか。初めて見た。


「し、失礼しました」


「良い良い。今までは我の覚悟が足りなかった。我が子が此処まで覚悟を決めているのに我だけ逃げる訳にはいかない」


 なるほどな。王では無く、親として覚悟を決めたのか。

 ハハハ、何だカッコいいじゃんか。初めて親として尊敬ができそうだ。


「それより、計画はできているのか?」


 王はは少し恥ずかしく感じたのか話題を変えた。


 そんな王を見て俺は少し笑いながら


「勿論です。


 と言った。

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不死身の王太子は偽悪となって国を出る 山本 @ryoma1126

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