第4話

 挨拶を終わらせた俺は王からの後で話がある。という目線を無視して階段を降りる。


 おうおう、続々と来るな。予想通りにも程があるだろ……分かり易い。


 俺は少し呆れながら周囲を見回した。


 俺に目を輝かせながら近付いてくるのは侯爵家や伯爵家の人間ばかりで、子爵、男爵は我関せずの態度。公爵家は様子見。


 と、考えていたが不意に背後から気配を感じた。と言うか隠す気がゼロで自己主張の激しい。気づかない方が無理だな。


 俺はどうせ増長したどっかの中位貴族だと思い嫌々、後ろを振り向くと赤い髪を腰まで伸ばし俺を射殺さんばかりに目を細めた令嬢が居た。


 瞬間、俺は顔を背けて口元を手で覆った。俺の脳内は歓喜に溢れていた。


 まさか……まさか本当に公爵家が釣れるとは!?しかも、王直属の騎士団団長の娘!!

 

 そうか動くに決まっていたか!現団長は王国ひいては王に絶対の忠誠を誓っている。そんな堅物男に育てられた娘が俺の存在を認める訳がなかった。


「貴様!!先刻の宣言は一体どういうつもりだ!!!」


 赤い髪の令嬢が叫ぶ。あっ、奥の方で騎士団長が胃のあたり抑えてる。ちょっとウケる。

 

 クックック!上手くいきすぎて流石にちょっと気持ち悪いぜ!


 確かこいつの名前はヒルデ・グレイテスト。綺麗な真紅色の髪にルビーの様な瞳。父親譲りの吊り目。まだ、八歳児という事で体は未発達だが顔は良く本人の性格も正義感が強くそこを突けば比較的操り易いだろう。家柄も公爵家で十二分、更に初対面での王子である俺への無礼な発言から婚約も取り付けやすい。


 …………待て、思ったより完璧じゃね?考えれば考えるほど条件ドンピシャ。

 え?てかもうこいつで良いじゃん。俺、もうちょい時間が掛かると思ったんだが……と言うか、探すついでに警備の確認をしようとしたんだがな。


 まぁ、良いか。今回は運が良かった。

 後は、婚約の話を父と団長に持っていけば終わりだな。


「おいっ!聞いているのか!?」


 俺が考えている間も何か喋っていた様だが、俺の頭に一切入っていなかった。それが気に食わなかったのかヒルデは更に声を荒げた。


「貴様!自身の父を国王を敬う気があるのかと聞いている!?」


 ……んなもんねぇよ。感謝はあっても尊敬はない。現国王は中途半端だ。王としても親としてもな。手を汚す覚悟も無ければあらゆるものを利用するという気概も無い。挙句、仕事にかまけてガキどもの相手をする事もない。この時点で尊敬するべき点は皆無だろ。


 つまり、産んで育ててくれている事には感謝しても敬うつまりは無いという事だ。

 

 まっ、それを口に出すほど俺は馬鹿じゃないがな。それより、そろそろ相手をしなきゃ可哀想だな。


「先程から聞いておれば王太子である俺への態度がなっていないぞ」


「ふん!ようやく口を開いたか。まぁ、此処まで言われても何も言わなかったら臆病者だがな」


 ヒルデは俺を小馬鹿にした態度を崩さずに煽り続ける。


 「まぁ許してやる。今の俺は機嫌が良い。感謝しろよヒルデ・グレイテスト」


 俺の上から目線(実際に上だが)にヒルデは顔を真っ赤にして俺を睨みつける。


 子供らしく沸点が低くて助かる。


 「じゃあな、ヒルデ・グレイテスト。お前のその態度がいつまで保つか楽しみにしているぞ」

 

 俺はそう言ってその場から離れた。ヒルデは俺の言葉を理解していないのか固まったまま動かなくなった。


 そのヒルデを置いて俺は貴族連中と挨拶を交わしながら歩いてベランダまで行く。


「おや、王子殿下どちらへ?」


 途中、いかにも欲望丸出しな豚が俺に話しかけて来た。


 なんだっけ、こいつ。確かどっかの伯爵だったと思うが……


 薄い頭、似合っていない髭、常に汗が出るのかハンカチを額に当てている。


 漫画に出てくるザ・小悪党って感じだな。でも、俺は知ってる。こう言う奴はさっさと潰さないと絶対に余計なことをするってことを。まぁ、今手を出したら俺の作戦が全部パーだから何も出来んが。


「……黙れ。俺の道を遮るなよ、豚が」


「ッッ……申し訳ございません」


 俺がそう言うと顔を真っ赤にしてそれを隠す為にすぐさま頭を下げた。

 

 はぁ、あるかどうかは知らんがそろそろスキルに演技が追加されそうだな。と言うか、あれで隠せているつもりか?


 まったく、半端な傲慢野郎どもは沸点が子供並みだな。


 今日何度目かわからない溜め息を吐きながら数多くいる貴族たちをすり抜けながらベランダに到着する。


 やっと、着いた……暇な貴族が多すぎるだろ。ベランダに着くまで無駄な時間を過ごしたな。まぁ良いや。


 俺は目を瞑り周囲の気配を探る。


 《スキル:気配探知》つい最近身に付けたスキルであり、作戦の要の一つ。文字通り周囲の気配を探るスキルだが、途轍もなく便利で秘め事中には重宝している。


 ……大体、百人くらいか?意外と少ないな。

 あぁ、そっか、此処に騎士団長が居るからか。確か剣聖とか言われている天然チート野郎だったか。


 そうなると来年の弟も同じかもな。これなら問題はないか。……いや、《気配遮断》のスキルがあるだろうから油断は禁物だな。暗部とかも存在しているみたいだしな。


 ある程度、考えをまとめると俺は両腕を上げ、思いっきり体を伸ばす。


 今日の目的は達成できた。警備の確認、協力者の選定、二つとも完璧に達成。後は国王と騎士団長に協力を取り付けて終わりだな。


 はぁ、疲れた。さっさと仕上げしてフカフカなベッドで寝よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る