誕生、ハイトリン!

「で、私が生まれたってわけ!」


 古くからある御伽噺おとぎばなしを語っていたと思ったら、最後にハイトリンが鈴の音のような声でそう付け加えた。


「ウソだぁ。だって、樹海の東側はずっと巨木が続くだけだったぞ。それにハイトリンだって親は居ないって言ってたじゃないか」


「ウソじゃないもん。だって前はこんな話したって信じてくれなかったでしょ! ロスタルだって絶対アイゼパパの血を引いてるもん」


「いやいや待ってくれ。その鉄のアイゼンアイゼって、気に入った女を性聖の力で誰でも彼でも片っ端から妾にする王子だって恐れられていたんだろう? おまけに古代の帝国を滅ぼした大悪人だって伝説でも有名だぞ」


「そんな風に言うから話したくなかったの! けど、パパの子孫はたくさん居たはずだよ。だって、い~~っぱい女の子孕ませたもん」


「もっと悪いじゃないか!」

「確かにロスタルの性欲の旺盛さは鉄のアイゼンアイゼの伝説に繋がる部分がありますね」


「やめてくれディジエ……」

「それに、ロスタルはヴァタウとかラルバの血も引いてるって、絶対。似てるもん」


「ラルバって物語に出てくるオークじゃないか!」

「ロスタル、オークみたいにでっかいじゃん。あそこも!」


「オークはもっとでかいだろうが!」

「だからオークの血は薄いってば」

「確かにロスタルのはちょっと痛かったです」

「でっかいですよね!」

「オークのは別にそこまで大きい訳じゃないわよ。強壮なだけで」


「そっちの話に持って行かないでくれ……。てか何で知ってるんだバレッタ」

「仕事をしてると、そういう話も回ってくるのよ。あたしが相手したわけじゃないわ。それにロスタルならオーク並って十分誇っていいわよ。何人相手してると思ってるのよ」


 お茶を給仕してくれていたヴァリエも含めて皆が頷く。


「……だいたい勇者ヴァタウって鉱国の最初の王様だろ、しかも男の」

「女だってば」

「小柄な妻が居たと、古い聖堂の記録にもありますね」


「だからそれがパパだってば。背は低かったの、本妻のエイリスよりも」

「そんなちっこいのが毎晩何人もの妻の相手をしたのか? 信じられないな」

「私も、殿方はやはり背が高い方が嬉しいです。ロスタルのように……」

「でもその話が本当なら鉱国の最初の王様は側室ってことにならない?」


「ヴァタウはそんなこと気にしないもん。パパ大好きだったから」

「聖堂のお偉方に聞かれたらまた面倒なことになるぞ、それ」


 鉱国の歴史では、主神あるじがみ様の聖堂を起こしたのが勇者ヴァタウで、魔王と戦うために周辺の小国を集めて作ったのが鉱国ということになっている。つまり、鉱国の建国神話だ。


「待って待って。鉱国の歴史って二千年くらい無い? ハイトリンってそんな昔から生きてるわけ?」

「ううん。ちょっとエルフたちの妖精界に行っていたらタルサリアが無くなってて……」


「ちょっとってどのくらい?」

「わかんない。千年か、二千年か?」

「長いなおい!」


「向こうじゃそんな長いと思わなかったんだってば! むう!」

「そもそもエルフが住んでたのって樹海だろう? あそこは今、トロルくらいしか居ないだろ」


「エルフは妖精界に出入りできるから物質界こっちに顔を出してないだけだよ。私が行けばみんな顔出してくれるって。――あっ、そういえばリキミニママが王都まで転送陣を作ったはずだから、みんなで一緒に行こうよ」


「そんなもんあったか?」

「初耳ですね」

「大昔の大聖女様ルメルメナが作った建物ならあるわよ? 基礎から下が全部、魔鉱でできてるって話」

「それそれ、たぶんそれ。リキミニママのこと、聖女メルメナって呼ぶ人も居たから」


大聖女様ルメルメナは称号だから、その人とは限らないんじゃない? 鉱国の地母神様の信仰をその身を挺して守ったって伝説を残されてるような方が、そんな大悪人の側室になるかしら?」


「だからパパは悪人じゃないの! 奥さん40人くらい居たけどみんな仲良かったもん! ママも私の本当のお母さんから転送陣の作り方を教わったって言ってたし、間違いないよ」


 いや40人も居たのかよ!――しかもハイトリンが言うには情けをかけて子種だけ授けた寡婦や娘はさらに多いというし、もしかすると俺が被害を被ったあの忌まわしき初夜権も、この鉄のアイゼンアイゼが大元じゃないのかなどと勘繰ったりもした。



 ◇◇◇◇◇



 ハイトリンの言う転送陣というものは本当に存在した。古い魔鉱で作られているにも拘らず、未だに力を持っていて、並の魔鉱ではないことがわかった。


「お母さんなんだ。これ」


 そう言って地下に存在した純粋な魔鉱の核に頬を擦り付けるハイトリン。

 ハイトリンが言うには、この世界で最初に存在した原初の魔鉱を使って大聖女様ルメルメナが遠くの場所を一瞬で行き来できる転送陣を各地に作ったらしい。


 ハイトリンが何かを唱え、核に口づけするとその力は再びこの世界に顕現した。


 こうして俺たちは魔族たちの脅威から人々を守るためにも役立つ、鉱国の各地への移動手段を手に入れたのだ。







--

『王子の私の配下の女の子が全員NTRれているんだけど手を出しただけの覚悟はあるんだよね?』のエピソード、『エルラ エピローグ』より続く話となります。

 https://kakuyomu.jp/works/16818093085375502102/episodes/16818093087507203543


☆本作の前の時代の作品『死鎧の騎士』も公開しましたので宜しければぜひどうぞ☆

 https://kakuyomu.jp/works/16818093088653827442


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者のオレの妻が全員NTRれている件 あんぜ @anze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ