第65話 エルラ エピローグ

 その後、事は全て儂の謀った通りに動いた。メルメナは流石、アイゼを見出しその身を呈して助けるだけの女であった。あれはアイゼを助けるためであれば、今やエルフとなって人に近づいた儂以上に冷酷になれる女であろう。


 アイゼの心の拠り所となっていたエイリスは、大きな成長を遂げてアイゼの元へと帰ってきた。心も体も強靭な女へと成長していた。この先、何があろうと決して折れることなくアイゼを支え続けてくれるであろう。


 アイゼの寛容さと一見そうは見えないが快活とでもいうべき女好きは、エイリスを始め多くのタルサリアの女を救い、また秘めたる心の内をエイリスに打ち明けることで、お互いをしっかと繋ぎ合わせた。そしてついにアイゼも三人の協力で祝福を我が物としたのだ。



 ◇◇◇◇◇



「あなたは誰ですか?」


 神々の用いる天光アルベドの間にアイゼは居た。周辺が真っ白の光に覆われるその場所では、人はありのままの色で映し出される。端的に言えば裸だな。白の間とも呼ばれる天光アルベドの間は、神々が人と会話するために妖精界イセリアルプレインに作り出す小さな部屋だ。


 アイゼは生まれたままの姿、精神そのものをその白い空間に映し出されていた。


「儂はエルラ。かつては堕神テオフェルエストゼワゼルと呼ばれた星界の海アストラルプレインの果ての存在だ」

「エルラ様でしたか。少女の姿でしたので気が付きませんでした」


「ああ、かわいいだろう? めいっぱいめかしてみたのだ」


 儂はくるくると回ってみせる。天光アルベドの間では、我々は自由な姿を取れるのだ。


「はい、小さな妖精のようです」

「アイゼが気に入ってくれると嬉しいのだが、どうか?」


 儂につられてアイゼは視線を落とす。


「恥ずかしながら、私のは、いつもこのような有様で収拾がつかないのです。無礼をお許しください」


 アイゼは照れながらそう言ったが、以前のように恥ずかしがって隠すようなことはない。それはエイリスがアイゼに己自身を誇るよう、促したからだ。


「ああ、よき子種をいただけそうだ」

「エルラ様もやはり想いは変わりませんか?」


「無論だ。儂が何のためにこのような想いで、このような姿をしていると思っておる? エイリスも、それからヴァタウも、無事に第一子をせたであろう。そしてメルメナの次は儂の番であろう」


 祝福を我が物としたアイゼは側室たちを受け入れた。エイリスやヴァタウはようやく安心して身篭ることができ、その子らをいだくことができたのだ。メルメナは皆が一度に身重になるのは危険だからと時期をずらし、先日漸く身篭った。


「承知いたしました、エルラ様」

「アイゼよ、女を誘う時にはもう少し雰囲気のある言葉が欲しいものだな」


 ふふ――とアイゼがはにかみ――


「エルラよ。幾年月の想いを待たせ続けたが、今宵こそ私のものになっておくれ」

「ええ、あなた」


 多くの女を抱いて、坊はずいぶんと自信を付けたものだな――などとは言うまい。純愛の姫ヴェルナディットも言っておったが、ひとつの恋が実った事に代えられようものがこの世にあるものか。よもやあの姫の言葉に同意するなど、この世界に来る前の儂には考えも及ばなかったであろう。



 ◇◇◇◇◇



 一人の女として、最高のひと時を白の間で迎えた儂は、最後にアイゼへ伝えた。


「儂は他のエルフと同じく木になるであろう。ただ、その木はすぐに崩壊して石となる。だが悲しむことはない。その石はタルサリアの発展に新たな流れをもたらすのだ」


「行ってしまわれるのですか?」


「ああ。儂の半身は残ったままだが、手加減は無用ぞ。あれはもう儂ではない」


魔族デオフォルエストゼワゼルは必ずや討ち取ってみせましょう」


「期待しているぞ、愛しきアイゼよ……」


 そうして最後にアイゼの頬に触れると、アイゼの魂を元の身体へと戻したのだ。


 ハンノキのエルフたちは魔力を湛えた巨木となり、タルサリアを守り続けてくれるだろう。魔王軍も容易にはこの地に手出しできなくなる。そうすればアイゼの子孫たちもきっと栄えよう。



 ◆◆◆◆◆



 エルラ様は旅立たれました。アイゼ様に別れを告げて。エルラ様の残した魔鉱は、同じくエルラ様の残した知識によって、この先のタルサリアとハイランドを、そしてスワルタリアを救う事となるでしょう。


 結局、エルラ様は最後までエイリス様に顔を見せずに行ってしまわれました。エルラ様はエイリス様に嫉妬したことを酷く悔やんでおられました。神々でもそのような感情に囚われることに驚きましたが、エルラ様は人の世に降りた時点で避けようがないのだと仰られました。


 エルラ様の木が倒壊した跡には、赤子が眠っておりました。

 その赤子の傍には、立派な曲刀が添えられておりました。

 私はその赤子に名を付け、アイゼの子らと共に大切に育てたのです。



 エルラの物語 完







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 『勇者のオレの妻が全員NTRれている件』の最新エピソードへと続きます。

 https://kakuyomu.jp/works/16818093078039008770/episodes/16818093087918044396


 アルベドの間は他の作品でも出てくる神様や妖精が人間とコンタクトを取るための場ですね。天文分野の話よりも、作者的にどちらかというと3Dモデリングのマテリアルカラーの意味で、現実には照明がある以上、普通はあり得ない、神様だけが映し出せる『ありのままの色』なわけです。


 魔族という言葉は私的にあまり好きではないので(某大魔王しか思い出せないのでw)、デオフォルと当てています。デオフォルは悪魔(デヴィル)の古い呼び方ですが、悪魔という呼び方もそんなに好きでもないので、ここでは堕神の意味でテオフェル(造語)からの変化っぽく当てています。Theos + fellですね。


☆本作の後の時代へ繋がる作品『死鎧の騎士』も公開しましたので宜しければぜひどうぞ☆

 https://kakuyomu.jp/works/16818093088653827442


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王子の私の配下の女の子が全員NTRれているんだけど手を出しただけの覚悟はあるんだよね? あんぜ @anze

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