第58話 エクスルシオン!!


「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」


 獣の如きアッシュの咆哮。怒りで体が震え、眼前は殺意で真っ黒に染まっていく。考えなければならないことや成すべき事は多々とある。だが今は、ただただ目の前の敵対者をという思いに駆られる。


「お前……、調子に乗るのもいい加減に──」


 アッシュが足に力を込めると、ビキビキと大地が割れる。そうして「──しろよっ!!」という言葉と共に地面を蹴りつけ、殴り飛ばしたビューネスに向けて稲妻が如き速度で突撃。ビューネスが起き上がって「な、仲間がどうなってもいいの!?」と叫ぶ。だが──

 「黙れっ!!」と、アッシュの痛烈なボディブローがビューネスの腹部にめり込み、メシメシと嫌な音を響かせる。再び吹き飛ばされたビューネスだったが、すぐさまアッシュが追いついてビューネスの顔面を鷲掴みにし、そのまま後頭部を地面へと叩き付けた。地面はまるで榴弾が破裂したように抉れ、ビューネスがピクピクと全身を痙攣させる。そうしてアッシュは一発、二発、三発──と、ぐったりとするビューネスを殴り付ける。何度も何度も殴り、拳の肉は裂け、血で赤く染る。


「や……やめぇ……てぇ……」


 ビューネスが今にも死にそうな声を出し、アッシュの殴る拳が止まる。


「『やめて』と言われてお前はやめたのか?」

「ご……ごめんな──」


 「──さいなんて言うわけないでしょっ!!」と、ビューネスが手を止めたアッシュを殴り付けるが──

 殴り付けた腕をアッシュに掴まれ、ゴギンッとへし折られる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 ビューネスが地面をのたうち回り、「なんなのなんなのなんなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! さっきから誰も操れなくなったしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! 痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」と喚く。


「ああ、それなら──」


 ビューネスには見えていないが、アッシュが目の前にステータス画面の加護の項目を出す。



・加護

 破滅の呪い/自身の被ダメージ二倍、回避行動でステータス大幅減少、一定の被ダメージ毎にステータス大幅上昇

 嘆きの呪い/痛みの増幅、相手の術技による傷を記憶し、痛みを伴いながら闇の力で再現して発動する

 破壊する者/強い殺意によって発動する神殺しの力。相対する神の術技を無効化。神を消滅させるエリミネーションを発動



 そこには長らく空欄となっていたの詳細が追加されていた。


「──どうやら僕は神殺しの力を得たらしいな。神の術技も無効化する」


 アッシュのその言葉に、「か、神殺しの力ですって!? !」と、ビューネスが驚いた表情を見せる。


「あの人? 何か知っているのか?」

「そ、それは──あぎゃっ!! 痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 ビューネスが口ごもったので、アッシュがへし折ったビューネスの腕を捻り上げた。


「答えろ。あの人とは誰だ」

「し、知らないの! いつも仮面を被ってるし、名前も教えて貰ってな──ああぎゃっ!!」


 アッシュが「正直に答えろって」と、ビューネスの腕をさらに捻り上げる。


「ほ、本当に知らないのよ! わ、私は『聖属性の付与を積極的にやれ』って言われてただけなの!」

「聖属性の付与? 目的はなんだ?」

「し、知らない! 命令されるのも嫌いだから聖属性の付与もほとんどやってなかったし! わ、私はただ楽しいことをしてただけなの!!」


 ビューネスの「ただ楽しいことをしてただけ」という言葉に、再びアッシュの中で怒りが湧き上がる。色々とビューネスから聞き出すつもりではいたが、もはやそんなことはどうでもいいほどに、アッシュの中を怒りや殺意が支配していく。


「楽しいこと……だと?」

「そ、そうよ! 弱者をいたぶるのってとっても楽し──いぎゃんっ!!」


 力の限り、アッシュがビューネスを殴り付けた。メギャンッ! と嫌な音が響き、ビューネスが凄まじい速度で吹き飛んでいく。そうして吹き飛ぶビューネスにすぐさまアッシュが追い付き──


「簡単に死ねると思うなよビューネスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


 ──再びメギャンッ! とビューネスを殴り付けた。

 そこからはあまりにも一方的で、あまりにも凄惨な光景が繰り広げられる。アッシュに目覚めた神殺しの力──エリミネーションで、ビューネスを消滅させることは簡単に出来るのだろう。だがアッシュは、泣き叫んで許しを乞うビューネスを何度も殴り付ける。殴る拳にはバチバチと雷を纏い、ビューネスの全身の骨は砕け、口からは血を吐き出し──


「おいおい。どうした? さっきから呻き声しか漏らしてないじゃないか」


 すでにビューネスは虫の息。口からゴボゴボと血を吐き出しながら、かろうじて「ゆるじで……」と消え入りそうな声を絞り出す。だがアッシュは止まらない。地面に這いつくばるビューネスの翼を掴み、メシメシと力を込め──


「いだいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! やめてやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「だから『やめて』と言われてお前はやめたのか?」


 優しさのかけらも感じられないアッシュの冷酷な声。そのままアッシュがビューネスの翼をもぎ取ろうと力を込める。が、そんなアッシュの元にユーネが駆け付け、後ろから抱きしめて「やめて!」と叫んだ。


「離してくれないかユーネ。今いいところなんだ」

「離さない! 絶対に離さない! こんなのアッシュじゃないよ!!」

「これが僕だ」

「違うもん! みんな……みんな優しいアッシュが好きなんだよ! 私だって!」

「こいつは生かしておいたらダメなんだ」

「そうだとしても! そんな痛めつけるやり方は間違ってるよ!」

「こいつがしてきたことをやり返してるだけだ。こいつは苦しんで死ななければ釣り合いが取れない」

「アッシュ……、思い出して……? アッシュはこの世の悪を払う者なんじゃないの? 正義の戦隊ヒーローなんじゃないの?」

「こんな時に何を言ってるんだ」

「アッシュ……」


 ユーネがアッシュから少し離れ、深呼吸する。そのまま右手を天高く掲げ──


「この世の悪を払う者! エクスルシオン!!」


 ──と、掲げた右手を下に払ってポーズを決めた。


「私じゃ……かっこつかないかな?」


 そう言ってユーネが「えへへ」と笑う。そんなユーネの笑顔を見て、アッシュの中に暖かい感情が広がっていく。それはどす黒く染まり、殺意がヘドロのように溜まった心の中で徐々に範囲を広げ──

 アッシュの表情が穏やかなものになっていく。



 全裸で何やってるんだよユーネ……

 だけどそうだ……

 僕はユーネのこの笑顔を守りたくて……

 シェーレやニーナ、アランにエルステッドにオルレイン……

 ベルジュやターニャ……

 ルナヘイムに暮らすみんなに笑っていて欲しくて……



「……僕は!!」


 アッシュが右手を天高く掲げる。


「この世の悪を払う戦隊ヒーロー! エクスルシオン!!」


 と、掲げた右手を下に払ってポーズを決める。


「おかえりアッシュ。えへへ、見た目は角が生えちゃってなんだか凄いことになってるけど……」


 「優しいアッシュが大好きだよ」と言って、ユーネが背伸びをしてアッシュの頬にキスをした。


「ごめんなユーネ。ちょっと自分を見失ってたよ。角が生えるし体からは雷が出るしで、ちょっとパニックになってたのかもな?」

「えへへ、今のアッシュもかっこよくて好きだよ?」

「僕も今の刺激的なユーネが好きだけど、出来れば外では服を着てほしいな」


 アッシュのその言葉に、ユーネが「はわわ! み、見ないで!」と言って大事な部分を手で隠す。そんなユーネをアッシュが抱きしめ、優しく唇を重ねた。短く、深い口付け。

 そうしてアッシュがビューネスに向き直る。ビューネスは既に全身の骨が砕け、翼は半分ほど千切れ、血を吐きながらズルズルと地面を這ってアッシュから逃げようとしていた。そんなビューネスにアッシュがゆっくりと近付き、背中に手を当てる。するとビューネスはさらに痛めつけられると思ったのか、「やぁだぁぁぁぁっ! もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」と絶叫して失禁した。

 そんなビューネスに向けて「痛めつけて悪かったな」とアッシュが呟き、「エリミネーション!!」と叫ぶ。

 するとビューネスは断末魔の叫びを上げる間もなく、一瞬で黒い霧となって霧散した。



 すごいな……

 発動と同時に一瞬で消滅した……

 と同じ力だとビューネスが言っていたけど……

 ランナが言っていた黒幕のことか……?

 確かランナは「──」と言っていた……

 最後なんて言おうとしたんだ……?

 たぶん「シ」から始まる名前……だよな?

 シ……、シ……

 


「そうだ! シェーレとニーナは!?」


 思い出したようにアッシュが背後に視線を向ける。だが視線の先にはニーナの姿しかなく──

 ニーナは力無くその場にへたり込み、「ごめんなさい……、ごめんなさい……」と壊れた人形のように呟いていた。



 シェーレがいない……?

 なんだ……

 どこに行ったんだ……?



 アッシュが魔人の目の効果範囲を最大解放するが、どこにもシェーレの姿が見当たらない。そんな中、突然ユーネが「はわわっ!」と驚いたような声を上げた。見ればユーネの体がうっすらと光を放ち──


「ユ、ユーネ? なんか体……光ってないか?」

「そ、そうなの! なんか光ってるの! それになんだか元気が出てきた気がする! うりゃうりゃって!」


 そう言って全裸のユーネがはしゃいだ直後、体はさらに光り輝いていき──

 

「ユ、ユーネ! 体が元に戻ってるじゃないか! 羽まで生えてる!」

「ほ、ほんとだ! もしかしてビューネス倒したから?」


 どうやらビューネスを倒したことで、ユーネの弱体化や幼児化が元に戻ったようだ。ユーネは嬉しいのか、「ちからも戻った気がする!」と言って、全裸で回し蹴りの動きをしている。



 うわうわ……

 丸見えだって……

 もしかして全裸なのまた忘れてるのか……?

 さすがに刺激的すぎるから……



 アッシュが冥府の王で黒いマントを生成し、はしゃぐユーネにふわりとかける。ユーネはようやくそこで自分が全裸だと思い出したのか、「はわはわ」言いながらしゃがみこんだ。


「ははっ! ユーネは元に戻っても変わらないんだな?」

「そ、そんなことないもん! おっぱいだってこんなにおっきくなったし!」


 そう言ってユーネが立ち上がり、胸を見せてしまってから「はわわっ!」とまた焦る。そんなちょっとアホなユーネを見て、アッシュが終わったんだな──と実感する。

 もちろん考えなければならないことは多々とある。だが──


「とりあえず終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 アッシュが喜びの声を上げる。そこへユーネが抱きつき、「ありがとうアッシュ!」と言って頬にキスをする。そんなユーネをアッシュが力強く抱きしめ返したところで──


『いやーまさかビューネスを倒すなんて予想外だ。他の神は余裕だったんだけどねー。正直なめてた』


 ──と、聞き間違えでなければ、。続けてアッシュと同じ声は、『まあの方がはるかに高いし、気にしてないけどねぇ』と言って笑った──




 ──第一部 第一章︎ The game of the golden goddess(了)





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ここまで目を通して頂き、誠にありがとうございます!

応援や素敵なコメント、評価など、本当に感謝です。執筆する上でとても励みになりました!


これで第一章は終わりですが、二章以降でちりばめた謎を回収していきます。

はたしてここから第0話の『前書き』にどう繋がっていくのか……

執筆頑張りますので、応援して頂けると幸いです。


鋏池穏美





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ヴァンズホープ/転生先の異世界で幼なじみやちょろい女神様とハーレムしてたら、デカい斧持った覚悟ガンギマリの少年が殺しにくるバトルラブコメ 鋏池 穏美 @tukaike

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