第3話 覆水盆に返らず、今更泣いて縋られてももう遅い~俺のアオハル最高~
お互いの初めてを交換し合ってから、俺達はおしどり夫婦と呼ばれる程に仲の良いバカップルとなった。
そして俺と八雲が親密になるのに反比例して、菜穂は暗く沈む姿をみせるようになった。共通の友人の女子が菜穂が死んだ魚みたいになってるから気にかけて欲しいと言ってきたが、俺は菜穂にとって赤の他人だからと丁重にお断りした。そんな事より八雲と一緒にいる時間の方が大事だ。
そして両親のいない土曜日、今日も今日とて八雲とデートをしてから帰ってきたらいつぞやの如く菜穂が俺の家の前で待っていた。みてみると、目の下にはクマがあり髪の手入れがいきていないのか枝毛がボサボサで、肌も荒れていて言い方は悪いが全体的に小汚くなっている。
「……祐ちゃん」
どこか虚ろな、しかし哀し気な瞳を向けてくる菜穂。明らかに不健康そうなので、とりあえず声をかける。赤の他人と言えど一応幼馴染だしな。
「なんだよ菜穂。そんな所に立ってないで家帰って休めよ」
だがそんな俺の言葉に、せきを切ったようにぼろぼろと涙を流し始める菜穂。
「……なさい。――――めん、な、ごめんな、さいっ!!」
急に子供の様に泣きじゃくる菜穂に、困ったなと頭をかく。いきなり泣き出されて謝られてもどうしろというんだよ、あと何について謝ってるのかの主語がないからわけわかんねーよ。
「雑に、扱ってヒグッ、ごめんなさい!ばがにぃ、馬鹿にしでぇ、ごべんなさい!!!なんども振ってごべんなさいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」
そういって顔を手で覆って泣きながら謝り続ける菜穂だが、それでなんで菜穂が此処にいて謝ったのかが分かった。
「あぁ、そういう。ゆっくり理解したよ。……もう済んだことだろ、お前も気にするな」
菜穂に気持ちを踏みにじられて、馬鹿にされていたことも今となっては終わった事だ。今の俺には八雲という素敵な彼女がいるし、もう菜穂に対して怒ってもいない。それは興味そのものがないという事でもあるが。
「本当はぁ、うれしかったのぉ!ずっと一緒でぇ、だいすきでぇ、そんなゆういぢがらごぐはくざれでぇ、すごくうれしくってぇ、どぎどぎじでぇ、でもぉ、でもぉ……ぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
つまり菜穂は俺の告白を4回断って振ったり、女友達と俺の事を馬鹿にしていたけど本当は俺の事を好きだったという事を主張しているらしい。……今更だよなぁ。
「そうか。それは―――残念だよ」
菜穂がそのまま告白を受け入れていてくれたら、俺は菜穂と付き合って普通に彼氏彼女になっていたと思う。けどそうはならなかった。ならなかったんだよ、菜穂。
「いやぁ、いやぁ、ごべんなざいい、ごべんなざいぃぃぃぃ、わだじぃ、ゆうういぢがぁ、ずぎなのぉ、だいずぎなのぉ、ゆるしてぇ、いかないでぇ、すてないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「それもまた今更だな。もう遅いってやつだな。今の俺には彼女がいるんだよ」
「やじゃあああああああああああああ!わがれでよぉ、きたのさんとわかれてよぉ!わたしがいるでしょぉぉぉぉぉぉぉっ!おさななじみなんだよぉぉぉぉぉぉっ!!ギャオオオオオオオオオオン!!」
泣きながら絶叫のように叫ぶ菜穂だが、いい加減近所の人のご迷惑にもなるレベルだし落ち着いて欲しい。そして泣き叫ぶ菜穂を見ても我が心は不動。
「無理だ。俺は八雲―――あぁ、北乃さんの事が心から本気で好きだし、別れたいなんて思っていない。八雲と別れてまでお前と付き合いたいなんて思えない」
「どぼじでそんなことゆうのぉぉぉぉぉ、10年いじょう、いっしょにいたでしょぉぉぉぉぉぉ?!わだじをうらぎるのぉぉ?!」
「その10年以上一緒にいた相手の気持ちを鼻で笑って踏みにじったからだろ。……お前も切り替えていけよ、世の中の半分は異性だっていうだろ」
「いやだよぉぉぉぉぉ、ゆういぢいがいのおとこのひととなんてそんなのぜぇぇぇぇぇったいにいやー!!!ゆんやぁぁぁぁぁっ!」
そこまで泣き叫んで固執するなら何で俺が告白してる時に素直に了承しなかったんだろうと、遠い目で空を見上げる事しかできない。ゆんやーって何だろうなと思ったら裕ちゃんいやーをまくしたてるように絶叫したんだな、奇声にしかきこえねぇよ。
「えっちなこともぉ、していいからぁ!わたしのはじめてもぉ、ゆういちにあげるからぁ!きたのさんにしてることもぉ、きたのさんでもできないことでも、なんでもするからぁ!だからすてないでよぉっ、ゆういちぃぃぃぃぃぃぃぃっ」
ついにはその場に崩れ落ち、それから這うようにして移動してきて俺の足にしがみつく菜穂。泣き叫ぶ女子、というのを抜いても腰が抜けているのか上半身の動きと腕だけの力で高速でシャコシャコと地面を張ってくる姿にテケテケかな?なんて思ってしまった。
しかし今の話だと、菜穂は俺と八雲がエッチをしていることを知っているらしい――――けどまぁ隣の部屋だしまぁ、わかるか。それは俺の失態だな。
菜穂が俺の事をこんな風に荒れるまで好きだったとして、そんな俺がサルみたいに八雲を求めてシていることを何時間も聞いていたとしたら……まぁ、ドンマイとしかいえない。事故みたいなもんだ。
次からは菜穂のいないときに部屋で致すとしよう。
「……悪いな。俺と菜穂はこれ以上交差することはない。俺達の関係は終わったんだよ。じゃぁな、前を向いていけよ」
そういって優しく、幼馴染としての最後の思いやりをこめてその腕を解いてから、菜穂を置き去りにして家に入る。
「いやぁ、ゆういぢぢいいいいいい、ゆういぢいいいいいいいいいいいいいいいい、アー!ウヴォアー!アーアーアー!アアアアア!!」
そんな菜穂の泣き叫ぶ声に蓋をするように俺は扉を閉めた。
それから菜穂は徐々に学校に登校する日数が減ったが、俺にはどうすることもできないからはやく自分の中で切り替えて前を向いていけるといいなと思う。なにせ俺達はまだティーンエイジャーで、これから先の人生の方が長いんだし。
「祐一君、今日は、お父さんもお母さんもいないから、うちに来ませんか?」
「おっ、それじゃお邪魔するぜ!G.H.HのOVAの続きもみたいしな」
「はいっ。それと、その、今日は多分大丈夫な日なので……♡」
八雲の言う言葉の意味を理解して、思わずゴクッと喉を鳴らしてしまった。俺がサルみたいに求めまくったからか、八雲の方からも積極的に俺を求めてくれるようになった。お互いの両親からも、結婚することを前提に見られている気もするが勿論俺もそのつもりである。とりあえず今日は――――――いざゆかん、0.01ミリのその先へ!!
本編完
*******************
短編作品になりますが、もしお気にめしましたらブックマーク、応援、評価頂けましたら嬉しいです。
投稿前にご用意した分はここまでですがもしかしたら菜穂視点であと一話ぐらい増えるかもしれません...!
俺の気持ちを踏みにじり笑いものにしていた幼馴染を棄ててみたら青春がはじまりました サドガワイツキ @sadogawa_ituki
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