この先は自分次第

紫陽花の花びら

第1話

 十五年ぶりに訪れた想い出の公園は、油蝉が夏を謳歌し、昼下がりの太陽は、空気に暑さを纏わせ、人影をまばらさせていた。

 私は、木陰にあるベンチに座ると、

ポーチから携帯と、四つ折りの色褪せた折り紙を取り出した。

 あの日キラキラ耀いていた折り紙も、広げては畳まれるたび深くなる折り筋に、期待、疑念、不完全燃焼の心の流れを刻んでいく。

 

それでも裏に書かれた不格好な文字は、読むたびに私を温めてくれた。

 十五才の恋が十五年の時を超えて、

蘇るなんてことはない。

 わかっていても、この手紙がいつも心にあった。


「十五年後の再会契約書

沙織のまんじゅう顔は、果たして面長になってるか? 十五年後逢えたら我々は結婚する。

日時:十五年後の八月一日。豊原公園いつものベンチ。集合は14:00。

契約違反をしたときは、藤山のショートケーキを丸ごと買う」

 卒業式の後、和哉にこの折り紙とペンを渡された。

 

「再会契約書ってなに? 結婚? 私と和哉が結婚するの? 頭大丈夫?」

 一瞬の沈黙の後、和哉は笑った。

「まあな、沙織が独り孤独に泣いていたらの話だけどな」

 私は和哉を思いっきり小突いた。

「ばーか。私より心配なのは自分でしょ? 和哉はモテるわけないし」

 逆に小突き返される。

 離れたくない。このままでいたい。

 それはお互い痛いほどわかっていた。

 二年の夏に告白され、どんどん大好きになっていった。

 私の父が転勤しなければ、同じ高校へ行く約束もしていた。

 

 ふたりで二枚の折り紙に名前を書いき、私が自分の分を鞄しまうと、和哉は、無言で手を差し出した。

私の手が、和哉に触れるか触れないうちに抱き締められていた。

 長身の和哉の胸に、止まらない涙を染みこませていく。

「なんで十五なんだろう。畜生」

私の五感が、和哉の震える声を記憶している


携帯のアラームが鳴った。

14:00。

 公園の入り口を見ても、それらしき人の姿は見えなかった。

 胸が痛い。息苦しさに耐えられない。

 後悔したくなかったから来ただけ、本当にそれだけだだったのに。

 逢いたくて、逢いたくて、気持ちが収まらなくなっている。

10分だけ待とうと決めた。


「起きろよ」

軽く肩を叩かれ顔を上げると、目の前でしゃがみ込んでいる男性が見える。

手には、色褪せた折り紙が握られていた。

「和哉! おそい!」

手を差し出す和哉は眩しかった。

「契約成立?」

頷く私の手を取ると、和哉は黙って歩き出した。

 日向も、日陰も共に歩いてく。

私たちは、もはや十五じゃないんだ。




 



 



 

 

 





 



 


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