拳から剣へ

「おお……! そのお姿、とても格好いいですよ、ドレイク様!」


 俺の背中の長剣と後ろ腰に携えられたの短剣二振りにブラムは目を輝かせる。


「そうか? まあ、武器をたくさん持てばそれっぽく見えるしな。馬子にも衣装ってところか」


「……? 変わった言葉を使いますね。でも、本当に格好いいです!」


 ミオと別れた後、俺らはそのままギルドに残って昨日のモンスターの素材を売った金を受け取り、それから武器屋に赴き、これからの戦いに備えて剣を購入した。


 剣を買った理由は、にある。

 ドラコは己の肉体と格闘技術に自信があったからか肉弾戦を好んでいたが、俺個人としては剣を使った戦い方の方が得意だ。


 原作の虹剣だと勇者で戦う事が一番多かった影響だ。

 わざわざ長剣一本と短剣二本の計三本を装備してるのも、それが関係している。


 少しギミックを付けたことで値段はだいぶ跳ね上がってしまったが、まあ先行投資のようなものだと思えば安い買い物ではある。


「ドレイク。貴様、剣の心得もあったのだな」


「まあな。持ってなかったってだけでそれなりには扱えるぞ」


 ステータス画面に若干育てられた形跡のある剣技のスキルツリーがあったことは、霊峰で魔力操作の修行をしている時から既に確認済みだ。

 じゃなきゃ、シルバから奪った剣で『剛魔斬』を繰り出さなかった。


 ちなみにゴルドとシルバは、霊峰を去る前にその場で弔って、剣は墓前に供えておいた。

 俺の命を狙った敵だったとはいえ、骸になってまで憎む理由はないしな。


「しかし……三刀とは随分酔狂よのう」


「俺にとっては、これが一番戦い慣れてんだよ。それに勇者なんてもっとイカれてるぞ。なんせ六刀流で戦うんだからな」


 言えば、珍しくティアマトが目を丸くした。


「……其奴は曲芸師か何かか?」


「やってることは曲芸と言って差し支えないけど、一応真っ当な剣士。訳ありで六本同時運用してるってだけだ」


 長剣二振りと短剣四振りの変則六刀流——。


 流石にあれはモーションアシストなしで再現できる気はしない。

 というか、ヒロインの特殊能力ありきで戦ってる部分も大きいから、勇者一人だったら俺の三刀スタイルがやっとのはずだ。


 厨二心がくすぐられてクッソかっけえから、再現してみたくはあるけどな。


「個人的な寄り道に付き合ってくれてありがとな。そんじゃ、もうちょっと準備を整えたら、早速一つ目の素材をゲットしに行こうか」






 街の外に出て暫くして。

 人目のつかない場所まで移動してから、俺は転移魔術を発動させた。


 行き先は、ドロストから少し離れた国境にある大森林だ。


「よーし、到着。まずはマンドラゴラの花冠をちゃちゃっと手に入れるぞー」


「おー!」


 頭の上で元の姿に戻ったブラムが意気揚々と返事をする。


 霊峰では基本頭に乗せてばっかだったからか、この状態がなんかしっくりくる。

 それにちょっとひんやりしてて心地良い。


「ちゃちゃっとなどと申すが、そう簡単にマンドラゴラを見つけられるものか? あれを探すのは妾でも骨が折れるぞ」


「そこは問題ない。マンドラゴラが生えているポイントは、大まかだけど頭の中に入っているから」


 恐らくドロストと同様に、大森林の面積自体は原作よりもずっと広くなっているだろうが、全体的な構造そのものと重要な場所の光景は変わらないはず。

 であれば、そこまで無理難題にはならないと思われる。


 ただの希望的観測かもしれないけどな。


 そんなわけで大森林の奥へ進んでいく。

 俺の推測通りというべきか、道中の大半は既視感があるだけの見知らぬ景色ではあったが、時々ゲーム内で見た地形が広がっていた。


「ドラコ様、こんな森の中をよく迷わずに進めますね」


「まあ昔に何度か来たことがあるからな」


 俺だけじゃなくて自身もな。

 おかげで転移先としてブクマしてあるわけだし。


 勇者一行が冒険している裏で、こいつも色々飛び回ってたようだ。


「あと、周りに人がいなくてもドレイク呼びは徹底な」


「……そこまでする必要ありますか?」


「念には念をってことだよ。ここなら大丈夫って思っていても案外、話って聞かれるもんだからな」


 なんて、答えた時だった。


「——っ!」


 近くの茂みから唐突に飛び出す三つの細長い影。

 咄嗟に短剣二振りで弾き落とせば、粗末な作りの石槍が近くに転がった。


 石槍が飛んできた先に視線をやれば、茂みの奥に複数の影が確認できる。

 緑肌の小人型の魔物——ゴブリンが、群れを形成してこちらに迫っていた。


「いきなり飛び道具で奇襲とは、良い度胸してんじゃねえか」


 数は十体は軽く越してるな。

 俺を先に狙ったのは、単に俺が邪魔くさかったからか。


 奴らの目的は、俺じゃなく——、


「——不埒な奴らじゃのう。そのような穢らわしき眼で妾を見るなど」


 ティアマトから凍てつくような魔力と殺気が放たれる。

 不快感を露わにした声は、初めて遭遇した時に感じた以上の悍ましさがあった。


 ……やっぱガチで怒らせると怖えな、こいつ。


 だが、なぜかゴブリン達が逃げる素振りはない。

 なまじ知性があるせいで、生存本能よりも目の前にいる極上の獲物を優先してしまったか。


 ぞわりと鳥肌が立ちつつも、俺はティアマトを手で制す。


「俺がやる。だからその魔力抑えろ」


「……ほう、この妾を守ってくれるというのか」


「お前が守られる立場になるとか何の冗談だよ。じゃなくて、ティアが手を下すまでもねえってことだよ。こんなところで魔力を浪費すんのはくだらねえし、俺もまだこいつの試運転がまだだったからな」


 あとブラムがちょっとビビってる。

 そう続けてから俺は、短剣の柄同士を連結させて両剣にし、背中の剣を引き抜く。


 ——勇者の戦い方を簡易版にして模倣した変則三刀流。


 降りかかった火の粉を払うついでだ。

 ゲームでやっていた頃の感覚を取り戻すとしよう。

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四天王最弱に転生したので、勇者戦バックれて隠居します 蒼唯まる @Maruao

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