第三章

奇跡の万能薬

 オメガエリクサー。

 原作では味方全員のHPとMPを完全回復、更には状態異常の解除と戦闘不能から復活させるという最強の回復アイテム。


 その破格な性能故に、原作で入手できるのは終盤も終盤。

 ラスダンに突入する辺りまでストーリーを進めなければならない。

 おかげで手に入れたとしても、使うに使えない俗にいうラストエリクサー症候群に陥りやすく、俺もよくよくバッグに余らせていた。


 ……というのは、あくまでゲームでの話。


 こっちの世界であれば、ラスダンに行かずとも入手できる方法はある。

 そんで原作知識を活かして、オメガエリクサーをする。


「——その為に、これらの素材を集めるぞ」


 翌日、冒険者ギルドの一角。

 俺はオメガエリクサーのレシピを書き起こしたメモをティアマトとミオに手渡す。


「……貴様、本気か?」


 内容を見たティアマトが胡乱な眼差しを俺に向ける。

 隣ではミオがなんとも言えないような苦笑を浮かべていた。


「勿論、大マジだ。冗談でこれらを集めようなんて言わねえよ」


 ため息を吐きながら俺は、自身で書いたメモを見直す。


 ・マンドラゴラの花冠

 ・アダマンタイトの欠片

 ・ユニコーンの角

 ・世界樹の雫

 ・大精霊の魂魄


 どれもこれも入手難易度と希少性がバチクソに高いが、通常エネミーを討伐したりフィールドから採取することで手に入れられる一般枠の素材アイテムだ。

 本来ならゲームクリア後に入手できる古文書からレシピを解読することで初めて調合が可能になるのだが、原作知識が頭に入っている俺ならその過程をすっ飛ばせる。


 他にも生成するにあたって用意すべき道具はあるが、そっちは並行して追い追い手に入れるつもりだ。


 とはいえ、ゲーム通りに魔物から素材がドロップするのか。

 採取するにしても、そもそも素材がちゃんとあるのか。

 そういった諸々の問題はあるけど、そこは実際に確かめてみるしかない。


「集めんのが大変だっていうのは、俺だって重々承知してる。でも、呪い由来の病気を治すんだったらこれが一番確実だろ」


 ——あらゆる病、呪いを治す古の霊薬。


 オメガエリクサーのフレーバーテキストにはそう書かれてあったし、エリクサー系統が難病の治療に使われるって設定もあった覚えがある。

 それがそのままこっちの世界に反映されているのであれば、こいつを入手するのが一番のはずだ。


 ぶっちゃけ下位互換のエリクサーで事足りるかもしれないが、エリクサーを生成するにも似たような素材が必要になってくる。

 であれば、もしもの場合に備えてハイエンドスペックの物を用意しておいた方がいいと思われる。


「あの……ちょっといいかな」


 ふいに、申し訳なさそうにミオが口を開く。


「ん、なんだ」


「オメガエリクサーの存在は聞いた事があるけど、それって伝説上でしか語られていない奇跡の万能薬だよね……? まさか、実在するというのかい?」


「断言はできないけどな」


 生成方法が原作と一緒ならって前提があっての推測だし。

 もし必要素材に違いがあれば、その時点で詰んでしまう。


「でも、作れるかどうか試す価値は十分にあると思う」


 答えれば、ミオは怪訝そうに訊ねてくる。


「……どうして、そこまでして私たちを……妹を助けようとしてくれるんだい? 君と出会ってからまだ間もないというのに」


「どうして、か……」


 うーん、どう答えたものか。


 暫し逡巡した後、意を決して言う。


「——あんたのファンだからだよ。この際だから白状させてもらうが、あんたのことは前から風の噂で聞いたことがあったんだ。それともう一つ。昨日、こいつから妹の呪いについて聞かされた時、無理に笑ったろ。それが見てられなくて、力になろうと思った。それだけのことだよ」


 前世関連のことは流石に言えないが、それ以外は隠す理由もない。

 逆に下心がないですよアピールする方が却って怪しいだろうし。


 俺の返答を聞いて、ミオは目を丸くしていた。

 それから何度か口を開きかけてから、


「……そうだったんだ。じゃあ、昨日ここで私と荒くれ者たちとの諍いに割り込んだのも、それが関係してたってこと?」


「まあな。あんたなら場を諫めることはできただろうけど、そうなると奴らから逆恨みを買われそうだったからな。……凄え今更だけど、余計なお世話だったか?」


 俺の問いかけに、ミオはふるふると頭を振る。


「ううん、そんなことはないよ。結果的に君が一番事態を綺麗に収めてくれたと思っているからね。……それに、誰かを助けることはあっても、誰かに助けられることは久しくなかったから、新鮮な気分を味わえたよ」


 改めて、昨日はどうもありがとう。

 そう続けて、ミオはくすりと笑ってみせた。


 ……ああ、これが恐悦至極というやつか。


 間近で推しの笑顔を見れるとか、これだけで勇者一行から逃げ出した選択は間違ってなかったって心の底から思える。


 ——本当に果報者だよ、俺は。


「……とはいえ、ただ好意に甘えるつもりないよ。君たちが妹を助けてくれるというのなら、私も惜しみなく協力させてもらうよ。だから私にできることがあれば遠慮せずに何でも言って欲しい」


「そうか。じゃあ、早速だけど一つ頼まれていいか?」

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