奇妙な食卓

 この状況が実に奇妙なものだと思うのは俺くらいだろう。


 ストーリーボスドラコサブイベボスティアマトサブイベキャラミオ

 本来であれば勇者一行を経由しなければ関わることの無かった面々が、今こうして同じテーブルを囲っているのだから。


「——そういえば、自己紹介がまだだったね。私はミオ・フォーング。この街で冒険者をしているよ。それからこっちが妹のリオだよ」


「リオです! こんばんは!」


「ドレイクだ。こっちがブラムで、そっちがティア。訳あって三人で旅していて、今日この街に着いたところだ」


 ……ちゃんとファミリーネームあったんだな。

 まあ、原作じゃ明かされてなかったってだけで、ある方が普通なんだろうけど。


 なんて思っていると、ティアマトがミオに顔をぐいっと近づけ、至近距離からまじまじと彼女を見つめる。


「ほう……貴様は、昼にギルドとやらで輩共に割り入っていた娘か。このような場所で再び会うとは奇遇じゃのう」


「悪い。こいつ、長いこと世間から離れてたところで暮らしてたから、ちょっと常識からずれたとこがあるんだ。悪気はないから、あんま気にしないでくれると助かる」


「う、うん。分かったよ」


 苦笑を浮かべるミオからティアマトを引き剥がしつつ、俺はブラムをちらりと一瞥する。

 姉妹二人に興味津々な反応を示しているティアマトとは対照的に、ブラムは俺の陰に隠れてしまっている。


 ……相変わらず飯は食いまくってるけど。


 少しずつ対人スキルも上げていかないとな。

 ゆくゆくはブラムも一人で行動させられるようにしておきたいし。


「すまん、こっちもこっちであんま人に慣れてないんだ」


「大丈夫、気にしないで。しょうがないよ、年頃の女の子だものね」


 はー……イケメン過ぎかよ。


 さっきの支払いの件もそうだけど、気遣いがさりげない。

 原作で勇者一行に助けられた時も、気丈に振る舞って余計な心配かけさせないようにしてたのをよく覚えている。


 性格はイケメン、容姿は可愛いとか最強かよ。

 マジでこれでなんでパーティーメンバーにならなかったんだよ。

 設定的にはメインキャラに据えられてもおかしくなかっただろうに。


 ——でもまあ、加入しなかったおかげで今こうして話せてると考えれば、これで良かったのかもな。


「そういえば、なんで俺がここにいることが分かったんだ?」


 ふと浮かんだ疑問をぶつければ、ミオは指先で頬を掻いてはにかむ。


「ただの偶然だよ。妹にせがまれてご飯を食べに来たら、偶々君を見かけたんだ。でも丁度良かったよ。おかげで日を跨ぐことなく君を見つけることができた。だから、この子には感謝しなきゃだね」


「えへへ……もっと褒めてもいいんだよ、お姉ちゃん!」


 ミオが優しくリオの頭を撫でると、リオはへにゃりと目を細める。

 姉妹だけあって、笑った顔が姉とそっくりだ。


 ……それにしても、原作だとミオに心配かけてしまってることに謝ってばかりだったから、もうちょっと慎ましい性格をしてるのかと思っていたが、想像よりもずっと明るいな。


 というより、恐らくはこっちが本来の性格なのだろう。

 これが原作のようになると考えると、ちょっと胸が痛むな。


「ここにはよく来るのか?」


「ううん、普段は家で食事を済ませているよ。今日はこの子の体調が良かったから、食べに来たってだけ」


「……妹、どっか悪いのか?」


 念の為、重ねて訊ねれば、


「リオは昔から体が弱くてね。普段はあまり外にも出られないんだ」


 首肯と共に予想通りの答えが返ってきた。


 ああ……やっぱ、そこは原作通りなのか。

 そうなると、病状が進行するのも避けられなさそうだな。


 可能であればリオの病気をどうにかしてやりたいものだが、残念なことにリオの病気が具体的にどんなものなのかは原作では語られていない。


 発症原因は不明で、治療方法もふわっとしか情報が出ていない。

 一応、勇者一行のヒーラーが術式での治療を試みたが、症状を緩和させるだけで完治には至らなかった。


 加えてミオ救出のサブイベが終わってしまうとそれ以降、姉妹と関わることもなくなるから、結局リオがどうなったかはクリア後も不明のままだった。


「どうしたものか……」


 原作の知識を活かして何か治療法は——、


「——呪い、じゃな」


 思考しようとした時、ふとティアマトがそう呟いた。


「呪い?」


「ああ。微かにだが、その娘からは瘴気を感じる。大方、幼き頃に瘴気を帯びた魔力にでも当てられたか、もしくは生まれる前に母親が既に罹っておったのだろう。いずれにせよ、放っておけば命に関わるぞ」


「えっ、命に……!?」


 途端、リオの顔がさーっと青褪める。

 当然だ、いきなり命どうこう言われれば誰だってビビるわ。


「おい、ティア」


「妾は事実を告げたまで。とやかく言われる筋合いはないぞ」


「だとしても、手心ってもんがあるだろ。相手はまだ子供だぞ」


「——いいんだ。教えてくれてありがとう。この子の病気の原因が本当に呪いだというのなら、治療する方法が分からないのにも納得だよ」


 遮るように言って、ミオは小さく笑ってみせる。

 事を荒立てないようにしてる笑顔だった。


 ——原作で勇者一行に助けられた時のような。


 見てられねえな。


「……はあ、あんたがそう言うんだったらいいけど」


 とはいえ、だ。

 であるのなら、治療は可能かもしれない。


 そして、勇者一行でも治せなかった理由もこれではっきりした。

 正確にいえば、正解の治療法に辿り着けなかった理由がってところか。


「——ティア。今言ったこと、間違いはないんだろうな」


「無論じゃ。妾を誰だと思っておる」


「だったら、明日からちょっと手伝えよ。作りたいものができた」


「……ほう、一体何を作る気じゃ?」


「オメガエリクサー」


 ——虹剣最強の回復アイテムであり、奇跡の霊薬。

 そいつを手に入れて、リオの病気を治す。

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