斎藤さん

@jinno11

斎藤さん

本日の主人公

【 美咲 20代 女性】



東京の片隅で一人暮らしをする美咲は、

新しいコミュニケーションアプリ「斎藤さん」に興味を持った。


このアプリは、ユーザーが匿名で質問を投稿し、

他のユーザーが「斎藤さん」と名乗り回答するというものだった。


美咲は、退屈な日常に刺激を求めてアプリをダウンロードした。


最初の数週間は楽しかった。

美咲は様々な質問に答え、時には深夜までチャットに夢中になった。



しかし、ある夜、彼女が「斎藤さん」に質問したとき、

返ってきた回答に凍りついた。




「美咲さん、今夜は月が綺麗ですね。窓から見えますか?」




そのメッセージには、

彼女の部屋の窓から見えるはずのない月の写真が添付されていた。


美咲は恐怖に駆られ、アプリを削除しようする。



しかしスマートフォンが反応しない。



画面には「斎藤さん」からの新しいメッセージの通知が次々と表示され、



「美咲さん、どうして僕を無視するの?」



というメッセージが続いた。



美咲は慌てて電源を切ろうとしたが、スマートフォンは自分の意志で動き続けた。


翌日、美咲はアプリのことを忘れようと決心した。


しかし、会社での仕事中も、カフェでの休憩中も、

彼女のスマートフォンは「斎藤さん」からの通知で埋め尽くされた。


家に帰ると、ドアには「斎藤さんからのお届け物」と書かれた小包が置かれていた。


震える手で小包を開けると、

中からは美咲の写真が何枚も出てきた。



それは彼女が知らない間に撮られたもので、


いつもの通勤路

会社のデスク

さらには彼女の寝室の中まで…


美咲は警察に駆け込んだが、警察は「斎藤さん」の存在を信じてくれなかった。


アプリはすでにストアから消えており、

美咲のスマートフォンにも痕跡はなかった。


唯一残されたのは、美咲の写真と、彼女の名前を呼ぶ無数の声だけだった。




それからの美咲は、誰も信じられなくなった。




彼女は「斎藤さん」の声が聞こえるたびに、自分が監視されていると感じた。


夜になると、窓の外から誰かが見ている気配がして、

眠ることもままならなかった。




そしてある夜、美咲はついに「斎藤さん」の正体を知ることになる。




窓の外には、彼女のスマートフォンを持った「斎藤さん」が立っていた。




その顔は...




人間とは思えないほど歪んでいた。

斎藤さんの目は、暗闇の中で赤く光り、美咲の心臓は恐怖で凍りついた。


彼女は叫びたかったが、声が出なかった。


斎藤さんはゆっくりと窓を開け、部屋に入ってきた。

彼の手には、美咲のスマートフォンが握られていた。




「美咲さん、僕と一緒に遊びませんか?」



斎藤さんの声は、まるで多くの声が重なったような不気味な響きを持っていた。


美咲は後ずさりし、壁に背を預けた。


しかし、逃げ場はなかった。

斎藤さんは一歩一歩近づき、美咲のスマートフォンの画面を彼女に見せた。


画面には、美咲の日常のあらゆる瞬間が映し出されていた。




彼女の知らぬ間に、斎藤さんは美咲の生活を完全に監視していたのだ。




そして、画面の中で、美咲が斎藤さんに質問を投稿するシーンが再生された。


それは、美咲がアプリをダウンロードした最初の日のものだった。





「美咲さん、僕はずっとここにいましたよ。あなたが僕を呼んだからです。」





斎藤さんの言葉に、美咲は理解した。


このアプリはただのアプリではなく、何か別の存在が潜んでいたのだ。


「そして、私がその存在を呼び出してしまった...。」


斎藤さんは美咲に手を差し伸べた。

彼の手は冷たく、触れるだけで美咲の体温が奪われるようだった。


美咲は最後の力を振り絞り、スマートフォンを奪い取り、床に叩きつけた。



画面は割れ、大きな電子音が鳴り響いた。




その瞬間、




斎藤さんの姿は消えた。




美咲はその夜、何が現実で何が幻だったのか分からなくなった。


しかし、一つだけ確かなことは、

彼女は二度と「斎藤さん」や「鈴木さん」と名乗るアプリを使わないということだった。


そして、彼女は自分のスマートフォンを遠くに投げ捨て、

新しい生活を始める決意を固めた。





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