第2話 デルフィーヌ・マリー・ル・ノワール・ド・ヴェネノム

私デルフィーヌ・マリー・ル・ノワール・ド・ヴェネノムは名門のヴェネノム公爵家長女である。上には兄がひとりいる。

ヴェネノム家は歴代ヴァランティーヌ王国において重要な役目を担ってきた。

私デルフィーヌも例に漏れず現王太子であるシャルル・アンリ・フィリップ・ド・ヴァランティーヌと婚約していた。ついさっきまでは。

生まれで未来が決まってしまうというのも釈然としない思いはある。しかしこの家に生まれたからにはその役目をまっとうするつもりでここまで生きてきた。

王家に嫁ぐ。簡単なことではない。そのために私は人生を捧げてきた。

王を補佐するための教養・礼儀作法・護身術。辛いこともあった。でもそれが家のため、国のため、そして結婚するであろう王のためになると思いひたむきに努力してきたのだ。

シャルルとの初めての出会いはおそらく6歳の誕生日会だった。それ以前にも会っていたのかもしれないが彼をはっきりと認識したのはその時が初めてだ。

最初の印象は、きれいな人、であった。当時の王太子は元気に走り回る、普通の少年という空気はあった。けれど纏う空気はとてもきれいだった。

でも私とは住む世界が違う、幼いながらにそう感じていたのだ。だからお父様から将来彼と結婚するのだと聞かされても現実味はなかった。

それから私は王妃として相応しくなれるよう、彼の隣に立つのに不足がないよう自分を高めてきたのだ。

その人生が狂ったのはあの女、エリナ・リンネア・ベリグスドッテルが現れてからだ。2年前、私と彼女は入学式で出会った。

最初の印象は特にない。留学生で育ちの良いお嬢様なのだろう、その程度だった。

彼女は誰とでも打ち解けすぐにこの学園に溶け込んでいった。外国から来ているから彼女のことをよく思わない生徒もいたようだが、私は最初悪感情は特になかった。私の派閥の生徒たちも仲良くしていたと思う。


今までの私の人生が、シャルルのたった一言で、すべてが無に帰してしまうのか。

納得できるわけがない。仮に婚約が破談になったとしてもシャルル殿下が無事で済むなんて私が許せない。

こんなところで私の人生が終わるのはゴメンだ。

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いきなり婚約破棄される令嬢の物語 @resourcewiper

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