親愛なる君と
十数年後
「レン、こんな所でどうしたの?」
ユグドラシルの屋敷の庭で、ベンチに座り夜空を見上げて星を見ていた。ぼんやりと昔の出来事を思い出していたらウルドに声を掛けられた。
あの時の俺は青かったな……。
彼女は出会った時と姿は大きく変わらず、いつも通り妖しく微笑んでいる。強いてあげるなら、体に細かい傷が増えた。手は傷を隠すために黒いグローブを着け、シックな黒いロングワンピースを着こなしている。今の彼女は巷で『機械の魔女』と噂されて恐れられている。
「いや、昔の事を思い出していたんだよ。ユグドラシルを造った時の事をね……」
俺も彼女と一緒に過ごして、ユグドラシルや彼女達のメンテナンス、キマイラ達の問題の仲裁や月裏からのちょっかいを妨害するなどしていたら、あっという間に年を取り落ち着いてしまった。切るのが面倒な髪はハーフアップで結っている。巷では『魔女の騎士』と呼ばれ不気味がられている。なにも怖い事していないのに。
「……あれから時が経ったわね。レンはすっかりおじさんに成っちゃったわね♪」
おじさん……改めて言われるとチクリと心が痛む。気持ちはまだ若いのに。
見た目は俺の方が彼女より年上になってしまった。年齢の話をされると切なくなるので話題を切り替えた。
「あと、見えるかな? と思って。もうすぐだな……星が降るんだろ?」
彼女は子猫が甘えるように、俺の隣に座り寄りかかってきた。彼女の肩に手を回し、頭を優しく撫でる。嬉しそうに俺を見て微笑む彼女は答えた。
「ええ、遠い未来からね♪ 私達は静かに見守るだけだけど……」
「そうか……じゃあ一緒に見届けようか?」
俺達は寄り添って空を見上げる。
「綺麗な星空ね……」
「ああ」
星空に一筋の流星が現れた。
俺は流れ星に願いを捧げた。
願わくば、この穏やかな時間が1秒でも長く、彼女と共に……
機械仕掛けのノルニル 〜月から逃げてきたAIは運命の女神の名を騙る〜 雪村灯里 @t_yukimura
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