第20話 ばっちゃんと黒龍。
夕食は 桜が「塩むすびを 食べたい。」と 言ったので 炊き立てのご飯を ばっちゃんが 塩むすびにしてくれた。
「あちっっっ……あちっっっ。」桜自身は 手伝っている気でいたが ほぼ ばっちゃんの邪魔をしていたようなものだった。
はれ達は 2人の周りを「美味しそう。」と 言いながら 飛び回っていた。
「久しぶりに お味噌汁が 飲みたい。」
「せっかくだから 豚汁でも 作ろうか? 」真一は 豚肉 こんにゃく ごぼう 人参 大根を刻み 鍋いっぱいの豚汁を作った。
塩むすびと豚汁 大根のお漬物だけの夕食だったが みんなで食べるご飯は とても美味しかった。
はれ達は 5人で 塩むすび2個を みんなで分けて食べていた。
もちろん はれ達の残りは 真一が 食べたが「塩 どこ行った? 」と言うレベルで 塩味が無かった。
それでも ばっちゃんが 握ってくれた塩むすびは 充分美味しかった。
「お腹いっぱい。」桜は 言いながら 塩むすびを 5個も平らげていた。
「美味い。」
食後の片付けは 真一とばっちゃんで ささっと片付けた。
そして いつものように ばっちゃんは 食後のお茶を 淹れてくれた。
ひと息ついたところで 真一は「あっ。そうだ。ばっちゃん 黒龍様のいる神社って どこにあるか わかる? 」と ばっちゃんに聞いた。
「黒龍様か……。久しぶりに聞いたね。」ばっちゃんは びっくりした顔になった。
「そうだね。この土地に 嫁いで来たばかりの頃に……」ばっちゃんは ゆっくりと話し出した。
「昔から ここに住んでいた人から 聞いたことがある……。山の中にある神社で とても有名な神社らしいけど 呼ばれた人しか 辿り着けないと 言っていた。」ばっちゃんは 思い出しながら 話した。
「神社の名前は 知ってる? 」真一は 少し食い気味に 聞いた。
「名前は 誰も 知らなかったよ……。」ばっちゃんは 申し訳なさそうに 首を横に振った。
「これを 話していいものか……。」ばっちゃんは 小さな声で呟いて 握った拳を顎に持って行き 悩んでいるようだった。
「ばっちゃん 何でも話して? 今は どんな小さなことでもいいから 手掛かりが 欲しいんだ。」真一は 頼み込んだ。
「そうか……。あれは 私が 20歳過ぎ……22歳ぐらいの時だったかねぇ……。真夜中に 気が付いたら 見覚えのない 真っ暗な神社の鳥居の前に 立っていたんだよ。そんなことは 初めてだったからね。大層びっくりしたよ……。周りを見渡しても 人っ子1人いなくてね……。」ばっちゃんは 1度話を切って お茶を飲んだ。
「慌てて帰ろうとして ふと気付いた。神社には よく狛犬が いるだろう? そこの神社は 狛犬じゃなくて 真っ黒な龍が 象られていた。何者かに 見つめられているようで……私は 急に怖くなって 神社から出ると 坂道だったから 山にいるんだと気付いて 無我夢中で 走って下りたよ。山を下りて しばらく歩くと 見慣れた道に出て ホッと家に戻った。幸い誰も 私が いなくなっていたことに 気付いていなくて すぐに布団に 戻ったよ。後になって もしかすると そこが 黒龍様のいる神社だったのかも……と思った……。それ以外 何も 憶えていない。すまないねぇ……。」ばっちゃんは 皆を 申し訳なさそうに見た。
「いやいや。ばっちゃん 充分だよ。狛犬じゃなくて 黒龍か……。きっと そこだな。」
「ばっちゃん 見慣れた道って どこ? どこで 道がわかった? 」真一は 聞いた。
「そうだねぇ……随分と昔のことだからね……」ばっちゃんは笑って 一生懸命 思い出そうとしていた。
ばっちゃんは ゆっくりと考えてから「あ! 思い出した! 」と 両手を合わせて ポンと鳴らした。
「あの山の麓の神社……。」ばっちゃんが 言いかけたところで「楠杉江神社? 」と 真一は 前のめりで聞いた。
「そうそう。その神社から しばらく行くと 昔 角に小さなタバコ屋が あっただろう? 今は もう廃業されているけど……。」ばっちゃんは 少し寂しそうに言いながら「その辺りだったと思う。ただ……その頃は 街灯も 少なかったしねぇ。
今まで ずっと沈黙を 貫いていた白龍が(君枝さん……君枝さんじゃな?)と 呼び掛けた。
「は……はい。君枝と申します。」ばっちゃんは 急に名前を呼ばれて びっくりして慌てて答えた。
真一もばっちゃんも 誰にも ばっちゃんの名前までは 教えていなかったからだ。
真一は 心の中で 白龍にびっくりしていたものの 表面上は 平静を装っていた。
(君枝さん わしは 黒龍ではないから はっきりとは わからんが 呼ばれたと言うよりは 見定めれれたんじゃろう。真一もじゃが 君枝さんは かなり霊力が 高い。何者なのか 自分に脅威を及ぼさないか チェックしたんじゃろうな。その時 1回切りじゃろう?2回も3回も 呼ばれてないじゃろう? )白龍は 聞いた。
「そうです。その時以降 1回もありません。」ばっちゃんは
(黒龍は 夜に 強いんじゃ。自分の居場所を知られたくないから 闇に紛れて力を使い 君枝さんを 自分の元に 連れて来たんじゃな。いくら 夜とは言え 黒龍本体が 動くと大事になるからのう。白龍のわしにでさえ 真一みたいに 気付くやつも おるからのう。ふぉふぉふぉ。)白龍は 愉快そうに言った。
「白龍様 黒龍様のいる神社って どこにあるか知ってますか? 」真一は 聞いた。
(どこにあるかは 知らんのう。心当たりある場所で 主を待つと言って 飛び立って行ったのを 見ただけじゃ。)白龍は 言った。
「主を待つ……? とは どう言う意味ですか? 」真一は 首を傾げて聞いた。
(昔な……。わしと黒龍は 同じ戦に 出ておったんじゃ。戦の最中 忽然と主達が 消えたんじゃ……。しばらく お互い主達を探しておったんじゃが 黒龍は 主を待つと言って 飛び去って行ったんじゃよ。)白龍は ゆっくりと答えた。
「なるほど……。主が 消えた……とは 不思議ですね。
「そうだな……。逆に言えば 私も
(ふぉふぉふぉ。わしは ずっと寝ておったからのう。気付いたら わしの鼻の上で
「そう言うことか。」
「真一達は なぜ 黒龍様のいる神社に 行きたいんだい? 」ばっちゃんは 皆を見て聞いた。
「長老のところに たまに 顔を出していた
「そうか……。場所を 憶えていなくて すまないねぇ……。」ばっちゃんは 悲しそうな顔で言った。
「ばっちゃんが 楠杉江神社を 抜けた憶えがあるなら その近くの山に あるんじゃない? 」
「あーーー。そうか。」真一は 嬉しそうな声を出した。
「はい!はい!」桜は 授業中に 手を上げる子供のように 真っすぐ上に 手を上げて「じゃあ 明日は 山に ハイキングに行こう。」桜は 元気良く言った。
「山登り 久しぶり~~~。」琥珀も 楽しそうに言った。
皆が わいわいしている中 真一は「ばっちゃん 少し考えたんだけど しばらく学校を 休学してもいいかな? 」真面目な顔で ばっちゃんにだけ 聞こえる小さな声で 言った。
「うんうん。真一の好きにしなさい。」ばっちゃんは 頷きながら 優しい声で言った。
「ありがとう。ばっちゃん。明日の朝にでも 学校に電話を入れておくよ。」真一は すっかりぬるくなったお茶を 飲み干した。
「ばっちゃん 大福 まだある?」
「すまないねぇ。大福は もう無いよ。カステラなら あるよ?カステラ食べるかい?」ばっちゃんは すまなそうな顔をして 立ち上がった。
「カステラ? 」
「カステラも 甘くて美味しいよ。少し食べて みるかい?」ばっちゃんは 棚から 縦長の木箱を取り出し 皆に切り分けた。
真一は 自分のお茶のおかわりを淹れるついでに 皆にも おかわりのお茶を注いだ。
「美味しそーう。」桜は 嬉しそうに カステラにかぶり付いた。
「美味し~~~。」琥珀も 目を瞑って しみじみとカステラを 味わっていた。
「美味いな。これ。」
ばっちゃんは ちゃんとはれ達の分も 用意していた。
「甘い。」「美味しい。」「俺の分 取るなよー。」「この茶色のところ 甘くて美味しい。」「美味しいねー。」はれ達は 飛び回りながら カステラを パクパクと食べていた。
「
「ばっちゃん ありがとう。大福 好きなんだ。初めて食べたけど これも 美味しいよ。」
「じゃあ これからは 色んなおやつを 買って来るよ。もちろん 大福も 買っておくからね。」ばっちゃんは 子供が増えたようで とても嬉しかった。
真一は ばっちゃんに気を使って わがままを 一切言わない子供だった。
「これ 食べたい。あれを 買って欲しい。」とさえ 真一から 言われたことは無かった。
ばっちゃんが「何か欲しいもの 無いかい? 」と聞いても 真一は「大丈夫。」と 寂しそうに笑う子供だった。
「真一は? 何か 食べたい物ないかい? 」ばっちゃんは お茶を飲みながら さらりと聞いてみた。
「そうだな……。」真一は 少し考えてから「鬼まんじゅうかな? 僕が 小さい頃 ばっちゃんが よく作ってくれたやつ。あれ 好きだったんだ……。」真一は 少しはにかんで 下を向いたまま言った。
「明日 皆が お出かけしている間に 久しぶりに作ろうかね。」ばっちゃんは 微笑んで お茶を飲んだ。
「明日 どうする? 楠杉江神社に寄ってから 探す? あの感じだと 長老が これ以上知っていることは 無さそうだけど……。」
「行きたい。」「行く行く。」「長老に 会いたい。」「寄って行こうよ。」「みんなに会いたいな。」はれ達は また一斉に 話し出した。
「……だそうです。」真一は 笑いながら「長老に 挨拶してから 行きますか。」と言った。
「おむすび 持って行く? 」桜は 不安そうな顔で 聞いた。
「持って行こうか? 」と真一が 答えると「やったー‼ おむすび。」桜は 大喜びした。
「桜ちゃん また塩むすびが いいのかい? 梅干しとか おかかを入れようか? 」ばっちゃんは 聞いた。
「あたし 梅干しが好き。」琥珀が 答えた。
「じゃあ じゃあ 桜は おかかにする。」桜は ばっちゃんに頼んだ。
「わかったよ。明日の朝 いっぱいおむすび 作ろうかね。」ばっちゃんは 微笑んだ。
「今日は もう寝ようか。」真一は 怒涛の1日を過ごして 少し疲れていた。
ばっちゃんの家には 客間が無いので 話し合いの末 ばっちゃんと
お客様用の布団も 2組しかないので
真一の部屋に 琥珀用の布団を 真一が 運んでいると 琥珀が 真一の横に並んだ。
「襲わないから 安心して? 」と 琥珀は ニヤッと笑いながら そっと真一に 耳打ちした。
真一は 顔を真っ赤にして「頼むって……。」と 琥珀の方を 見ないように呟いた。
ばっちゃんの部屋からは キャッキャッとと笑う
真一は 部屋に入ると 自分のベッドの横に 琥珀の布団を敷き「どうぞ。」と 琥珀に勧めた。
真一は ベッドに横になると 瞬く間に 眠りに就いた。
琥珀は 頭の下で 腕を組み 天井を見つめていた。
真一のスースー寝ている寝息が 聞こえると「おやすみ……。真一。」と 琥珀は 小さな声で呟いた。
神怪師。ーColorful Rebootー 類有 @aminoafuu
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