37
かつお
繝励?繝ォ
町の一角、人気のない喫茶店の奥の奥の席。
「映像作品を作ろうと思うんだ」
唐突にそう切り出した目の前の男に目を向ける。
彼は坂下といって、俺の中学時代からの友人だ。
「いいじゃん、どんなやつだよ」
手に持っていたマグカップを机に置いて、そう問う。
「ファウンド・フッテージと言うものを知っているかい?」
ファウンド・フッテージ。
どこかで聞いたことがある言葉だが、どんな意味なのかは全く知らなかった。
「いや、知らない。なんだよそれ」
「映像作品のジャンルの一つだよ。モキュメンタリー…と言えばわかるかな?撮影者が行方不明等になったために埋もれていた映像、という設定の映像だよ」
辞書でも読み上げるかのようにそう説明する坂下に苦笑しながら口を開く。
「いいな、どういったものかは何となくわかった。リアリティのあるフィクション、ってとこだろ?」
実際そんな映像は見たことがなかったが、きっと面白いに違いない。
それにこの男は昔からいろいろな面で優れている。
映像作品だって難なく面白いものを撮るのだろう。
「そうだね、簡単に言うとそんな感じだ。_それで、なんでこの話を君にしたとおもう?」
背筋を伸ばしてこちらを見直してくる坂下。
なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「…一緒にやろう、なんて言わないよな?」
「残念ながらそのとおりだ。加藤、一緒に最高の作品を撮ろうじゃないか」
___
「とは言ったものの、何から手を付けようか」
坂下が軽く伸びをしてそう口にする。
時刻は夕暮れ時。そろそろ店が閉まる頃合いだろうか。
とりあえず家で話そうと、コンビニで酒やつまみをすこし買って俺の家へ招いた。
「なんか映像作品を撮る、って聞いてもあまり現実味がないな。一体どういった感じなんだ?」
坂下はノートパソコンを広げ、そこにはいくつか写真が映し出されている。
人気のないプールや浴槽、子供の遊び場。
決して暗い写真ではないはずなのに薄気味悪さを感じて顔をしかめる。
「なんだよこれ?」
「the backrooms。外国の都市伝説だよ。この画像は作られたものだけれど…リアルで不気味だろう?」
「ああ、確かに怖いな。…これを?」
「映像作品にする。少しホラーチックな短い映像だ。まぁ本家がそういうものだからね、少しは変えるけれど」
「……なるほど」
俺の平凡な人生でこういう映像を作るのは初めてだ。
しかももうすぐ夏、ホラーはうってつけの時期だろう。
「このあといくつか見てほしい映像があるんだ。いいかい?」
「勿論。で、どれだ?」
酒のタブを開ける音が薄暗い部屋に響いた。
___
坂下に見せられた映像は、the backroomsの本家の映像とその創作映像だった。
どれもが言い知れない不気味さを醸し出していて、ぬるい汗が頬を伝う。
「とりあえず物語を大体で考えて今日は寝よう。夜も更けているしね」
そう言われて時計をみると、時刻は深夜二時過ぎ。
道理で眠いわけだ、俺はひとつ欠伸を噛み殺し頷いた。
「舞台がbackroomsなんだろ?なら探索のために主人公がbackroomsに入る~ってありきたりな設定でもいいんじゃないか」
「でも、それじゃ面白みがない」
「あくまでも主軸はホラーじゃなくて物語ってことか?」
「そう、まぁ何よりも見ている側が自分もそうなるかもしれない恐怖におびえてほしいんだけどね」
にっこりとやわらかい笑みを浮かべる坂下。
やはりこいつの悪趣味な所は昔から変わっていない。
「じゃぁ主人公は普通の人間で、backroomsも存在しない世界にいたが急に飛ばされてしまった…とか」
「…いいね、枝付けが楽しくなりそうだ」
感心したように頷く坂下を見て気分がよくなる。
俺も俺でこういった話を作るのは好きなんだ。
「それじゃあまた明日。また君の家に行ってもいいかい?」
「ああ、待ってるよ」
俺の返事に坂下は嬉しそうに笑うと、おやすみといって俺の家を後にした。
俺も寝室に向かって、先ほど見た映像の不気味さをかき消すように音楽を流して目を閉じた。
__
水の音がする。
身体が生ぬるい温度で包まれている。
日差しが顔に当たってまぶしい。
ゆっくりと目を開けると、そこには___
どこまでも広がる、白いタイルのプールがあった。
「level37…?」
37 かつお @katuo_osakana
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