極端すぎるITの実態

脳幹 まこと

ふたつの狂乱


 先に謝っておかなければならない。

 自分自身が大渦に飲まれているからか、あまり落ち着かない状態で執筆をしている。

 それもあって、話の整理が出来ていないとか、読みにくいといった点が見受けられるかもしれない。

 しかし、どうしても語らずにはいられず、ここに残すことにした。



 IT分野は、今、最高(あるいは最低)にホットな状況になりつつある。

 Chat-GPTと聞けば、誰もが「あーあれね」と思われるだろうが、もうそれすらも数多くあるサービスの一つになってしまった。出た当時は「もう10年は天下だな」と思っていたのに。

「Chat-GPTを制するものが時代を制す」的な関連図書が山ほど出ていたあたり、本気でそう思っていた人は私だけではないのだろう。

 知り合いに聞いた限りだと、AIを卒論のテーマにするのは本気で止めた方がいいらしい。あてにした論文が数日で風化して泣きを見るとのことだった。


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 一つの用途に対してだけでも多くのAIが未来の覇権をかけて争っている状態である。


 画像生成の方面ではStable Diffusionステイブル・ディフュージョンが出ている。既存製品と比べて猛烈に処理が軽く、速く、上手いとのことで、登場してからすぐにシェアが滝登り状態になったとのことだ。オープンソースになったことで、秘伝の術式が全世界に投下され、有志マニアによる切磋琢磨が繰り広げられている。


 またIT技術を使った試みも次々と立ち上がっている。

 高精度の休職・退職リスクの予測であったり、職場と人員の人間関係・スキル差によるトラブル防止であったり、社会の需要と当人の希望をマッチさせたキャリアパス提示など、聞いただけで「あれば理想だけど……」といったものが、実現一歩手前まで来ている。


 そして今、Difyディファイという超新星サービスが生まれて各地で話題になっているらしい。

 自分の知っている知識だけで、語弊を恐れずざっくり語るなら――


「自分オリジナルのAIアプリをレトルトをレンチンするかの如く簡単に作れる」。


 基本的なものなら、大層な準備をする必要もないどころか、プログラムを見る必要すらない。しかも用意されている機能が非常に多く、かつ組み合わせて発展させることも可能と来ている。

 下がりきったAIへのハードルはここにきて、更にもう一段下がったのだ。まるで「AIに関わりたくない(必要がない)」と考える柱を、ひとつひとつ折っていくかのように。



 自分がどうしてこんなことを突然書き出したかというと、仕事の都合で生成AIの片鱗に触れて、モノの見事にカルチャーショックを受けたからだった。


 今までいたプロジェクトでは、プログラムで分からない箇所があったら、一つ一つ自分で解析して、気になるワードなどを片っ端からネットで検索、合ってそうならそれを適用して、ダメだったら別のモノを……という繰り返しだった。

 当然、自分が全く触っていない仕組みに関しては、「分からないところが分からない」状態となり、お手上げだったわけである。

 

 しかし、最近のAIというのは、関係ありそうなプログラム(複数)を丸ごと入れて、やりたいことと困っている現象を連絡すると、即座に原因と解決策(プログラム丸々書いてくれる)を提示するレベルにまで達している。


 助かった反面、非常に恐ろしかった。冗談抜きで眩暈がした。

 これを無駄なく、十全に使いこなしたのなら、普通の案件なら一カ月に該当する作業を一日で片付けても何らおかしくない。すさまじく有能な友人に助けてもらった時の、あの恥ずかしさが蘇った。

 IT企業は分野・業態によって、給料や職場の雰囲気が極端に分かれるものだが「そりゃそうもなるわ」と思った。



 江崎グリコ株式会社がシステム障害で出荷停止となったニュースについても、Difyと同じくして話題になっている。

 その理由は言うまでもない。システムが古過ぎる・・・・からだ。


 誰も直せない。直そうとすると馬鹿みたいなコストがかかる。インターネットが本格的に運用される前の時代だから、情報も知見もほとんどない。なんなら紙媒体だし、当然読みやすさなんて考慮していない。

 自分のいたプロジェクトでも、担当者が「ヒエログリフ」と呼ばれるほどのレガシー・プログラムの内容を、必死に読みほどいていた。

 そういうプログラムを取り扱う相手先は、設備もまた古い。最低限の開発ツールすらろくに入れられない。慎重かつ厳重な執務ルールのせいで、手続きは冗長な上に抜け道も探せない。

 生産性は最悪もいいところで、普通の案件ならば一週間で済む作業に一カ月かかるのもザラにある。


 だがWindowsなどと一緒で、どんなシステムにもサポート期限というものがあり、「そろそろバージョンアップしろよー、そうでなきゃどうなっても知らんぞ」状態になっているのだ。それがグリコを始め、全国の歴史ある企業や地方自治体、公共機関に同時に・・・直撃して、今の状態に至っている。

 関わるものすべてに燃えうつる「そびえ立つ地獄タワーリング・インフェルノ」の完成である。


(※だが誰が責められよう。Windowsパソコンを使っている大半がWindowsの仕組みを知る必要がないと思うように、彼らもまた、改善の必要はないと思い続けてきたのだ)



 IT業界を取り巻く天国と地獄。

 今年、そして2025年は、本当に波乱が巻き起こるだろうな、と身構えている。


 どうしたらいいのだろう。

 理論と経験の武装を剥がされて素っ裸の私に、混沌の渦は容赦なく押し寄せてくるのだ……

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