第4話 恋のライバルはどこにいる?

 オティーリエの話を聞くと元のラノベのウルリッヒ・ベームは王太子の忠臣。

 この世界が反転の世界なら、本来は僕の護衛騎士となって、心許せる存在となってるはずのブルーメ先輩が、浮気して婚約者のルイーザ先輩とうまくいかずにいるのは、ざまぁされるための下地なのではなかろうか?

 もし、僕に前世の記憶がインストールされなかったら、国王陛下から派遣されていた教育係を受け入れていて、そして騎士団長の子供であるゾマー先輩が僕の護衛騎士兼側近になっていただろう。


 ゾマーは僕と同じクラスではなかった。

 代わりに本来断罪されるはずのメイヤーが僕と同じクラスになっていて、しかも婚約者であるユング嬢とは仲が良い。

 こっちは根本的に、僕の側近役がゾマーからメイヤーに代わったのではないだろうか?

 ユング嬢とゾマーの関係性は、本来の流れを組むはずだったのかもしれない。

 意に染まない政略ありきの婚約にメイヤーは婚約者を邪険にして、ユング嬢とゾマーは隠れて愛をはぐくんでいた可能性が高い。


 主役と悪役が逆転した世界では、バカ王子の側近もまたバカ側近だ。

 冤罪をでっちあげ、婚約者に婚約破棄を突き付ける場面では、側近たちも自分の婚約者に破棄を言い渡し、そして断罪返しからのざまぁ展開に陥るのが常だ。

 学園祭の準備期間前に再会したルイーザ先輩の様子を見るに、ベーム先輩は間違いなく浮気の証拠をつかまれて、ざまぁされるんじゃなかろうか? 僕がそこをつついた自覚はある。

 ゾマーはどうだろう? 本来なら両片思いをこじらせた関係になるはずだったけれど、メイヤーとユング嬢の仲は良好。政略は建前で相思相愛の関係を築いてる状態。何よりも僕とはクラスメイトという間柄で、仲良くはさせてもらっているけれど、側近という立ち位置ではない。

 対して、ゾマーが恋心を拗らせて、空回った状態だ。

 もしかしたら、ユング嬢も自分のことが好きだと勘違いして、ユング嬢に対してのモラハラは、好きあった者同士のじゃれ合いだと思っていたのかも。


 う~ん、でもあれ以来、ゾマーがユング嬢に付きまとっているっていう話は聞いてないんだよなぁ。

 ベーム先輩はともかく、ゾマーがメイヤーとユング嬢から、ざまぁされることはないんじゃない?

 女神の采配から離脱したと思っていいのではなかろうか?


「他に何か懸念事項、ある?」

 オティーリエに訊ねると、オティーリエは顔をしかめてぽつりとつぶやいた。

「懸念……と言いますか、ライバルの存在でしょうか?」

「ライバル」

「『しいでき』は異世界恋愛ジャンルのラノベです。当然リューゲン王太子のライバルが登場しますよね」

 かませ役の婚約者ではなく、正真正銘の恋のライバルのことだ。

 ヒロインに悪役令嬢がいるように、ヒーローにだってヒロインに想いを寄せるイケメンライバルが出てくるわけだ。

「アンジェリカ・ブルーメ嬢に恋心を持つイケメンヒーロー?」

 それはたいてい、反転世界では悪役令嬢のお相手になる存在で、大体はざまぁされる王子の兄弟、もしくは王弟だとか王弟の息子、隣国の王族、もっと上を行くと帝国の皇族関係者だ。

 ざまぁされる王子様よりも、身分や立場が上だとか、非のつけどころがない優秀で人格者が、真・ヒロイン悪役令嬢のお相手になるわけだ。


 僕の近辺で言えば、イジーもしくはテオが身内から出てくる候補である。

 なんせほら、国王陛下の兄弟って他国の嫁入りした王妹殿下しかいねーから。それ以外の近しい親族と言ったら、アインホルン公爵とメッケル北方辺境伯夫人のマティルデ様しかいない。

 この場合、悪役令嬢であるオティーリエの相手は、従兄弟であり王家が無視できない地位にいるテオになるんだけど、この二人は親族感覚が強いからか、異性としてまったく意識しあってない。ついでに言うと双方とも好みのタイプではないから、相手にするには論外という姿勢だ。


 と、なると、次の相手と言えば近隣諸国の王族、もしくは帝国の皇族がライバルになるんじゃないかな。

「元のラノベに出てきたライバルってどんな人なわけ?」

「帝国の皇弟殿下でしたね。皇帝陛下とは親子ほどの年の離れたご兄弟で、皇帝陛下と皇弟殿下の間には皇妹殿下が三人いらっしゃいます」

 ラーヴェ王国と近隣諸国に連なる帝国と言えば、ジャードノチス帝国だ。

 あれ? でも確かジャードノチス帝国の皇族って、皇帝陛下とその家族、三人の皇妹殿下、最後の皇弟殿下って、確か生まれてすぐに亡くなったんじゃなかったっけ?

「……皇弟殿下、亡くなってるよね?」

「はい、そこは間違いなく。ちゃんと国葬もされています」

 亡くなったことにして実は生きてたって可能性もあるけど、その場合は亡くなったっていう手を取らなければいけない何かがあったってことだよ。

 その「なにか」は、たいていお家騒動。

 しかし僕らが生まれた年代に、ジャードノチス帝国にその手の内乱の気配はなかった。


 次に考えられるのは、他国に嫁いだ王妹殿下の関係者。

 王妹殿下はさぁ……、母上やテオ伝いにマティルデ様から聞いた話なんだけど、うちの国王陛下と王妃様のロマンスに匹敵する、まさに世紀の大ロマンスで結婚した人なんだよね。

 相手は東側に隣接しているハイレイシス王国の大公殿下。当時は王弟殿下だった。

 王族だから当然のごとく婚約者がいたんじゃないかと思うだろうけど、当時の王弟殿下で現大公殿下は、自分は世継ぎじゃないし、結婚相手は自分で決めるから婚約者はいらんと、当時の国王夫妻に言って婚約者を作らなかった。

 対してうちの王妹殿下はというとさ、何っていうか……、僕らほど酷い扱いはされていなかったけれど、あまり手を掛けられていなかった。これは王妹殿下が王妃の子ではなく側妃の子で、しかも側妃はかなり早いうちに亡くなられていたからなんだそうだ。あと側妃のご実家も歴史はあれど資産は……みたいなところだった。

 王妹殿下の結婚相手を国王夫妻が探している様子もないため、当然のごとく婚約者も決められていない。そんななかハイレイシス王国の大公殿下が、ラーヴェ王国に留学してきて、王妹殿下と出会った瞬間に、公衆の面前でプロポーズをかましたのである。


 いきなりプロポーズされたからと言って、すぐ受けていただけるとは思っていない。でも自分の気持ちは揺らがないので、この学園にいる間に自分という人間を知ってほしい。返事は卒業後に聞かせてくださいと、大公殿下は王妹殿下に言ってお付き合いを開始。

 そして、卒業式の後のプロムで、大公殿下は再度プロポーズし、王妹殿下はそれを受け入れた。

 すげーな、ハイレイシス王国の大公殿下。


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