第3話 本来の役割

 オティーリエが言うには、ウルリッヒ・ベームは軍閥系の出身らしく、幼い頃からリューゲン王太子の傍に付き従っていて、そこで護衛騎士に抜擢されたらしい。

 護衛って言っても本職ではなかろう? まだ未成年の子供だぞ? できることと言ったら、護衛騎士の真似事ぐらいだろうよ。

 あと、軍閥と言ったらやっぱりヒルトのご実家を連想してしまうのだけど、ベーム先輩はヒルトの親戚類ではないそうだ。

「寄り家関係でもありません。あとで兄上に連絡して、配下の家門にあるかどうか確認しておきます」

 ヒルトがはっきりと言い切ってるから、ヴュルテンベルク家との直の関わり合いはないのだろう。

「ベーム先輩……、いやウルリッヒ・ベーム伯爵令息が、リューゲン王太子の護衛騎士になったっていうのは、何かきっかけがあったの? それとも単純に家門から抜擢されたの?」

「確か父親が護衛騎士団長で、幼い頃からリューゲン王太子の遊び相手として、王宮に連れて来ていたということでした」

 き、し、だんちょーって、あの人かー!! 僕がいらねーって国王陛下に突っ返した人!! うわー、嫌なところで繋がってたぞぉ!!

「リューゲン王太子は幼い頃に、乳母だった人物から洗脳まがいのことをされていたようで、それを遊び相手としてやってきたウルリッヒ・ベームに助けられたというエピソードがあるのです」

 乳母……。

「その乳母というのが、昔、国王陛下の同級生だった元男爵令嬢で、伯爵家に嫁いだ人物だったそうです。リューゲン王太子と同じ歳の男の子を生んでいたので、国王陛下がその女性に乳母を頼んだと言う経緯でした」

 それはイジーの元乳母!! やっぱりイジーの乳母は黒だったんだぁ。

「乳母と乳兄弟が排除されて、騎士団長の子供であるウルリッヒ・ベームが、リューゲン王太子の側近兼乳兄弟のポジションについたってことか」

「はい、彼は婚約者とともにリューゲン王太子と恋人となったアンジェリカ・ブルーメを支えるようになるのです。ですが……」

 そう、「ですが」なのだ。実際のベーム先輩は男爵令嬢と浮気中で、ルイーザ先輩との仲も良くない状態だ。

「アルベルト様、ヒルト様。年明けてからの剣術大会のことは覚えていらっしゃいますよね?」

「うん、ヒルトが優勝したよね?」

「あの剣術大会で優勝するのは、ウルリッヒ・ベームでした」

「え?」

 でもベーム先輩、結構初期のほうで敗退してなかったっけ? 決勝戦でヒルトと戦った相手は、上学部の先輩だったけど、ベーム先輩ではなく違う人だった。

 思わず傍にいたヒルトを見ると、ヒルトは何かを考えこむように、腕を組んで目を瞑っている。

「王立学園の剣術大会で毎年優勝しているのは、ウルリッヒ・ベームで、彼が五年生の最期の大会の時にリューゲン王太子が初めて剣術大会に出ることになります。決勝戦で二人は刃を交えウルリッヒ・ベームが優勝を勝ち取り、それ以降の剣術大会で優勝するのはリューゲン王太子になるんです」

 出ねーよ? 僕は剣術大会なんぞには出ねーよ? っていうか剣は使えねーっつーの!!


「ゾマーはどうなの?」

「フランツ・ゾマーはリューゲン王太子と同じクラスになったことがきっかけで、親交を深めることになるんです」


 リューゲン王太子は幼少期の環境と乳母からの洗脳まがいの行為で、だいぶ人間不信を募らせていて、傍に置いている人間は例の護衛騎士もどきのウルリッヒ・ベームのみ。

 というか、ウルリッヒ・ベーム以外、傍に寄ることを拒否している。

 王立学園に通うことになって、周囲には同世代の子供がいるのに、誰もリューゲン王太子には近寄ることがなかったのは、おいそれと高貴な王太子に近づけないというのもあるが、リューゲン王太子が近づいてくるものを遠ざけたことも原因であった。

 そうやってクラスメイトや同学年の生徒たちが、リューゲン王太子を遠巻きに見るだけの状態で、物おじせずに声を掛けてくるのが、フランツ・ゾマーだと言うのだ。

 最初はリューゲン王太子も、ごますり・おべっかいで近づいてきたのだと思って、素っ気ない態度で相手にしなかった。しかし、フランツ・ゾマーはそんなリューゲン王太子に誠意をもって接していき、そしてリューゲン王太子も次第にゾマーの人柄に態度を軟化させていくことになって、最終的には王太子の親友というポジションをフランツ・ゾマーは得るそうだ。

 そしてリューゲン王太子の幼少期のトラウマや孤独を知って、リューゲン王太子に仕えることを決心して側近になっていくらしい。


 フランツ・ゾマーは、素直に好きだと言えることができず、顔を合わせれば相手を揶揄うことしか言えない、幼い頃から好きな相手がいて、相手の令嬢も生来から気の強い性格のせいか、お互い好きだと告げることができず、両片思いを募らせている。

 しかしその令嬢には親の決めた婚約者がいて、それが利益しか考えていない、冷血漢な男なのだそうだ。

 もうお分かりだと思うけど、このご令嬢がウリケル・ユングで、婚約者がゼルデン・メイヤーである。

 ウリケル・ユングは親の決めた婚約だから、自分の気持ちに蓋をし、ゼルデン・メイヤーに尽くすけれど、ゼルデン・メイヤーはこの婚約はあくまで政略であり、そして自分の合意なく決められたことに鬱憤を募らせ、浮気こそしなかったが、ウリケル・ユングに対して冷たく当たる。

 どんどん弱っていくウリケル・ユングに、フランツ・ゾマーは何もできない自分に悲嘆するも、なんとか愛する人を助けようと奔走する。

 一方フランツ・ゾマーの事情を知ったリューゲン王太子は、ユング家とメイヤー家の婚約の穴を見つけ、メイヤー家の後ろ暗い情報を掴み、婚約を解消させるのだ。

 しがらみが消えたフランツ・ゾマーとウリケル・ユングは、ようやく恋人同士となって、リューゲン王太子とその恋人アンジェリカ・ブルーメに尽くすことになるのだと言う。

 まさに王道のラブロマンスの流れである。


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