「会いたい」の気持ちを着ぐるみに包んで。

 ペンギンのカッコよさに惹かれ、髪形を真似た高遠。ヤンキーという言葉とは対照的にとても可愛い幼少期を過ごしていたのですね。
 過去を回顧すれば、思い出が駆け巡り、それはペンギンへの思いを募らせるばかり。
 そんな中、まどろみの中で見る夢。絶壁に立つペンギンの着ぐるみの男性と全種類のペンギン。一羽ずつ、まるでいってきますの合図を交わす様はとても微笑ましいですが、絶壁という場所を考えれば、ヒヤリどころではすまない悪寒が駆け巡りますね……。その直後、高遠の体は冷たい海の中へ。体中を駆け巡る不調は、海中をずんずんと進んでいく様とは反比例していて。それでも、目指すべき場所へ到達すべく、その泳ぎを止めない様は勇ましくとても、気持ちの良いものです。そんな感覚を共有……というよりは自分のものにして、見上げる月は形容のしようがないほどに美しいのでしょう。
 遠巻きに眺めているだけだった高遠。意を決して……というほど大それてはいませんが、話しかけることに成功。が、しかし。会話はぽつりと途切れてしまって。独り言を地面に落とすように、気を落としつつもそれでもどうしてもあきらめきれない高遠の葛藤は相当なものだったでしょう。だからこそ、そこにまだ男性がいてくれたことに対する喜びはひとしおだったと思います。
 その吐露した思いを掬い上げるように、着ぐるみを脱いだ男性……って小学生⁉
 小学生から渡されたその紙は、もしかするとペンギンに会うための紹介状のようであり、ペンギンを見れる場所への招待状のようでもあり。夢の中ながら、夢のようなひと時を。
 夢の続きは、現実で。正夢と見紛うようなペンギンとの邂逅がもし今後あったとして、きっと彼には新鮮な驚きには映らないでしょう。だって、「正夢」という「現実」が目の前に現れただけなのですから。