21グラムの食卓

@tetotettetto

21グラムの食卓


 真っ白なテーブルクロス。真っ白な皿が一枚。

 鈍く光る銀色のナイフとフォークが一組。

 皿の白を彩るように、肉を集めた塊が、一つ。



――創作家はおそらく、21グラムという単語を聞くと、一つの説が頭に浮かぶと思う。

 人の魂の重さは【21グラム】という、嘘か真か真偽なんて不明のよく聞く通説。


 それが本当ならば、人の身体の21グラムを口にすれば、擬似的にであれ魂を食べたと言えるんじゃないかな。

 なんて、誰かが聞けば正気を疑われてしまうような、馬鹿馬鹿しくてくだらなくて魅力的な考えが浮かんでしまったんだ。


 指にするなら、薬指が丁度いい重さだろうか。同じ時を生きたいので、心臓の一部でも良いかもしれない。一緒に呼吸をしたいから、肺の内側、たしか肺胞だっけ、はどうだろうか。

 二の腕も、太ももも、うなじ辺りも良いな。脳はどうかな、他の臓器も捨て難い。

 ああ、味にもこだわりたい。魂に刻まれる程の味にしたい。

 最初は素材の味をと思ったけれど、そのままは美味しくないだろう。不味いのは嫌だ。今まで食べて来た食事の中で、これから口にする食物の中で、一番の、とっておきの、何にも負けない幸福の味が良い。


 それなら、調理方法はどうしよう。

 頬が蕩けると勘違いしてしまいそうになるくらい、ほろほろになるまで煮込んで柔らかくする?

 溢れる旨味を何度も味わえるよう噛み応えも楽しんで欲しいから、じっくりと焼く?

 どこまでも澄んだスープに沈めるのも楽しそうだけど、血の色くらいに赤いソースで、皿にメッセージを書くのも面白そう。

 あれこれと悩むけれど、悩むことすら楽しくて。この高揚感も多幸感も、目の前の君に伝われば良いなと思った。



 ……どの部位ばしょにしようか選べなかったから、全部混ぜ合わせてしまえばいい。そう思ってハンバーグにすることにした。

 切って混ぜて、叩いて混ぜて。出来上がった肉の塊を21グラム計り、丁寧に形を整える。

 コンロに火を付けて、バターを引いたフライパンにハンバーグを乗せれば、じゅう、と弾ける音と共に、肉の焼ける香りが立ち込めた。

 形が崩れないよう、そうっと注意をしながらひっくり返して、焼き目がついた頃に皿へ移す。

 フライパンに残った肉汁へワインを混ぜて、血を数滴垂らし、ハンバーグの上からたっぷりと掛けた。美味しそうな一皿が出来たので満足だ。




『ねぇ、どうかな?』

 身体と同じくらいに、透明にすり抜けた言葉は届くことなんて無い。

 どうかこの魂を、君が美味しいと思ってくれているなら良いんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

21グラムの食卓 @tetotettetto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ