スターライト・ホテルー1

ある田舎町。霧が立ち込める夜道。

降りしきる雨の中を、一台の車が走っている。

ある女性が、強くハンドルを握りしめながら。


何キロ走ったのかよく分からない。

想いのまま走っていたら、町はずれのこんなところに来てしまったみたいだ。

街灯が数メートル先に見えるが、古く劣化しているのか、光が消えかかっている。

それにここはどこだろう。地図も何もない。

使われなくなった古い電波塔や、乗り捨てられた自動車があちらこちらにある。

みな時が止まっているようだった。


女性は、ただ道がある限り走り続けた。

ガラスに打ち付ける雨が激しくなってきたので、だんだん道が見えなくなってきた。

すると、少し遠くにネオンの光の主張を感じた。

ぼんやりと赤と白と青の光が点滅しているのが見える。

「スターライト・ホテル」

その看板にはたしかにそう描かれていた。

こんな辺鄙な田舎に、ホテルがあるのかと疑問に思ったが。

女性は仕方が無い、とそのホテルの駐車場に車を止め、必要最低限の金銭を持って

そのホテルへと向かった。


そのホテルのロビーは薄暗く、人が居るようにはまるで思えなかった。

女性はフロントと丁寧に記された台へ向かい、自分の名前を記した。

「一人で?」

低いトーンの男性の声が聞こえた。

後ろを振り返ると、蝶ネクタイをした男性が立っていた。

女性は驚き、ペンを床に落としてしまった。

不思議なことに、さっきまでゴミだらけだった床が大理石に変わっている。

女性は驚いたが、とにかくベットで横になりたかったので、少し変わった夢だと思う事にした。

「…ええ。一人で」

男性はペンを拾った。

「ようこそ、スターライト・ホテルへ。部屋の空は充分にありますから、どうぞごゆっくりしていってください」

「ええ...。ありがとう。代金は...」

「代金は翌朝で結構ですよ。まずはお部屋にご案内します」

男性は、小奇麗なエレベーター前へと女性を案内した。二階か、もしくは地下か。

エレベーターに乗り込むが、行先のボタンが見当たらない。

そしておかしなことに、天井のライトが大理石に反射していない。

女性は気味の悪さを感じた。

「ひとつお尋ねしてもよろしいですか」

男性はそういった。

「ええ…なんでも」

「なぜ、このホテルにたどり着いたのですか」



「ただ少し遠くへ行こうと思って、気づいたら町はずれに来ていた」

「…なぜ町はずれに?」

女性はうつむいて話し始めた。

「…気分を晴らしたくてその。実は夫に浮気されて。思い切って家を飛び出してきた。同じ空気を吸っているのも嫌になった」

「…良い部屋をご案内しましょう」

男性がそう言うと、エレベーターの扉が開き、たったひとつのドアが出現した。

各フロアに部屋が一つしかないなんて、ものすごく奇妙だ。女性はそう思ったが、案内されるがまま、その部屋に入っていった。






























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