知らなかった男

もうずいぶん、遠くまで来てしまった


君の事を初めて見たときから、たぶんすごく好きだったんだと思う

だけど同性の私には、そんなことをいうことは出来なくて。

何も言えず、この思いを三十年間こころに閉まっていた。


私が四十五歳になっても、君は十五歳のままだった。

おかしいよね。何年経っても、若く綺麗でいられる。

でも君だから、そんなことができたんでしょう。

うらやましかった。



知らないでいたかった。

あなたがあの頃のままでいるという事は、私が生きている事と同期だから。

あなたを想い続けて、五十年がたったころ、あなたが結婚したと聞いた。

そのとき、初めて知った。

あのころの、十五歳のあなたはもうどこにもいなかった。

私は、独房にいたから。

あなたが、どうしても好きだったから、罪を犯した。

悔やみきれないことを、犯した。

でも、これが人間の本質でしょう。ちがいますか。


あまり言葉が出てこない。

あなたに向ける言葉にしては、幼すぎる。

私の想いは、五十年前から変わりません。

あなたがこの文章を知るとき、私は居ません。

あなたの中に、生き続けているのですから。


2005.6.7.  「ともしび」に収録されていた手紙。

人気アイドル・加納幸奈さんに向けて送られた、熱烈なファンからの手紙。

幸奈さんは、この男性の事を何も知らないという。

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