3 神託

彼女はそこで、説明の流れを変えた。

いよいよ、人間の向上と活用が必要という話のようだ。

『でも文明が進むと、環境の限界や社会の統合・複雑化、

生活の向上、武器の強化で犠牲や費用コスト危険リスクが増えて、

従来の政策だけでは代価が増えすぎ、効果も減ってくる。

だからこそ次の時代には、技術活用と利益配分だけでなく、

人々と制度も直接高めて、淘汰の代償を減らす政策が必要。

これはもう理想とかじゃなく、単に算盤そろばんの問題なのよ』


追加イラスト:経済

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093088696382015


『政策の共同考案が仕事になる世界で、何も知らされず、

不安と不満を抱えた遊民ばかり増やしても自滅行為でしょ?

古代の奴隷だったら牛馬のように扱えたかもしれないけど、

一緒にものを考える人達は、そんなことじゃ活かせない。

命の値段も高くなり、あやめるぐらいなら最初から産むな、

産むんだったらしっかり高めて活かせ!ってなるわよね』


うわあ……まったくふたもないなあ(苦笑)。

しかしそうした厳しさも、この世の現実なのだろう。

結局、人はみなかすみを食っては生きられず、

必要な〝富〟を作って、分けることで生きている。

今ではその中に、人間自身の健康や教育も含まれる

ようになった、というだけのことなのかもしれない。


『文明が進むほど、人間や社会は衰える。

そもそも生きやすくなるのが、文明の恩恵だから。

だけどそんな〝文明の逆説パラドックス〟をあなどっていると、

知らないあいだにみんなで〝がえる〟になっちゃうわ。

肉体・精神だけでなく、腐敗、衆愚化、蛸壺化、

利己集団化など、社会的な健康の低下も恐ろしい。

私達自身も、側近種族の専横と暴走を止められなかった』

声が沈んだ。 やっぱり本当は、後悔しているのか。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093077556593526


『でも!』 いきなり明るく、元気な声に驚いた。

『私達の臣下選びは、全てが間違っていたわけじゃない。

弱虫サタンの最大の功績は、惑星文明の発展を助ける中で、

銀河帝国もいずれ必ず同じ状況になるって気づいたことよ』

ああ、一瞬でもなぐさめようとした私が馬鹿みたいだ(苦笑)。


『私達は文明で栄えた。 だからもう、昔には戻れない。

ならば文明の仕組みから、次は何が必要か考えればいい』

しかし、なるほど。 文明開発長官だったサタンが

亡命者達の移住先に選ばれ、後には新皇帝種族として

かつがれ……もとい(笑)、された理由が分かった。


ずいぶん露骨な表現だったが、私は政治記者として、

彼女の論理を否定することができなかった。

必要性と許容性は、政策の両輪だ。

永きに渡り、血で血を洗う覇権抗争を繰り広げ、

あるいは生き延びてきた〝古き種族もの〟達が、

素敵な理想の追求だけを許すはずがない。


イラスト20 新技術:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076782936601


それが可能になったのは、先進軍事技術に加え、

個体群種族の淘汰なき資質向上、

量子人格種族の専制化防止や共通個体の設計、

共用量子頭脳規格、量子頭脳の遠隔通信連携など、

多様な種族の向上と協力を人道的にかなえる技術と、

それらを活かす総合政策を考案できたからこそだ。


『幸せを得続けるには、努力が要る……と?』

『まあ簡単に言ってしまえば、そういうことね。

もっとも、サタンが築いたこの素晴らしい時代、

ある意味で皆がより狡賢ずるがしこく、幸せになれる時代に、

いかに優しく、でも確実にそれを伝えるかは別問題』

彼女はそこで片眉を上げ、意味ありげに微笑んだ。

『それでは今から言うことの、続きが分かったら教えてね』

おっと理解度の確認か? 驚きながらも、はいと答えた。


『いざとなったら、知的種族はどんな酷いこともする。

そうしないと、生き残れないことだってある……けど?』

『賢い種族なら以降の〝無駄〟は避ける、でしょうか?

そもそもそんな状況に陥らないようにする、と思います』

『でも、そんなことができる?』

『それが文明の発展であり、そのための技術と政策です。

それを成し遂げた者達が、次の時代を先導リードする。

逆に今度は、できない連中がおくれをとる』


イラスト21 繁栄:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076785170677


『ただ、そうしたことをあけすけに言い過ぎると?』

『お互いの信頼が下がって、人々の心が揺らぎます。

せっかく平和を手にしても、意欲をそがれる人々や、

再び利己主義に走る種族が出るかもしれない』

『よくできました、大正解!』

ふう! 何だか試験テスト合格パスしたようだ。


安心した私は、思わず舌が滑らかになった。

『神と悪魔は知性の両面、天国地獄は紙一重。

みんなの心が荒れぬよう、夢と希望を知らせたい。

とはいえ油断がさらなる悲劇を招かぬように、

現実的な政策も行って、栄え続けてもらいたい?』

『まさにその通り! 貴方と会えて本当に良かった』


イラスト22 地球:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076787061269


彼女の言葉に喜びながらも、私は再び気を引き締めた。

こんな話を私に語る、彼女の意図は何だろう?

途上種族から先進種族に飛躍的発展を遂げ、

星間社会の模範となった人類に、

自身の願いを実現するための物語ストーリーを、

上手に伝えてほしいということか……。


『まあ私個人としては昔、優しいあの子達に

憎まれ役を演じさせたのも、悪かったと思ってる。

この映像体アバターを使ったのは、

そんな気持ちの表れでもあるのよ』


イラスト23 悪魔その3:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076788454769


『なるほど、お気持ちは分かります……。

冷静な頭脳・温かい心クールヘッド・ウォームハート〟ということですね』

緊張と興奮を抑えて、笑顔でうなずきながらも、

私の心には様々な思いが駆け巡っていた。


当時全ては救えなかったが、今後はもっと救いたい。

必要とあれば、今度は自身が悪役となってでも、

自ら築いた国家の繁栄に貢献したいということか。

自他共に厳しい、名君だっただけのことはあるな。


イラスト24 女神:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076791847980


もっとも、歳月を経た量子人格化種族には、

種族の違いに意味などないのでは?とも思う。

淘汰の回避が可能になった時代に合わせて、

優しい臣下を表に立てただけのようにも見える。


イラスト25 憑依:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076792497175


とはいえ、他の種族ならもっとマシな方法が

とれたのか? と聞かれると疑わしい。

最も若輩じゃくはいの〝最先進種族〟となった人類にとっても、

淘汰なき社会の到来はありがたいことなのだ。


真実は一つだが表と裏がある、という言葉もある。

人は誰しも自分や集団、社会の複雑な利益の均衡バランスで動く。

彼女達も厳しい元〝先帝〟出身者と優しい先住者の間で、

上手うま釣合つりあいを取ろうとしているのかもしれない。


イラスト26 実像:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076793143218


彼女はさらに続けた。

『貴方達の世代なら、皆と協力できるから、

もう少し楽ができるだろうと思う。

だけど、誰かに私達の失敗を繰り返させたり、

サタンの努力を無駄にさせたりする気もないわ。

それじゃあ……もっと詳しい話をいてくれる?』


同意しつつも私は、最近地球で〝種族の向上と協力〟に

関する著作や報道が増えていることを思い出した。

彼女のような〝情報提供者〟と出会っているのは、

私だけではない可能性もある。

サタンが祭司だったなら、今度は人類が預言者か?

さすがは〝神〟と呼ばれた種族、恐るべし(笑)!


いずれにせよ、陽が沈み、月が昇る黄昏たそがれにあっても、

優しい月を見えない所から輝かせているのは、

苛烈かれつな光を放つ太陽なのかもしれない。

私は真剣に、彼女の話を聞いていくことにした。


イラスト27 月夜:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076795137943

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預言 平 一 @tairahajime

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