2 開示

高度の知性と強固な意志を示し、

爛々らんらんと輝く金色の瞳で知られる種族。

白銀しろがね色のうろこに覆われた、

強靭で柔軟な身体に恵まれた種族。

巨大で優秀な頭脳を発達させられる、

たこのような形態すがたの種族。

そして何より、銀河系全域の知的種族をことごと

恭順きょうじゅんさせ、統治した最大最強の軍事種族。

いにしえの時代には神にもなぞらえられた、

〝先帝〟種族の生き残りだ。


イラスト10 〝先帝〟種族:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076761175078


確かにサタンは戦前から戦後にかけて、〝先帝〟種族から

多数の亡命者や避難者、生存者を受け入れており、

事実上の混成種族になっている、という噂もあった。

悪魔に化けた神の原型モデルから、

自らの教訓を聞けるとは、何と意外で皮肉なことか!

しかし歴史の内幕を知るのに、これほどの好機はない。


『貴方が現皇帝種族の考えや本音を知りたいのなら、

役立つ情報を提供できるかもしれない。

なぜなら私達亡命者は、まさにその行動原因を作った、

軍事的専制による失敗の責任者、生き証人なのだから』


ずいぶんと素直に、失政を認めるんだな。

でも政治の両輪は正当性と権力、綺麗事きれいごとだけじゃない。

確か色々な神話でも、神は悪魔より数多く容赦なく、

まつろわぬ者達を滅ぼしているはずだ。


イラスト11 神威:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076761822503


『ただし最初に言っておくけど、

私の後悔は多くの犠牲を出したこと自体にじゃない。

犠牲者よりも沢山の人々を救い、幸せにすることが、

私達の力だけではできなかったことについてなの』


やっぱり厳しい連中だな……でも側近種族が堕落して、

内戦を始めたことについてはどう思っているんだろう。

実際は、彼女達が一部の側近種族と通謀つうぼうして、

腐敗種族を淘汰とうたした、という噂もあるのだが……。


私はそう思いつつも、帝国内戦が人類社会では

ラグナロク、〝神々の黄昏たそがれ〟にたとえられることが

多いというのを思い出した。

本来は、それを言うならアポカリプス、

黙示録もくしろく〟の方が近いのだろうが、

近いからこそ、生々なまなましすぎてはばかられるのだろう。


イラスト12 神話:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076762317196


今では人類も最先進種族に昇格したとはいえ、

微妙な話題の振り方には気をつけよう……、

と思っていると、まるで私の心を読んだかのように、

彼女の方からその話を切り出してきた。


『でも〝全種族の発展〟という建国理念を失った種族を、

私達がわざと自滅に誘導したというのは、考え過ぎよ。

もっとも、罪なき種族の犠牲をさらに増やしてまで、

助けることはできなかったのも事実だけどね』


イラスト13 内戦:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076762563845


来たか! 彼女もそれが言いたかったようだ。

『皇帝といえども、全ての臣民の面倒は見られない。

今進んでいる民主化のもとなら、なおさらでしょう?

国民に分け与えられた権限は、自己責任も伴うのよ』


『サタンは歴史の古い種族だけど、

その上に胡坐あぐらをかくことなく、

帝国種族全体の繁栄を願い続けていた。

だから私達も、彼女達をしろに選んだ。

サタンに協力した貴方達は、賢明だった』

そう言いながら、彼女は私をじっと見つめた。


イラスト14 意図:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076764024256


その言葉を聞いた私は、背筋せすじがぞくりとした。

社会を動かす人々は、

社会全体が争い少なく栄えることで、

利益や安全、誇りを得るはずだ。


私が生まれた日本の歴史でも、天下統一後は

刀狩りと武家諸法度の時代になった。

勝手に城を直したり、私戦に及んだりしただけで、

改易かいえき処分や切腹のにあった。


イラスト15 歴史:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076764641457


戦禍に乗じて不当な利益を図ろうなどとしていたら、

人類もまた〝不運な巻き添え戦闘被害コラテラル・ダメージ〟によって、

滅亡した種族の一つになっていたかもしれない。

何より実際、彼女達のような〝亡命者〟を除けば、

〝先帝〟種族自身でさえも滅びているのだから……。

そんな想像が、脳裏のうりよぎった。


『幸運な時代に甘えるな……ということですか?』

『そう、技術が進めば社会が変わり、政策も変わり、

その政策が次の技術開発を助けて、文明は発展する。

だけどそうした〝文明の循環サイクル〟を重ねるほど、

技術にできることが増え、政策がすべきことも増えていく』


『政策が変わるには、人々自身の向上が必要になるし、

向上できた人々も、活用できなきゃ居ないのと同じ。

モノの生産と分配、ヒトの向上と活用という

4つの政策のうち、後の方までが大事になっていく。

貴方にはそういった〝文明の潮流トレンド〟も、伝えてほしい』

彼女はなおも私を見据みすえて、そう言った。


イラスト16 文明発展図:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076765258867


どうやら私も、重責をまかされたようだ。

そういえば、約260年の天下泰平を享受きょうじゅした

江戸時代末期の人骨は、史上最も貧弱だったともいう。

もしかすると〝サタンの平和パックス・サタナ〟が到来したのは、

新帝種族とその友好種族達の、優しい理想の

おかげだけではなかったのかもしれない。


『人々自身の向上と活用?』

『技術が進んで社会活動が省力・複雑化すると、

人々の仕事は加速度的に進歩する技術を使って、

どんな社会を作るか考える、政策に移っていく』

……確かに、個人や集団にできることが増えるほど、

社会全体でどうすべきかの調整が必要になるだろう。


『言われて動くだけでなく、どうすべきかを決めるには、

より高い教育や、それを支える健康が必要。

必要な時は大勢で動けるが、衆知も活かせるように、

政策の広域化と分権化も必要になる。

ほら、人類の歴史でもあったはずよ。

貴方達にも覚えがあるでしょう?』

ああ、そういえば国際政策の理念にもあったな。

〝人間の安全保障〟とか〝平和と協働〟とか……。


イラスト17 新政策:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076765775399


『技術が低く、食べるだけでやっとの時代に、

資源枯渇や格差拡大が起きた場合、まずは

国民達に領土を広げさせるのが最大の解決策だった。

富を得るための開拓や戦争という技術的政策の中で、

虚弱者・粗暴者・短慮者や時代遅れの組織も

淘汰され、人や制度の問題も〝解決〟した』


『でも、もう少し技術が進んで社会が豊かになると、

富を分けるための経済・社会政策も重要になる。

国力を増す産業投資や犯罪・内乱を防ぐ社会保障は、

技術革新や保健・教育、社会組織の改善にも役立つ。

面白いことに、技術水準こそ違え私達の星間帝国も、

途上種族の歴史と同じ過程プロセスを繰り返していたのよ』

私は反論しようとしたが、できなかった。

彼女達は、そして人類も、現に長年ながねんそうしてきたのだ。


イラスト18 過去:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076767161694

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