預言

平 一

1 対面

表紙:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076833117739


地球通信社の報道記者ジャーナリストとして、

私はサタンに取材会見をすることになっていた。

しかし彼女の映像体アバターは、よく使われる可憐で愛らしい、

猫と人間のあいの子のような姿ではなかった。


イラスト1 魔王天使:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076757119942


サタンといっても悪魔ではなく、異星種族の名称だ。

銀河帝国の先進種族は量子頭脳への人格転移マインドアップローディングを達成し、

高度な情報処理能力と種族人格の形成能力を得たので、

国際機関の理事国のように、帝国の役職も務められる。


サタンはかつて、文明開発長官の地位にあった。

彼女達は銀河系を統一した〝先帝〟種族のため、

〝先帝〟を神に見立て、自らは悪魔を演じるなどして、

当時の人類を含む発展途上種族の文明発展を助けた。

現実には〝神〟の敵対者というより引立て役だったわけで、

何だか熱心すぎる祭司さいしのようでもある(笑)。


追加イラスト 祭司:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093077162070828


しかしサタンは以前、〝先帝〟により近隣恒星の

新星化から救われたという恩義を受けていた。

また、高度な星間文明との急激な接触は、

途上種族の意気阻喪や衰退・滅亡などの危険を伴う。

サタンは〝先帝〟への感謝や途上種族への愛情から、

彼女達なりに最良の支援を考案したようだ。


ところが一方、広大な銀河系を統一するために

軍事力と集権化を重視した〝旧帝国〟では逆に、

強権統治への退行が進んでしまっていた。

そのため生じた側近軍事種族の腐敗と抗争は

統一後も悪化し続け、遂に内戦が起きて帝国は崩壊し、

それに巻き込まれた〝先帝〟も滅亡してしまった。


イラスト2 帝国:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076757860265


そこで新興の技術・産業種族や良識的な軍事種族、

銀河系外周の非酸素・非炭素系種族は、

穏健な文官種族のサタンを次の皇帝にようして

〝新帝国〟を設立し、平和を取り戻したのだ。


私は、その一人に当時の状況を取材するため、

星間通信網ステラネットの仮想空間に入場ダイブした。

しかし、現れたのは黒衣をまとい、

鋭い角と妖しく輝く瞳をもつ、

文字通り悪魔のような姿をした、

だが美しい少女だった。


イラスト3 悪魔その1:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076758136275


身元確認は厳しいはずだが、これは何かの冗談か?

今の皇帝種族にも、ヤバい変人がいるのか?

私はあまり期待を持たないようにしながら、

挨拶あいさつもそこそこに話題を切り出した。


『ああ……皆さんは国家の運営に役立つ、

文明発展についての理論にお詳しいようですが、

貴方ご自身のお考えなどがあったら、

お聞かせいただけたらと思いまして』


『まあ、これは反省なんだけど……、

文明は、技術なくして発展なし。

でも、それだけじゃ続かない。

技術の恵みを上手に分ける政策や、

その政策を支える民度、民度を活かせる組織が

なかったら、いともあっけなく滅びるわ』


イラスト4 滅亡:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076759072163


歯にきぬ着せぬ物言ものいいに、私は再び驚いた。

『おお……これはまたどうも、直接的な表現ですね。

普段のサタンの皆さんの考え方やおっしゃりようとは、

何だか異なるようですが……』


『いいえ、公式見解と中味なかみは違わないはずよ。

時間はあるから、ゆっくり思い出してみて。

しゃべり方が優しいサタンらしくない? 

最初に言わなくてご免なさい……実は私、亡命者なの』


イラスト5 悪魔その2:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076758737185


そう言うと、彼女は私に考えるを与えるかのように、

ゆったりと椅子の背にもたれ、優雅に私を見守った。

……よく考えてみると、表現こそ荒っぽいが、

新帝国の政策方針はまさにその通りだった。


その方針は、今では子供でも知っている、

簡素な文明理論に基づいている。

文明の六要素は〝知る・する・決める、

ヒト・モノ・環境〟だ。


イラスト6 文明の星:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076759639203


文明活動は技術、政策、社会活動からなる。

技術が進めば社会が変わり、

社会が変われば政策も変わり、

その政策が新技術を生んで、文明は発展する。


しかし、技術の利用には物資への具現化、

政策の発展には人々の向上が必要だ。

また、新技術の導入には資源や市場といった、

自然・社会環境が大きく影響する。


文明活動の本体は全国民が営む社会活動だが、

技術は富を生んでそれを豊かにし、

政策は富を分けてそれを健全に保つものといえる。

ただし、両者が社会を助ける経路ルートは1つではなく、

他の要素との関係で4つずつに分類でき、

政策では次のようになる。


イラスト7 技術・政策分類図:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076760133410


第一に、富の生産・安全に役立つ技術を助け、

その健全な開発・利用を促進する技術的政策。

第二に、富を配分・投資する経済・社会活動を助け、

その最適化を図る経済・社会政策。

第三に、共に政策を実現する全ての国民を助け、

健康や教育を高める人的資源政策。

第四に、政策自体を助けて人々の活用・参画さんかく

全種族の協調や民主化を促す行政管理政策だ。


……何とかそこまで思い出した私は、

ふと仮想現実に意識を向け直して、彼女の方を見た。

すると彼女がにやりと笑い、両目を大きく見開くと、

瞳の奥がぎらりと一瞬、まばゆい金色に輝いた。

私は驚きのあまり、思わず身体をこわばらせた。

こ、これは……まさかこいつは……。


『……そう、亡命者。 かつて全銀河系を統一し、

サタンに貴方達の文明化を命じた種族からのね。

実はけっこう大勢いたんだけど、全員帰化して、

そのほとんどが政策形成に深く関わっているわ』


イラスト8 融合:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076760596385


大当たりだ。 彼女は生来のサタンじゃない。

蝙蝠こうもりの翼を持つ猫のような生物、

柔弱にゅうじゃくで臆病……もとい(笑)、心優しく慎ましい、

生まれながらの現皇帝種族ではない。


イラスト9 現皇帝種族:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093076761026269

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