第7話 幻想と現実の境界線
「ねぇ!」
澄矢は何度も平らな石を確保しては、何度石がはねるかを確認しながら、体を斜めにしながら、水切りした。少し離れたところから雫羽が口元に手をあてて言う。すぐ近くでは3両ほどの灰色の電車が陸橋を走り去る。レールを走る音が橋にかかると
少し変わっていた。東の空には羊雲が流れていた。
「ちょっと待って、もう1回飛ばしてみる。さっき3回はできたから次は?」
シュッと力を入れて石を飛ばすと、ちょんちょんちょんと早く飛んで行ったが
最後はぼちゃんと落ちた。
「今回は5回かぁ。あ、ごめん、何?」
「あ、何を聞こうとしていたか忘れた…」
「なんだそれ…」
「あ、思い出した」
雫羽はポンと手をたたく。膝を抱いてしゃがんだ。
澄矢はまた石選びしてしゃがんでいた。
「ねぇ、学校楽しい??」
「……なんでそんなこと聞くの?」
「んー」
顎に指をあてて、少し考える。
「なんとなく」
にかっと歯を見せて笑う笑顔が可愛かった。セミロングのすこし茶色かかった髪が風でなびく。麦わら帽子が強い風で飛ばされそうになると、パッとつかんだ。
「あ、ごめんね、ありがとう。すごい、反射神経だね」
「はい。気をつけて」
雫羽は、帽子をポスっとかぶった。
「それで、どう?」
「そんなに聞きたい?」
「うん。そうだね。澄矢くんのことまだまだ知らないから」
「あー…」
後頭部をポリポリとかいて照れる澄矢は、真剣にごくごく普通の学校の様子を
話し始めた。なんてない他愛のない話を雫羽は、相槌しながら真面目に聞いて
いた。何気ないその態度できゅっと胸が締め付けられた。これってなんでなんだろう。
「楽しそうだね」
話を聞き終えた雫羽は、遠くを見て少し小さく笑った。
「そうかなぁ、どこにでもある日常だし、
全然普通だよ。雫羽さんは?どうなの?」
「私は……」
雫羽が話そうとすると、突然、想像しないような強風が吹いた。
雫羽の麦わら帽子はふわふわと天高く舞っていく。澄矢は言われるまもなく、帽子を追いかけた。その後ろを雫羽も追いかける。陸橋の下にまで流されて、浅い川の上に落ちてしまった。帽子がびしょ濡れてしまう。手にとって、雫羽に渡そうとしたが、そばにいない。電車も走っていない。さっきまで鳴いていたうぐいすもどこかに行ってしまった。周りを見渡してるうちに手元にあった麦わら帽子も消えていた。
急に太陽の光が猛烈に眩しくなった。目を開けていられなくて、思いっきり目をつぶった。
水の落ちる音が聞こえた。台所の蛇口の音だった。キュッと閉めた。居間でいつの間にか眠っていたようだ。透明コップに水道の水を注いで、 一気に飲み干した。汗をかいていた。壁にかけられていたカレンダーを見る。通常通りの並びになっていた。食卓の上に置いていたスマホを見てみた。
日時は5月18日(土)
AM3:23
部屋のベッドに寝ずに居間で寝落ちしてしまっていたようだ。学校も休み。今日はコーチの都合で部活も休み。母親は、珍しく土曜休みを取ったとカレンダーには赤ではなまるのマークを書いてある。結局のところ、雫羽は、夢オチなのか。リアルで会っているのかはよくわからない。学校の話をやけに聴きたがっていた。なんでそんなに聴きたいのか。そんなに自分に興味あるのかと自惚れた考えをしていた。頭をボリボリをかいて、ひとつくしゃみをする。
スマホにメッセージが届いていた。
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