第8話 母へ送るもの

おもむろに体を起こし、スマホのメッセージを確認した。

快翔からだった。

【今日、暇?】

の一言とぐだんと垂れたたまごのキャラクターを送ってくる。

どんだけ暇なんだとふっと笑った。

【特に用事無いけど?】

 時刻はAM4:00になっていた。夜、眠れなかったのだろう。澄矢も朝早く起きていて、メッセージがあることに嬉しかった。もう一度寝るにはなんだかもったいない気がして、服に着替えて、台所で包丁を握る。母が具合悪いときはいつも何かを作って用意していた。父が幼少期に体調を崩して亡くなってから母子家庭で過ごしてきた。2人しかいない家族だから、できない時はお互いに支え合おうと言っていた。

小鍋に水を入れて、だしパックを入れた。木綿豆腐を手のひらで小さめに切り、

鍋に入れてぐつぐつと煮る。近くにお味噌を小皿に置いた。澄矢は、卵焼き器で、白だし入りの卵液を強火で温めたものに流し入れた。くるくると手際よく丸めていく。

今日は割とうまく行った方だった。料理をするのも、こうやって早起きした日しかしない。母の日が近いっていうのもある。特別だ。

 ドアが開いた。

「あれぇ、澄矢、早起きだね。今日、部活でもあるの?」

 母が寝室から起きてきた。あくびをして、髪をぼりぼりと

 かいている。

「あ、おはよう」

「あーー、卵焼き。切れ端食べていい?」

「あ、行儀悪っ」

「別にいいじゃん。うま。上達したね」

 母はできあがった卵焼きの切れ端一口食べて笑顔になった。作って良かったと思った。

「当たり前だろ」

「ふん、よく言うよ。私、今日、仕事だった。早番なのよ」

「あ、そう。ん!」

 澄矢はお弁当箱におかずを詰めていた。カレンダーに今日は早番と記しているのを

 見逃さなかった。

「え、なになに?ちょっと、澄矢ぁ、何作っちゃってるの?」

 母は、嬉しくなって、目が不意に涙がこぼれた。いつも親子喧嘩している2人。不器用だけど、お弁当を作った澄矢は、恥ずかしくて目を合わせようとしなかった。

 自分でもこんなに母に尽くすなんてと、信じられなかった。

「持ってけ泥棒!!!」

「な? ひどい言い方ぁ」

「ふん!」

 恥ずかしくて素直になれない澄矢だった。

「…ありがとう。嬉しいよ。んじゃ、行ってきます」

「朝ごはんは?」

「時間ないから無理。じゃぁーね!行ってきます」

「ああ」

 澄矢は手を振って見送った。母の手には自分の作ったお弁当があると思うと直視できなかった。自分の部屋に戻って、ベッドに横になる。朝ごはんを作ったが、母がいないのなら、食べる気持ちも薄れてしまった。パクッと台所で立ったまま食べた卵焼きでお腹を満たしていた。横になりながら、スマホをチェックする。快翔のメッセージにどこに行くか確認した。母と向き合うのも久しぶりだった気がする。心がほくほくと落ち着いた。雫羽と会って気持ちが上がったからかもしれない。鼻歌を歌ってスマホ画面にタップして快翔にメッセージを送った。

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