第33話 いつもの朝だと思っていた
紫とピンクを混ぜたような夜明けの空を眺めた。今朝は全然眠れなかった。
別に世の中に悲観したわけじゃない。
何となく、外の景色をずっと見ていて、眠くならなかった。
オルゴールを聴いても、映画を見ても、好きな本を見ても寝付けない。
そんな日もある。
スマホのこれまでの想い出の写真を眺めてしっとりした気持ちになる。
幸せなんだろう。きっと、今の自分は。なんだか、ホクホクした。
別に焼き芋食べたわけじゃない。
晴れた夜空には満月が煌々と輝いている。
天候の気圧や月の引力の影響で頭痛がしたからではない。
その日の出来事で体力も精神も使いすぎて、疲れたわけでもない。
ただ、ただなんでもない日をやり過ごしたはずだ。
ぼーと寝ずに朝を迎えた。
いつもはやらない観葉植物に水やりや、コーヒーをブラックで飲んでみるとかやってみた。普段やらないことをやった。
なんでだろう。ペースが乱れて、いつも家を出る時間より遅くなった。
早く起きたというか寝てないのに悔しい思いだ。
澄矢は、玄関のドアを施錠して、大学に向かう。
アパートから地下鉄に揺られて、10分の距離だ。
混みあう車両の中、ワイヤレスイヤホンをつけて、好きな音楽を聴く。
これは朝のルーティンだ。
地下通路を抜けて、横断歩道を渡ろうとする。向かい側に茉大が手を振って待っていた。
澄矢は夢中になって走った。その時に右折してくる車に気づかなかった。
大きなワゴン車に勢いよくぶつかった。空中に体が吹っ飛んだ。走馬灯が駆け巡る。澄矢は、スローモーションに動く。ドンッと、車体にぶつかった後、道路に体を打ち付けて、さらに頭から血がどくんどくんと広範囲に流れた。
(俺、死んだのか……)
今、一体どういう状態なのかわからなかった。記憶がない。意識もない。最後に耳に入ったのは茉大の悲鳴だった。近寄ってきていたのが一瞬だけ見えた。
ずっと起きていたせいか。いつもと違う行動したからか。何が原因かわからない。もしかして、昨日贅沢しすぎて、焼肉食べたせいか。いや、違う。バイトでお客さんに出した生クリームを乗せすぎたせいか。サービスしすぎたからか。それもなんだか違う。雫羽を裏切って茉大を好きになってしまったからか。いやそれも違う。それは理由じゃない。車を運転していた犯人のせいなのは知っている。
命はもう戻せない。
理由が何であろうとも、澄矢の意識は完全に戻ることはなかった。
救急車のサイレンが街中で響いている。
交差点の横断歩道には車のガラスの破片がちらばっていた。
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