第13話 雫羽の真実

1年2組の教室の前で快翔は、澄矢に水城雫羽の情報を伝えた。

エコーのかかったようなその言葉に何とも言えない表情を浮かべる。

廊下から教室の窓から窓へ風が急に強く吹く。

名前も知らない2組の男子生徒が驚いて慌てて閉める。

「水城って、今、入院してるらしいよ。学校に来てないって」

 快翔の言葉に澄矢は嘘だと思っていた。河川敷であんなに元気そうに体を

 動かしていた。足を濡らしてまで、澄矢に川の水をかける姿もあった。水切りをするのに、あっちにこっちに走って平らが石を探すのも見ている。すごく楽しそうだった。その影では、胸をおさえながら、息苦しい素振りを澄矢には隠していた。雫羽がお気に入りの白いワンピースを着て、現れていたあの空間は偽物なのか。こめかみの部分がズキンと痛くなる。 

「澄矢、次って、体育じゃねーの? ジャージに早く着替えないと小杉先生に怒られるぞ」

「え? 今、何時?」

「さっき予鈴チャイムなったから、5分前!」

「やばい。行こう」

 澄矢と快飛は、慌てて、隣の1年1組の教室に移動した。

 澄矢はズボンのポケットに入れていたスマホのカレンダーを確認した。確かに今朝の日にちは5月15日水曜日だったはずだ。よく見るとだんだんと数字が歪んで見えた。また月曜日の隣に三日月曜日が表示される。目をこすって、改めて、確かめる。

 通常通りのカレンダーに戻ったかに思われた。快翔は、「急げ」と急かしてくる。

 脳内に女性の声が響く。

「澄矢くん……澄矢くん……!!!」

 エコーのかかった声だった。雫羽の声に似ている。声量がだんだん大きくなってくる。瞼を閉じた。こめかみが痛くなった。一瞬にして、学校の廊下にいたはずの

 空間が歪み、真っ白い空間に飛ばされた。右も左も上も下も真っ白だった。

 どの壁もアクリル絵の具のすべての白をぶちまけたようなマーブル模様に

 なっている。白には200色の種類がある。どこかのタレントが言ってたポジティブな考え方を思い出す。ちょっとずつ背景を描くように雫羽とよく会う河川敷の景色が浮かび上がる。テレビにうつったような世界に手を伸ばすと虹色の歪みが現れた。

 澄矢は、その中に吸い込まれるように指先からゆっくりと入っていく。

 頭の中に雫羽の声が響く。他愛のない話をしたときの笑い声が聞こえる。

 その時間はいつだっただろうと思い返す。

 もう少しで河川敷に行けると、体全体を猫のように伸ばし、

 指先を伸ばした。フラフープに入るような輪っかをトンネルをくぐるようにふわふわと体が移動した。

 ぽんとジャンプすると、地面は砂利が広がっていた。うぐいすが近くにある木の上で鳴いている。見上げると、鱗雲がもこもこと広がっている。

 今から雨でも降るのだろうか。空は少し灰色になっている気がする。

 砂利の音がした。

 誰もいなかった後ろから誰かが来た。

 

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