第9話 今後とラインの魔法

 「今後のことだが、まずは近くの街を目指すのが良いと思っている。そこで情報や食料を確保して、これからに備えた基盤を構築していく。」


 食事が終わり、一息ついた後に私がそういうと、三人はうなずいた。

 その後、近くの町に行くためのことについて話しているとラームから質問された。


 「ライン様、二つほどご質問がございます。一つ目は、ここは帝国領ですので街には衛兵による検問がございます。身分証がない私たちでは、やすやすと街に入るのは難しい可能性がございます。二つ目は、お金です。食料などを手に入れる際のお金は、いかがいたしましょう。」

 「一つ目の質問だが、これはいくつか考えがある。まずは帝国に助けを求めるというものだ。私やスターの髪の色を見れば、衛兵も察して領主やそれに近しいものに話を通すだろう。次の考えは、私の魔法で衛兵を操り検問を突破するというものだ。これが最も簡単だが、場合によっては帝国を敵に回す可能性がある。私の魔法は侵食したら最後。相手は『侵食する粘性体ベルゼ』になってしまうからな。死んだも同然なのだよ。」


 『侵食する粘性体』の侵食は、新たな仲間を作り出す行為と言っても過言ではない。一度侵食された生物は例外なく『侵食する粘性体』となり、私の魔法の一部となる。さらにその生物が持つ魔力は『侵食する粘性体』の一部となり、私も使用することができる。

 問答無用で相手を味方にできるため、かなり便利な魔法だが、その分魔法を作る際の制約も厳しかったな。


 「でしたら、私の魔法がお役に立てますわ。」

 「スターはまだ基礎魔法しか習得していなかったのではないか?」

 「ええ。先ほどラインには話しましたが、私はまだ基礎魔法しか習得してませんわ。ですが、我が家に伝わる術式『傀儡』は何かを操ることにたけておりますの。私は、その対象を人間にしようと考えておりますわ。人間なら生きた状態で操作できますので、かなり自由度は高くなると思いますわ。」

 「そのためだけに魔法を取得するのは早計ではないか? 魔法は一度取得したら魂の容量を占め続ける。つまり、変な魔法を作ってしまったとしても変えは効かないのだぞ。」

 「心配いりませんわ。これでも私、たくさん考えてきたのですわ。お父様やおじいさまの魔法も見てきましたし、あの戦いで物量の強さも学びましたわ。」


 そう話すスターの目は、一瞬闇を見ているかのように水色の瞳から光を失わせた。


 「ですので、私のオリジナル魔法を使えば門番の件は解決ですわ!」

 「なら、そうしよう。後はお金だが、これも考えがある。盗賊狩りだ。この森は国境に近い。なら盗賊の一つや二つはいるだろう。後は、見つけて襲って奪って終わりだ。帝国領の人間なら魔法を使ってくるかもしれないが、所詮盗賊、大したこともないだろう。」


 私たちの国であったベクン王国では、魔法は貴族と一部の才ある平民のみに与えられる特権的な力であったが、クリローク帝国では杖などの道具を用いることで、魔法への敷居を下げている。つまり、高い魔力がなくても魔法を扱えるように国が支援しているのだ。

 だが、そのような人間は所詮道具に頼る紛い物に過ぎない。使える術式も限られ、結果的に量産品でしかない。一対一では相手にならないほどの戦力でしかないのだ。


 「ライン、油断は禁物ですわ。今の私たちでは、おおよそ四、五倍の人数の魔法使いを直接相手にできると思った方が良いと思いますわ。もちろん、軍属ではないのが条件ですが。」


 一般の魔法使いと、私たちのような訓練をしてきたものでは自力が大きく異なる。私の体感であれば、十倍でも問題なく戦えるだろう。だが、スターは今は慎重であるべきと考えてるいるのだろう。

 この状況なら仕方ないか。その考えに従うとしよう。


 「わかった。では、五倍以上の20人以上の盗賊だった場合、作戦は慎重に考えるとしよう。」


 その場合は、作戦を完璧に練り上げた上での奇襲作戦であれば、滅多なことではこちらに被害が出ないと思うがな。


 「さて、盗賊の探し方だが、基本は『魔力探知』による探索で考えている。意見のあるものはいるか?」

 「ライン君、その場合は魔物にも気づかれちゃうかもしれないけどいいの?」

 「ああ、それは私の魔法が解決してくれる。」


 そう言って、私は一体の『侵食する粘性体』を呼び寄せる。


 「私の魔法『侵食する粘性体』は人間を喰った個体に限り魔法を使える。その魔法で感知したことは、私にも伝わるようになっている。」


 そう言うと、皆驚いた顔で固まっていた。

 まあ、それはそうか。この魔法は禁忌に近いものだからな。


 「ライン様、それはつまり、『侵食する粘性体』は魔物の器と言うことですか!? そして、あなた様は魔人であると!?」


 魔物とは魂を得た魔法生物のことを言う。つまり、『侵食する粘性体』は魔物になり得る生物ということだ。魔物の器は、魔法生命体の中でも魂を得られる魔法生物に付けられる名称である。それと同時に、発覚した瞬間に魔法を封印され、二度と魔物の器を産み出せなくさせられる。それによって新たな魔物の発生を防いでいるのだ。

 今存在している魔物のほとんどは、魔物の器だったとされている。これは、術者の死後であっても魔法は解除されず、魔物の器は人間を襲うことで魂を得て魔物になっているという事である。そのため、現在ではすべての国において魔物の器を生み出す魔法は禁忌とされている。

 現在では、故意に魔物の器を生み出すことは禁止されており、魔法を封印されていない者たちを魔人と呼称し、全ての国で討伐対象としている。


 「私は魔人であり、魔人でないというのが正しい答えだ。『侵食する粘性体』は私の魔力を変化させて作り出している。」


 そう言って、私は『侵食する粘性体』をゆっくり産み出してみせる。


 「そして、これは常識的なことだが、魔力変化によって生み出したものは自分の意思で消すことができる。つまり、これまでの魔物の器のように産み出した後、必ずしも存在し続けるわけではないのだよ。そこが、私が魔人であって魔人でないと考えている理由だ。だが、このことを他人が聞いたら『侵食する粘性体』は魔物の器で、私のことは魔人と感じるはずだ。そのため、この話は他言無用としてほしい。」


 魔法を解除することで、産み出した『侵食する粘性体』を消して見せる。

 三人とも急な話に混乱しているようだが、少なくとも私に対して敵意を持つような感じではなく安心した。


 「では、私は『侵食する粘性体』に周囲を魔力探知で探索するように指示を出してくる。三人は自由にしていて構わない。スター、もしオリジナル魔法で疑問があればフェートに聞くのもいいだろう。彼女もオリジナル魔法を取得しているからな。もちろん、私に聞いても構わないよ。」


 そういって、私は家を出た。

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青き血族 @karera24

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