第8話 スターの持つ魔法

 体が揺らされてるのを感じ、わたしは目を覚ました。そこには私の体を揺らしている『侵食する粘性体ベルゼ』がいた。その状況から、すぐにこの村の村人が戻ってきたと考え、私は『侵食する粘性体』と魔力を繋げた。これによって、他の個体を含めた『侵食する粘性体』の目や耳を自身と同期することができるのだ。

 そこには、村人と思われる男たちが9人いた。やはり狩を行っていたようで、その手には武器となる槍や剣、弓に加えて今回の狩りで狩った獲物の肉や山菜と思われるものを担いでいた。今回の狩りは成功だったのだろうと思われるほど、多くの肉を持って帰ってきていた。

 あれだけの肉があれば、しばらく食つなぐことはできるな。だが、肉はあまり保存がきかない。三人のうちの誰かが『保冷魔法』を使えれば別なのだがな。ラームが所持していそうな気がするので、あとで聞いてみるとするか。まあ、まずは奴らを殺して食料を奪うとするか。

 私はそう考え、眠っている三人を起こし、『侵食する粘性体』に指示を出した。作戦は簡単だ。女子供の姿をした『侵食する粘性体』が本来の姿をした『侵食する粘性体』に、襲われているように見せかければいい。そうすれば奴らは女子供をかばうべく行動するだろう。そこを挟撃すれば簡単に殺せる。

 三人を起こしたのは、単に物音を立てて警戒させるのは申し訳ないと感じたからだ。突然の悲鳴などは、神経をすり減らす要因となりかねないからな。

 

作戦は上手くいった。男たちはやはり、女子供をかばうべく間に入って応戦する構えをとった。そこを『侵食する粘性体』に背後から襲わせることですぐに殺せた。


「ライン様、山菜や解体されている肉等は全て家まで運び終えました。『保冷魔法』を使用して保存しているため、しばらくは食糧に困ることはないと思われます。」

「わかった。ラームとフェートは食事の準備をしてくれ。スター、今後のことについて話し合いたい。」

「わかりましたわ。二人とも、あとはよろしくお願いしますわ。」


 そう言ってフェートとラームに指示を出し、私とスターは机の前に座った。


「さて、今後の指針を立てたいと思っているのだが、その前に二つ聞いておきたいことがある。それは、君の魔法と戦闘能力についてだ。まず一つ目。君はオリジナル魔法を持っているか?」

「持っていませんわ。まず、オリジナル魔法の構想自体もあまり明確にできているわけじゃありませんわ。ですが、あなたの魔法を見て作りたいと思う魔法はできましてよ。」


オリジナル魔法は持っていないか。スターの家柄であれば本来オリジナル魔法を第一に習得させるはずだが、魔法解放軍との戦いのせいで『防御魔法(グラン)』の取得を急がせたようだな。それならあまり戦闘能力も期待できなそうだな。


「次に戦闘能力についてだ。スター、君は攻撃に使用できる魔法を取得しているかい?」

「取得してませんわ。」


 スターはうつむきながら答える。彼女が何を考えてうつむいているのかはわからない。だが、きっと様々な記憶が駆け巡っているのだろう。

それにしても、攻撃に使用できる魔法を取得していないのは意外といえば意外だった。あの戦いでスターが一人ではないにしろ、前線に立ったのは一度や二度ではないはずだ。それにもかかわらず、攻撃性のある魔法を取得していないのは何かしらの理由があるのだろうか。


「そうか。その理由を聞いてもいいかな。」

「お父様のお考えですわ。お父様は「魔法は本来、他人を害するためだけに使用するものではない。だからスターは自分が欲しいと思った魔法を身に着けるんだ」とおっしゃっておりましたわ。だから私は、自分が欲しいと思った魔法を身に着けようと思いましたの。」


スターは、そういうと一度言葉を止めた。そして決心を決めたように話し出した。


「私は人を傷つけるのが嫌でしたの。でも、失って気が付きましたの。傷つく怖さよりも、傷つけられることの方がつらいと。だから、ライン、教えてほしいですの。オリジナル魔法の取得方法を。もう、あなたのおかげで構想はできてますわ。お願いしますわ!」


スターは、そう言って頭を下げる。

 攻撃魔法を取得していなかったのは、父親の考えだったわけか。きっと娘に人殺しをしてほしくないなどと考えていたのだろう。だが、本人は魔法の取得を望んでいる。ならば、私の答えは一つだな。


「いいだろう。オリジナル魔法の取得を手伝おう。だがその前に、魔法を身に着けるにはその魔法の構想にあった術式が必要になるが、スターが構想する魔法を再現できる術式はそろっているか?」

「ええ、ありますわ。我が家に代々伝わる術式『傀儡』をベースにするつもりですわ。」

「それなら、オリジナル魔法取得方法を教えよう。と言っても、基本は基礎魔法と一緒だ。術式で構成された魔方陣を魂に刻みこむ。基礎魔法と違うのは、この時、魔法に制限をつけられるという点だ。」

「ん? なぜ、せっかく考えた魔法に制限をつけてしまうのかしら?」

「そうすることで魔法の効果を高めることができるからだよ。」


そう、魔法の強さはその魔法の容量に大きく依存する。この容量は基本的にその魔法を構成する術式で決まり、魂の容量を超える魔法は取得することができない。だが、魔法に制限を付けることで容量を減らすことができる。基礎魔法は攻撃に転じないなどの制限をかけることで、容量を減らしているものが多い。

また、制限をかける代わりに魔法の操作性を向上させるなどを行うこともできる。射程を短くすることで魔法の威力を上げるなどがその例だ。

これらのことをスターに伝えると、スターは納得しオリジナル魔法について考えだした。


「わかりましたわ。魔法の自由度が格段に高くなるのですわね。少し考えますわ。」

「ああ。私はその間に二人の手伝いをしているよ。他に聞きたいことがあれば遠慮なく聞いてくれ。」


そう言って私は食事を準備している二人がいる家に向かい、二人の準備を手伝った。

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