⑬神居神社と怪奇現象
それは探偵小説の終盤あたりで登場人物を集めて犯人を言い当てるシーンのようで、湖畔まちこの彗眼は探偵のごとく見事に的を射ていた。ダーツで言うところのスリーインザブラックである。履歴書に『科学者兼高校生探偵』の肩書を書き記しても良いくらいだ。
まちこによって注目を浴びせられ、私は口を開かざるをえなかった。
「確証はないよ。観測していないかぎり真実は箱の中さ。だからこの怪奇現象の正体をご存知かと問われれば、私はノーと答える」
「でしたらカレンさんの推測をお聞かせください。憶測でもかまいませんので」
「……」
黙秘権を行使した。そんなことをしないでその場しのぎで適当なことを言えばいいのに、と思うだろうが、湖畔まちこを相手に誤魔化しも、嘘も、悪あがきにしかならない。あがいたところで隙を見せるだけだ。
さて、どうしたものか。より最適にことを進めるにはこの場をどう乗り切ろうか。そんなことを考えていると先手を打ったのはまちこだった。
「……分かりました。それではカレンさん、私たちは何をすればいいですか?」
「驚いた。もっと食いついてくるかと思ったのにずいぶんあっさりと退いてくれるんだね」
思いもよらぬ返事におもわずにんまりと笑ってしまう。これだから湖畔まちこは面白い。
「これでも一応、カレンさんの友達(仮)をやらせてもらってますので。お喋りが大好きなカレンさんが一切話さないのですからそれなりの理由があるのでしょう……家主である晴雪さんにも伝えられないほどの理由が」
気を遣ってくれたのか最後の部分は私にだけ聞こえるくらい小さな声でそう言った。きっと私の心中も察しているのだろう。空気を読んで自分の役割を理解しているあたり、友達(仮)としては百点満点をあげたいくらいだ。
私はまちこの傍まで寄り、彼女の可愛いつむじに手を置いた。
「この怪奇現象は私一人の力では解決できない。たとえ現象を止めたとしても根本的な解決にはならないんだ」
「現象が止めば万事解決じゃないの?」
「そうじゃないんだよ十四ちゃん」
「十四ちゃん言うな。今まで言ったこともないだろう気色悪い」
「つまり私が言いたいのは、この怪奇現象を輝かしき青春の思い出の1ページに書き記すにはまちこ達の協力が必要なんだよ」
「肝試しかなにかと勘違いしてない?」
まちこの優しく数回撫でようとしたが、手の動きにつられて頭を左右に動かし始めた。これでは私が頭を揺さぶってるように見えてしまう。首の座っていない赤ちゃんか。
「さて」、と、バチコンッ、と十四のお尻を平手打ちし、まちこの背中を急かすように押して歩く。
「朝ご飯を食べたあと本格的なお化け退治といこうじゃないの!」
途中で私は腰を折り、まちこの耳元に囁く。
「すこしだけ茶番劇に付き合ってもらうよ」
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観測者のあとがき にゃんこう @Nyankou
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