第14話 ハッピーエンディング
結局、気絶させられたダニエルは警備兵へ引き渡され、王宮へと送られた。
公爵令嬢、および聖女、王太子への殺害未遂事件だ。ダニエルは終身刑が言い渡され、永遠に地下牢暮らしとなってしまったのである。
「でもさー、あの人にとっては、ずっと警備兵見習いのほうがざまぁだった気がしません?」
ヨシノは終身刑にご不満だ。確かに、鍛錬嫌いのダニエルにとっては、永遠の警備兵見習いのほうが地獄だろう。
「いいんだよ、これで。下手に警備兵やらせて、また脱走されたらたまったもんじゃない」
イアンはそう言って、ヨシノを宥める。
二人は正式に婚約し、来年には結婚する予定だ。結婚式の衣装は、ヨシノの希望でお色直しが予定されている。
正式なドレスで式を挙げた後、白無垢と紋付き袴姿で再度お披露目をするとのこと。
エミリーは、ヨシノの白無垢姿が楽しみで仕方がない。
「でも、先輩のほうが早く結婚式挙げちゃいますよね」
ローソン公爵家、ファラユース王家、そしてカリズム王家の間で話し合いが持たれ、正式にカリズム王家の第二王子・ニコルのローソン公爵家への婿入りが決定した。
ニコル第二王子を王位へ推す勢力からの反発は強かったが、肝心の第二王子にその気がないのだ。ニコル第二王子はファラユース王国の護衛も伴って帰国し、国王、筆頭公爵家と何度も話し合いを行った。
その結果、筆頭公爵家には渋々諦めてもらった形だ。
「そうね。結婚式にはご招待するわ」
筆頭公爵家の結婚式だ。大規模なものになるだろう。
◇◆◇
ようやくカリズム王家の別荘が完成する。エミリーはリヒトと共にご挨拶へと向かっていた。
「あーあ……兄上に会うの憂鬱だな」
リヒトは溜息を吐きながら別荘への道を歩く。リヒトは昨晩、リトジャ島へ戻ってきたばかりだ。
「帰国した時にお兄様とは会わなかったの?」
「父上には会ったけど、兄上はまだだよ。兄上はその頃、ライブリー王国にいたからね」
「家出してお父様は怒ってなかった?」
「……逆に謝られたよ。守ってあげられなくてごめんって。あの国は王家の力がまだ弱いんだ。公爵達が強くて」
公爵達が何をしてくるかわからない、そう警戒してファラユース王国の護衛も連れて行った。ファラユース王国の力をバックにねじ込んだようなものだ。
「でも、これからは少しずつ変わっていくよ。兄上は優秀な方だし」
別荘に着いて、王太子へ取り次ぎを依頼しようとしたら、王太子が扉まで駆けてくるのが見えた。取り次ぎはご不要なようだ。
「ニコル……ッ!」
マーストンは、怒っているのか泣いているのかわからない声でリヒトをそう呼び、強く抱きしめた。
「お前が出て行くことはなかったのに。でも生きていてくれて本当によかった!」
リヒトも涙目だ。あんなに憂鬱そうにしていたくせに、と思いつつもエミリーももらい泣きをしてしまう。
「紹介するよ、兄上」
リヒトは兄を引きはがして、エミリーの肩を抱いた。
「俺の妻になる女性だ。俺が生涯をかけてこの人と、ローソン公爵領を守り抜く。だから、兄上もがんばって」
もうすぐ雪のシーズンが終わる。エミリーはマーストンのために、スノボーグッズを召喚してあげた。
でも、使うのは来年になりそうだ。そして来年もきっと彼はこの地にやってくるのだろう。弟と、弟の妻に会うために――。
◇◆◇
「私の隠遁生活ももう終わりね」
エミリーは結婚すれば、夫と共にリトジャ島以外の領地運営にも携わることになる。忙しい日々が待っている。それを父も望んでいた。
隣の大人びた顔のリヒトを見ると、リヒトも爽やかに笑った。
「でも、酒造りはやめないよ。今年からは酒米も栽培するんだ。来年はもっといい酒を作れると思う。でも、やるなら大量に酒造りに適した魔法使いを雇って、大量生産に向けて動こうかな。それをカリズム王国にも輸出したい」
「それ、いいかもね」
日本酒によってローソン公爵領も潤うだろう。そして日本酒ができたら、今度はそれを持って、お父様である国王陛下にも会いに行こう。
「エミリー」
リヒトがエミリーを呼びとめた。
「これ、カリズム王国で買ったんだ。お給料三カ月分には満たないけど」
小さな箱を差しだし、そして跪いた。
「改めて。エミリー・ローソン嬢。俺と結婚してください」
箱を開けると、指輪が収められている。
「結局、公爵家と王家とは話し合いをしたけど、エミリーにちゃんとプロポーズしてなかったと思って」
リヒトは照れたように笑った。
「ありがとう、リヒト。えーと、こういう時ってなんて言うんだっけ? いいですよ、でいいの?」
エミリーも恭しく指輪を受け取った。リヒトが左手の薬指に嵌めてくれる。
そして二人で初めてのキスをした。今度は二人とも酔ってない。大切な大切な儀式の一つだ。
「ところで、貴方のことはなんて呼べばいいの? リヒト? ニコル?」
この世界の彼の本名は、ニコル・ローソンになるのだ。
「どっちでもいいよ、呼びやすいほうで」
そう言って二人でまた少し長いキスをした。
【完】
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ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
途中更新が止まったりいたしましたが、無事完結まで辿りつくことができました。
完結したので美味しい日本酒を呑んできます。読んでくれた皆さまが少しでも楽しめたのなら幸いです。
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