第13話 現れた元カレ!
カリズム王国の別荘建築が始まり、カリズム王国王太子殿下がファラユース王国へ正式訪問しているころ、リヒトが仕込んだ第二回目の日本酒が完成を迎えた。
「やったぁぁぁ~! かんぱーい!」
その夜は宴会だった。ヨシノもイアン王太子も大喜びで、完成した日本酒を味わう。島の警備兵達にも振る舞われた。
みんなが嬉しそうに日本酒を傾ける様子を、リヒトは寂しげな表情で見つめていた。
もう、兄に居場所が知られたことは勘づいているはずだ。カリズム王国の別荘を作ることは、リヒトの耳にも入ったはずだ。
エミリーは、家を出て行くリヒトの後を追った。
「ねぇ……」
背中に呼び掛ける。背中から、リヒトの拒絶の意思が感じられた。
「あの時、どんな気持ちでキスしようと思ったの?」
エミリーは酔っていた。しかし、リヒトは
「単なる出来ごころだった……なんて許さないわ。私はこの島の領主の娘なのよ」
リヒトは困惑した表情で振り返った。
「出来ごころなんかじゃない。俺は、エミリーのことが好きだった」
「過去形なの?」
詰め寄ると、視線を逸らす。何から言おうかと迷っているように見えた。
「俺は……もうこの島にはいられない」
「お兄様が来るから? いつまでそうやって逃げるの? 一生、逃げ続けられるの?」
リヒトは悲しそうに笑った。
「俺は兄上にとって危険な存在なんだ。必ず、俺を利用しようとする者たちが現れる。エミリーにもローソン公爵家にも、迷惑をかけるわけにはいかない。今までありがとう」
リヒトは深々と頭を下げた。
エミリーの胸は締め付けられる。失いそうになって気付いた。イアンが話した提案が、リヒトだけでなく自分にとっても一番いい方法なんだと。
「逃げなくていい……ッ!」
エミリーはリヒトを抱きしめた。初めて会った時と比べ、リヒトの背は大分伸びた。中学生にしか見えなかったリヒトが、大人の男性として腕の中にいる。
一緒にいると楽だった。話すと気持ちが落ち着いて、楽しかった。いつの日からか、いるのが当たり前の存在になっていた。ヨシノやイアンとは別の種類の好きに変わっていた。
「私なら貴方を守れるの。貴方が……」
そんな時、草むらからガサガサと音がする。それと同時にリヒトがエミリーを突き飛ばした。
「イタ……ッ!」
いきなりなにすんのよ、と怒鳴りそうになる声を抑える。エミリーが立っていた位置に、深い槍が刺さっていたからだ。
そして草陰から、男が剣を持って現れた。
「エミリー、久しぶりだな。もう新しい男を作ったのか? この淫乱女!」
「淫乱って……、貴方誰よ?」
「誰って……! お前、俺のこと忘れたのか!?」
エミリーが男をよくよく見ると、それはあのダニエルだった。王太子だったころに比べると、随分と人相が悪くなった。
「俺はお前とヨシノを忘れた日はなかったぜ。この悪女め!」
ダニエルが剣をエミリーに向かって構える。
「安心しろ。お前を斬ったら仲良しのヨシノも、ついでにクソな弟も葬ってやる。あの世で仲良くするんだな!」
「ちょっと待った」
リヒトがダニエルとエミリーの間に立った。そして突き刺さった槍を手に取る。
「俺はお前のこと知らないんだ。自己紹介してよ」
ダニエルは、リヒトに視線を移した。
「てめぇ……ナイト気取りかよ? その淫乱性悪女に騙されて、可哀想な男だなぁ」
ダニエルはこの二年の間で随分と品がなくなったようだ。台詞がチンピラ風味に変わっている。元王太子とは思えないほどだ。
「俺は自己紹介しろって言ってんのに。話が通じないヤツだなぁ。エミリー、こいつなに?」
リヒトはダニエルとの対話を諦めて、エミリーに問いかける。
「元王太子で、私の元婚約者よ。ヨシノに乗り換えて、ヨシノにも振られたの」
エミリーがそう答えると、リヒトは鼻で笑った。
「なんだ、元カレか。どこの世界にもストーカー化する元カレっているんだな。ダサ」
「元カレって言われるとなんか腹立つわね……。私、その人を好きだったこと、一瞬もないんですけど」
二人に鼻で笑われたことで、ダニエルは激昂した。
「ふっざけんなよ金髪クソ野郎! てめぇもついでにあの世に送ってやるよ!」
ダニエルは剣を振りかぶってリヒトに襲いかかる。しかし、リヒトが一閃させた槍に阻まれてしまう。
「偉そうに言うからめっちゃ強いのかと思ったら。そうでもないのな」
相変わらず、リヒトは
「お前……ッ! くっそぉぉぉぉ!」
めちゃくちゃに剣を振り回して、ダニエルは再度襲いかかる。しかしリヒトが本気で槍を振るい、剣をはたき飛ばした。
「あ…………」
手が痺れたのか、右手を抑えるダニエルにリヒトは槍を構える。
「おしまいね、元カレさん」
そう言ってリヒトは槍の柄で首すじを叩いて、ダニエルを気絶させた。
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